2010年 青輝賞


邦画の少年映画は完全に冬の時代に突入しました。
ミニシアター系の作品を丹念に探すしかありません。

一方で海外作品では良質な少年映画が多数配給されました。
今年から海外作品のベスト5も発表です。



2010少年映画大賞「青輝賞」・発表

■発表

2010年青輝賞・作品賞
ニライの丘 今年唯一の正真正銘の少年映画でした。
2010年青輝賞・少年映画ベスト5
1.ニライの丘 沖縄という独特な土地で成長する少年が見事→ レビュー
2.ACACIA 猪木さんをKOした林凌雅くんの演技→ レビュー
2.くらげくん 14分なのが残念。長編なら文句なしトップ→ レビュー
4.さよなら夏休み 郡上八幡の美しい風景と少年が見事にマッチ→ レビュー
5.手のひらの幸せ 貧しくとも暖かな心。今の日本に欠けるもの→ レビュー
 次点(佳作2作品) トロッコ、誘拐ラプソディ

2010年青輝賞・最優秀少年俳優賞
林 凌雅 「ACACIA」の演技の安定感は大人顔負け
2010年青輝賞・新人少年俳優賞
郡司 大輝 「くらげくん」には驚いた。将来恐ろしい俳優になりそうな。
2010年青輝賞・優秀少年俳優賞
神谷 健太 「ニライの丘」主演。思春期の色気さえ感じる存在感
千阪 健介 「さよなら夏休み」実質主演。ひ弱だった少年の成長を好演
小川 光樹、西須 隼太 「手のひらの幸せ」主演。昭和の香りが本当に涙を誘う。立派!
林 遼威 「誘拐ラプソディ」で好演。まだ幼いが今後に期待
原田 賢人、大前 喬一 「トロッコ」主演。映画は今一つ。でも2人の演技は出色
2010年青輝賞・特別賞 (シニア・ボーイ賞)
小泉 陽一郎 「世界グッドモーニング!!」で悩める高校生を熱演。(実齢はもっと上らしいのですが、あえて選定。)

2010年青輝賞・洋画ベスト5 (2010年より新設)
1.ザ・ロード 世界の終末を生きる父子、壮絶なロードムービー→ レビュー
2.100歳の少年と12通の手紙 余命僅かの少年。こんなずるい脚本なのに..→ レビュー
3.リトル・ランボーズ 少年同志の友情。思った以上に感動作→ レビュー
3.空を歩く少年 意外な結末に唖然。韓国映画の底力か→ レビュー
5.かいじゅうたちのいるところ マックス少年の可愛さにやられました→ レビュー
5.ぼくのエリ 200歳の少女 北欧の吸血鬼。凄惨な美しさ→ レビュー
5.クロッシング 分断された国の悲劇。少年の純真さに涙止まらず→ レビュー
 次点(佳作2作品) 白いリボン、プチ・ニコラ

 

2010年少年映画大賞「青輝賞」・総評

■2010年最優秀作品賞について

毎年、同じことをボヤいています。でも2010年は本当に少年映画不作の年でした。2009年までは、なんだかんだ言いながらも、大手映画会社制作、又は配給の少年映画が一本くらいはあったのですが、全く無くなってしまいました。頼みの綱は、独立系、ミニシアター系、「ぴあ」などの若手登竜門、地方映画だけ。こんな状況がしばらく続くのかもしれません。

そんな中で、最優秀作品賞は「ニライの丘」、「ACACIA」、「くらげくん」の3本に絞ることができましたが、どれも一長一短があり、かなり悩んだ末、「ニライの丘」に決定しました。

「ニライの丘」は、ちょっと異色の世界が新鮮でした。何と言っても決め手は、少年俳優・神谷健太君がこの映画の押しも押されぬ主役だった事。多感な中学生役を豊かな表情で描いてくれた大城直也監督には拍手を贈りたいと思います。

フィルムではなくビデオ独特の色のどぎつさ、意味不明なお笑い芸人のチョイ出演、の2点が鼻につきました。(大阪の吉本興業が沖縄で勢力を伸ばそうとしているのでしょうか。地元映画の発展を支援してくれるのは有難いのですが、悪乗りし過ぎるのは、逆効果だと思います)

しかし、様々なスポンサーの干渉等を大人の対応でかわして、独自の味わいをキープした大城監督の手腕は大したものです。同じ大城監督作品で、主演がやはり神谷健太君の中篇映画「マサーおじいの傘」もDVDで鑑賞しましたが、沖縄の少年への優しい眼差しが印象に残りました。

殆ど話題になることなく、忘れ去られてしまう映画になるのは残念です。どうかDVDにして貰って、多くの皆様に観て貰いたい作品です。

■2010年少年映画ベスト5について

最優秀作品候補だった「ACACIA」と「くらげくん」は、同率で2位としました。

まず「ACACIA」ですが、アントニアオ猪木さんが主演で話題になりましたが、準主役の林 凌雅君が本当に素晴らしい。演技やセリフに不安の残る猪木さんを、林君が絶妙のサポート。林君自身は勿論のこと、猪木さんの好演さえ引き出しています。映画の内容はオーソドックスなものですが、函館のファンタスティックな風景が目に焼きついています。(今年早々に鑑賞した映画「海炭市叙景」の函館市とは全く異なる印象です。どちらも好きな函館。)

もっと林君が前面にでる脚本であれば、文句なしに最優秀作品賞だったのですが、贅沢は言いません。こんなステキな映画をもっともっと作って下さい。(「ステキ」ってことば。本当にステキですよね。ステキなことがもっともっと多ければいいのに。)

「くらげくん」、日本各地のローカル映画祭等で賞を総なめしているようで、その世界では有名な作品です。でも一般の方は誰も知らないかもしれません。(ゲイ・レズビアン関係の映画でも入選しているようですが、これってゲイ映画なの? ちょっと違和感)

たった14分の短編ですが、その独特な世界観に酔いしれることができました。せめて30分以上に世界を拡大してくれれば最優秀作品賞だったのに。でも、それは今後の楽しみに取っておきましょう。

4位は、「さよなら夏休み」。地方制作の映画ですが、緒方直人さん、要潤さんなど大物俳優も大勢出演。でも実質的には千阪健介君が主演と言って過言ではありません。岐阜県の郡上八幡の美しい風景が今も目に浮かびます。脚本もうまくまとまっていますが、もう一つパンチに欠けるところが残念。でも地方映画の見本のような良作。各地でどんどん作って欲しいものです。

5位は、「手のひらの幸せ」。2人の兄弟が極貧の生活から、施設に預けられ、弟だけが里子に貰われていく。兄は成人しても弟の事を思い「弟の幸せが自分の幸せ」。こんな兄弟の映画です。涙なしには見れません。ちょっと現実にはありえないかもしれませんが、心洗われる作品でした。

次点は「トロッコ」、「誘拐ラプソディ」の2本。「トロッコ」は芥川龍之介原作ですが、視点を2人の少年から母親に変えており、結果として中途半端な作品になったのが残念。2人の少年は好演だっただけに。「誘拐ラプソディ」は誘拐される林遼威君の天真爛漫な演技に救われましたが、全体的には平凡な誘拐劇でした。

■2010年個人賞について

「ACACIA」を最優秀作品賞にしなかった代りに、最優秀少年俳優賞は林凌雅君としました。これは文句なしです。あの安定感はどうでしょう。日本人の子役とは思えないほどの貫禄です。もっともっと色んな作品で活躍して欲しいと切に願います。
なぜか最優秀少年俳優賞に選んでしまうと、その後の活躍が激減してしまうようで心配です。一昨年の廣田亮平君、昨年の武井証君、2人ともどうしているんでしょう。また成長した姿をスクリーンで見たいものです。

少年俳優新人賞は今年も迷うことなく、郡司大輝君。男の子なのに男の子が好きになる、非常に難しい役。普通なら、ぎこちなくなるところ、本当に自然に、役を演じることを楽しむかのように、不敵な感じすらしました。昨年新人賞の大塚智也君も性同一性障害の役でしたね。う〜ん、いわゆるgirlish boyが気になるのかもしれません。

ちなみに「くらげくん」の相手役の子役さん、安田蓮くんについては、ここでは何も受賞しておらず、申し訳なく思っています。しかし本作の片岡監督は安田蓮くんに惚れ込んでおり、この映画で3作目の主演、との話を聞いており、安田君に関しては、今回はもういいかなと思って外しました。

優秀少年俳優賞には、「ニライの丘」の神谷健太君は文句なし。演技力の派手さでは林凌雅君に一歩譲りますが、独特のムードは素晴らしいものがあります。「さよなら夏休み」の千阪健介君も文句なし。昭和末期が舞台とのことで、あの年齢で短い半ズボンは恥ずかしかったと思いますが、体当りで演じているのに好感が持てました。

「手のひらの幸せ」の幼い兄弟を演じた小川光樹君、西須隼太君の2人。戦後の浮浪児みたいな服装や雰囲気がぴったりで、2人が立っているだけで涙を誘うような存在感が忘れられません。「誘拐ラプソディ」の林遼威君。彼も幼いのに末恐ろしい俳優魂を見せてくれました。既にいろいろなテレビ番組で引っ張りだこになっているようですが、もう少し成長して12歳くらいになって、また映画で主演して欲しいものです。

「トロッコ」の原田賢人君、大前喬一君の2人。「手のひらの幸せ」とは違い、生意気な現代っ子でしたが、台湾の自然の中で、大切なものが何かを悟っていく様子を自然に演じました。やっぱり彼ら2人にもっとフォーカスした脚本にすべきじゃなかったでしょうか。どうしても女優さんメインにしなければならない邦画の現状はわかりますけれど。

特別賞は「世界グッドモーニング!!」の小泉陽一郎君。最初に写真でみた時は中学生、実際に映画でみた時は高校生かと思いましたが、実際は19歳とのことでした。それでも思春期特有のもろさ、線の細さを非常にうまく演じており、この作品の高評価は、すべて彼の評価であると言っていいでしょう。

■2010年外国少年映画作品ベスト5

邦画だけで2010年を語るのは、あまりに寂しいので、外国映画についてもベスト5を選んでみました。(実際には数年前に制作された作品もありますが、あくまで日本公開が2010年のものという基準で設定しております。)

それで、ベスト5といいながら、7作品もつめこんで。2010年に見た外国作品全部をあげてしまっているじゃないか・・すみません。どれも落とすことができず、全部詰め込んでおります。

個々の作品の感想は、映画日記を参照していただく事として、1位の「ザ・ロード」だけは、ここ数年でもベストの作品でした。世間ではそれ程、高評価ではありませんが、私にとってはツボに嵌ってしまう作品。この荒涼とした世界観、最後にうっすらと現れる希望の光、続きが見たい。

あと特筆すべきは韓国映画の2作品。「クロッシング」は政治的な側面から、かなり話題になりましたが、「空を歩く少年」の方がノーマークだけにやられました。韓国はキリスト教国家だったのですね。でも、少年にあれだけの思いをさせていいのだろうか。そんな2作品でした。

■最後に

冒頭にも書きましたが、2010年は本当に少年映画の数が減りました。質的にはキラっと光るものもありましたが、数的には不作といっても仕方がないでしょう。2010年が底となって、今年からは、また少年映画も作られることを切望します。

さて、昨年同様、今回ここで取り上げなかった作品について少し述べます。

邦画界でヒットし、世間でも大きく評価されている「告白」について、これはどうしても受忍できる作品ではありませんでした。映画としてはよく出来ていると思いますし、私の嫌いな暴力表現が酷かった訳でもありません。ここから下は、少し過激な内容になりますので、読み飛ばして下さい。



私が少年映画を愛するのは、単に「少年俳優が可愛い」からではありません。少年性というものに、無限の可能性を感じるから。自分には無い(もう失ってしまった)夢やロマンを見ることができるから。大人や女性には無いものがある(と信じている)から。

もちろん、これは私の思い込みに過ぎません。実際の少年なんてのは、頭カラッポで、はなを垂れているガキでしかないのかもしれません。でも少年映画ファンとしては夢を託したい訳です。

それに対して、この映画「告白」では、ストーリー上では、あくまで個人の少年犯罪を追及している訳ですが、どうも「少年という存在そのもの」を徹底的にバカにして、貶めているように感じました。(かなり被害妄想ですが) 犯人の少年を追い詰めていく、そのやり方に非常に不快なものを感じた次第です。

これを言ってはお仕舞いですが、松たか子さん(ごめんなさいね。あくまで役柄ですので)演じる女性教師程度の人間に、そこまでバカにされることは無い!なんて感じた訳です。原作者も女性とのことですが、勿論原作を読みたいとも思いません。



「告白」についてはキリがありませんので、ここまでとします。もし、再度鑑賞して、私の思い込み違いであれば、お詫びして訂正します。

さて、2011年はどうなるのでしょうか。少年俳優がトップクレジットにくるような作品は、ないかもしれませんが、多少は期待できる作品もありそうな気もします。ただ、東京ではミニシアターや独立系の映画配給会社がどんどん廃業している実態の方が深刻かもしれません。

シネコンは正直言って、非常に快適空間です。ただ、どこへ行っても、同じようなお気楽映画しかやっておらず、このままではシネコンも淘汰されていくのも時間の問題かもしれません。これまで粗悪な環境の映画館でしか見れなかった独立系の映画や、洋画少年映画などが、シネコンでも上映されるようになってくれればよいのですが。

ネガティブなことばかり書いてもダメですね。「上を向いて歩こう」でも聞きながら、いい映画をみたいものです。


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