2009年 青輝賞


メジャー作品では年々、少年映画が減少しています。
でも真剣に映画監督を目指す若いパワーに期待の年でした。



2009年少年映画大賞「青輝賞」・発表

■発表

2009年青輝賞・作品賞
よるのくちぶえ 素人臭い作品。悩みました。でもこれしかない!
2009年青輝賞・少年映画ベスト5
1.よるのくちぶえ 邦画界への警鐘。あえて学生映画をNo.1に。→ レビュー
2.大阪ハムレット 3人兄弟の悩み。三男の演技が秀逸。→ レビュー
3.ぼくとママの黄色い自転車 健気な少年の一人旅。武井君の真骨頂。→ レビュー
4.おっぱいバレー 中学生たちのお馬鹿な純真さに脱帽。→ レビュー
5.BALLAD 名もなき恋のうた 山崎監督はやや期待外れ。でも武井君が熱演。→ レビュー
5.Beauty うつくしいもの 序盤の少年時代だけなら珠玉の作品。→ レビュー
 次点(佳作3作品) ウルルの森の物語、いけちゃんとぼく、スノープリンス

2009年青輝賞・最優秀少年俳優賞
武井 証 「ぼくとママの黄色い自転車」、「BALLAD・・」堂々主演が2作。
2009年青輝賞・新人少年俳優賞
大塚 智哉 「大阪ハムレット」の女の子願望の三男は絶品の演技でした。
2009年青輝賞・優秀少年俳優賞
泉澤 祐希 「よるのくちぶえ」の存在感。(撮影時15歳なので年齢制限内。)
深澤 嵐 「いけちゃんとぼく」主演。もう貫禄すらある立派な俳優。
桑代 貴明 「ウルルの森の物語」は惚れ惚れする美少年でした。
高橋 平、大島 空良 「Beauty うつくしいもの」の2人。村歌舞伎の男女役が妖艶。
森本慎太郎 「スノープリンス」主演。(演技はもう少し勉強必要ですがオマケ。)
2009年青輝賞・特別賞(シニア・ボーイ賞)
小林 優斗 「ワカラナイ」主演。鬼気迫る少年(高校生)役が頭を離れない。

 

2009年少年映画大賞「青輝賞」・総評

■作品賞について

作品賞は、単に少年俳優が活躍しているだけではなく、「映画」としても印象に残るような内容のある作品を選びたいと考えています。

しかし、本年に限らず最近の邦画・商業映画では、この条件に合致する作品が稀有となってしまいました。原則として「該当作品なし」にはしたくないので、多少レベルを下げてでも選出する事にしています。(ここで言う「レベル」は、あくまで管理人の価値基準ですので、皆様のお考えと異なる点もあると思いますが、ご容赦下さい。)

その結果、選んだのが「よるのくちぶえ」でした。
東京藝大・大学院の修了製作との事ですから、学生映画と言ってもよいでしょう。わざわざ会社を休んで東京まで行き、渋谷のレイトショーで鑑賞した時には、かなり驚きました。挨拶に立ったのは、その辺のコンビニのバイトみたいな監督の遠山智子さん。彼女のどこにこんな映画を撮れるパワーがあるのだろう?

主役の泉澤祐希君の使い方が抜群にうまい。
やや荒唐無稽にも思えるストーリー展開の中で、思春期の少年の心をセリフでなく、演技で表現させた手腕には恐れ入りました。映画終了後のクレジット、いきなり最初に、バンッ!と音を立てるような、泉澤祐希という主役のテロップ! これだけで、少年映画ファンの私はやられました。

しかし、何回か書いていますが、この内容で120分は冗長すぎです。無駄なカットを削り、70〜90分に密度を上げれば、きっと何か受賞していたのではと思います。(同じ藝大修了作品で、真利子哲也監督の「イエローキッド」は、様々な賞を受賞し、とうとう一般ロードショー公開。ちょっと差をつけられましたね。)

いずれにせよ、最近はハイビジョンカメラも簡単に入手できます。高かったフィルムも現像代も要りません。どんな素人でも2時間の長編映画を簡単に撮れる時代になりました。いわゆる商業映画以外の作品に期待するところは大です。
一方、昔はフィルム代が高かったので、無駄にしないよう、絵コンテを練り、何回も何回も練習して本番を撮影していました。今は適当に撮れるため、その弊害もありそうな気がします。

■少年映画ベスト5について

その他の作品について、2009年は少年映画として不満が残る年でした。特に商業映画は、監督など「個人の想い」は抑制され、複数の会社などの「営利」が優先される傾向が強まり、映画は「作品」ではなく「企画」になっています。(そんなの昔から同じ、かもしれませんけど)

そんな中で「大阪ハムレット」は、マンガ原作とはいえ、なかなか誠実さを感じる映画でした。ただ三男を演じた大塚智哉君が出色の出来とはいえ、彼が主役ではなく、少年映画というには少し足りないのが残念でした。(不良中学生の暴力・喧嘩シーンも気になりました。)

「ぼくとママの黄色い自転車」は、武井証君が正真正銘の主役で、見て安心できる、王道を行く少年映画です。ただ作品自体にインパクトが足りません。また主役の武井君のキャラクターも、いわゆる子供番組に出てくる「子供」の域を出ず、武井君には「役不足」の感があります。彼ならもっと難しい役もこなせるはずです。

「おっぱいバレー」は完全な娯楽作品。主役は綾瀬はるかさんですが、中学生5人組の純真さ、爽やかさが本当に印象的で、私も彼ら5人組のチームメイトになってしまった夢をみたくらいです。こんな映画なら商業映画でも歓迎なんですが。

5位は、「BALLAD」と「Beautyうつくしいもの」2本を選出。前者は武井君の達者な演技が印象に残りましたが、全体的には質感が薄い感じがします。(「ラストサムライ」と比べるとかなり見劣りします)
後者はいわゆるインディペンデント系映画ですが、村歌舞伎の男女を少年同志で演じるというシテュエーションが見ものでした。少年時代編をメインに持ってきてくれたら素晴らしい作品だったのに。

次点として「いけちゃんとぼく」、「ウルルの森の物語」、「スノープリンス」の3本を選びました。3本とも少年俳優が主役(又は主役同等)の作品ですが、映画の内容に見るべきものが少なかったことが残念です。ただ5位の2作品との差は殆どなく、かなり悩んだ結果です。特に「いけちゃんとぼく」が残念。深澤嵐くんは本当に素晴らしかっただけに、もう少し脚本を工夫してくれたらなあ。

■個人賞について

今年も最優秀少年俳優賞に迷うことはありませんでした。武井証君。
彼は本当に素晴らしい役者さんです。可愛い容姿だけでなく、大人の役者と同等の気遣いや表現力も持っていると感じました。中学生になっても役者を続けて、本当の実力派俳優になってくれることを切望します。(昨年の最優秀少年俳優賞・広田亮平君の現況が不安なところです。)

少年俳優新人賞も迷うことなく、大塚智也君。
女の子になりたい・・という微妙な役を本当にナチュラルに演じていました。(もしかして、本人にもその気があるのかとさえ・・) 映画予告編のナレーションも彼がしゃべっていますが、セリフがしっかりしています。プロフィールを見るとCMなどのナレーション暦もあるとか。
だいたい子役でも、声優やナレーションが出来る子は演技も出来るようです。神木くんしかり。

少年俳優賞の選定基準ですが、あくまで「子役」ではなく「少年俳優」として考えます。主役の子供時代をほんの少し演じただけでは、いくら可愛くても対象にはなりません。そのため、どうしても年齢的に高めの少年が対象になってしまいます。

泉澤祐希君は現在既に高校生ですが、撮影時は中学生だったとのことで、少年映画俳優に選出。(少年俳優の定義は中学生まで。高校生は特別賞・シニアボーイ賞)

深澤嵐君は文句なし。彼はきっと演技力のある個性派俳優になるのではと思います。ただ今後も主役を張れるかどうかは判りません。その意味でも「いけちゃん」は意義があるのですが、もうちょっといい作品に仕上げて欲しかった。

高橋平、大島空良の2人の無名俳優。歌舞伎の演技がまぶしかった。きっと誰も知らないでしょうからこそ、ここで賞を上げておきたい2人です。

森本新太郎君。ジャニーズと言うだけでネットでは中傷も聞こえてきます。確かにセリフなど稚拙な面もありましたが、映画は真剣に演じており、私は好感が持てました。役者になるなら、もう少し勉強して是非頑張ってほしい。

特別賞は「ワカラナイ」の高校生・小林優斗君。2010年になってから鑑賞した映画ですが、彼の存在感は「誰も知らない」の柳楽優弥君に勝るとも劣らないくらいでした。

■最後に

2009年は、加藤清四郎君が「子ども店長」など大ブレイクし、少年俳優にも光が当たるかな・・と思ったのですが、状況はそんなに変わらないようです。米映画「かいじゅうたちのいるところ」を見ました。これが全米でもヒットしたと聞き、少年俳優が大切にされているようで、羨ましい限りです。

今回、ここで取り上げなかった作品について少し述べます。

まず「20世紀少年」は第2章、最終章が公開されました。主人公の少年時代を演じた西山潤君が、両作とも頑張っていただけに、何か選出したかったのですが、タイトルこそ「少年」とついているものの、少年映画とは呼べません。

「20世紀少年」に出演の西山潤君、澤畠流星君、「沈まぬ太陽」に出演の北村匠海君、この3人は同じ事務所に所属とのことですが、もっと活躍して欲しい。少年俳優として輝く12〜13歳のうちに、マイナー映画でもいいので主演作品を残して欲しいですね。(事務所で「飼殺し」にしている訳ではないでしょうけど、何とかお願いします。)

それから最後に大物?少年俳優・須賀健太君。
「釣りキチ三平」という主演作品を持ちながら、今回は敢えて、ベスト5にも少年俳優賞にも選出しませんでした。まず「釣りキチ三平」は作品自体に見るべきものが少なかったこと。(宣伝の割には、興行的にも大失敗に近い感じでした)

須賀健太君の演技、いや演出にも疑問を持ちました。もちろん長年の子役キャリアに裏づけられた演技自体は素晴らしいものです。(声がかすれて出ない事を除けば。)しかし、一番がっかりしたのは、三平が「スパッツ水着」を着けていたこと。

山奥の野生児・三平ですよ。泳ぐなら裸や褌とは言わずとも、スパッツは無いでしょう。既に大人気者の須賀健太君に対してスタッフが気を使い、肌の露出を避けるため、スパッツを着用させたのでしょうか。もしそうなら、そんな甘い考えで映画に取り組むのは残念としか思えません。

有名になったせいか、どんな作品でも体当たりで取り組む姿勢が、須賀健太君(あるいはそのスタッフ)に欠けてきたような気がするのです。昨年のホラー映画「死にそこないの青」でも同じです。(やはりスパッツ水着)

以上は完全に私の邪推ですので、間違っていたらすみません。でも「三丁目」、「ZOO」、「花田少年史」の頃、本当に体当たりで輝いていた須賀健太君をもう一度みたい、そんな気がして注文をつけてしまいました。(決してスパッツ云々で文句を言っている訳ではありません。)

いろいろ辛口の意見を書きましたが、少年映画を作ってくれた全ての方々に感謝の念は絶えません。また2010年も素晴らしい映画に出会えるよう心待ちにしております。


 

(雑感)2009年キネマ旬報の個人賞選考結果をみて

■キネマ旬報2010年2月下旬号から

昨年に引き続き、キネマ旬報の2009年映画の総括号を見て雑感を掲載します。

映画の評価には、興行収入や動員数など商業的側面と、芸術性での側面があります。両者が一致しないのは近年仕方がない事ですが、キネマ旬報は比較的バランスの取れた評論家が集まると期待して、彼らがどのような映画や俳優を評価したのかが気になります。

もちろん評論家の中に?につく方も少なくありませんが、それは仕方ないことです。
「映画芸術」とか反体制派?の雑誌もあり、その意見は一面でなるほどと思う点もありますが、あまりにヒネくれた評論家が多すぎるので、これはパスしました。

下の表は、キネマ旬報の選考者、今年は54名が1人1票を、2009年度新人男優賞、新人女優賞に投票した結果です。

キネマ旬報採点結果

■新人男優賞

私は未見ですが、「愛のむきだし」という作品の評価が非常に高く、主演の西島隆弘さんが順当に受賞したようです。また「色即ぜねれいしょん」の渡辺大和さんも高評価。(これも未見。)

少年俳優では「大阪ハムレット」の三男・大塚智哉君が5位(3票)なのが嬉しいですね。「大阪ハムレット」自体はベストテンの第15位ですが、大塚君が印象に残った評論家がいてくれて安心です。ただ大塚君に投票した評論家の方も、彼についてのコメントが皆無だったのが少し不満。(単に紙面の都合でカットされたんだと思いますけど。)

映画として「スノープリンス」は選外(投票があった118作品に入らない。即ち投票ゼロ)にも係らず、森本慎太郎君に2票入っています。しかし森本君に投票した評論家2人とも、新人女優賞は桑島真里乃(スノープリンスのヒロイン役)さん。

これは、ちょっと「スノープリンス」関係者と何かあるのでは、とも勘ぐりたくなる気もします。しかもコメントでは、どちらかといえば桑島さんの方を評価しているようですので、ちょっと悔しいかな。

その他、やはり選外の「ワカラナイ」主演の小林優斗さんも2票入っていたことは嬉しい限りです。渡辺大和さんと同世代ですが、これからブレイクして欲しい若手です。

■新人女優賞、その他

新人女優は「パンドラの匣」の川上未映子さんが受賞。小説家が本業なのに女優としても評価されています。これはこれでいいのかもしれませんが、やはり本業の女優さんに受賞して欲しい。

「俳優」専業で頑張ってきた人が、そんなに簡単に素人に負けるような映画界では、将来が心配です。もちろん川上さんを責めている訳では決してありません。男優でも落語家の笑福亭鶴瓶さんに席巻されているのが現状です。(日曜朝の「サンデーモーニング」の張本さんではありませんが、そんな映画界に「渇!」ですね。)

昨年は、評論家の手抜きではと、大いに批判した「該当者なし」
新人男優賞「該当なし」は11人→5人と大幅に改善され、これは良い傾向ではと考えます。
逆に新人女優賞「該当なし」は2人→4人と少し悪化。ちょっと心配です。でも男女の率が均衡してきましたので、2009年は新人男優が頑張った証拠かもしれません。

一方で、少年映画「ぼくとママの黄色い自転車」や武井証くん(新人ではないですけど)は影も形もなく、キネマ旬報では、子供映画として無視されているのが実情です。仕方ないかもしれませんけど、少し寂しいですね。


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