2011年 青輝賞


邦画の少年映画の冬。春の光は見えそうにありません。
しかしそんな時代の中で、なんと中学生監督登場。次代に期待です。

海外作品は、今年も選ぶに困るほどの豊作。でも興業的には厳しい。



2011少年映画大賞「青輝賞」・発表

各賞の発表です。


2011年青輝賞・作品賞
奇跡 是枝監督の子役演出は、さすが一級品。
2011年青輝賞・少年映画ベスト5
1.奇跡 少年3人が鹿児島を旅立つシーンは鳥肌。→ review
2.やぎの冒険 まさかの中学生監督。でも素晴らしい。→ review
3.ふるり 05年の幻作品が、やっと日の目。→ review
4.おとこのこ 短編、厳しい苛め。この中に少年映画が凝縮。→ review
5.エクレール お菓子放浪記 戦後の復興は、こんな少年達がいたからこそ。→ review
 次点(佳作3作品) ロックわんこの島、ラビット・ホラー3D、RAFT

2011年青輝賞・最優秀少年俳優賞
吉井 一肇 彼の美しい声は全てを魅了。(中国でも)
2011年青輝賞・新人少年俳優賞
上原 宗司 話題は中学生監督だけでなく、彼の演技にも注目。
2011年青輝賞・優秀少年俳優賞
前田 航基、前田旺志郎 漫才で鍛えた度胸は風格さえ感じる。兄弟で表彰。
澁谷 武尊 「ラビットホラー」でタダ者でない実力を発揮。俳優を続けて欲しい
土師野 隆之介 「ロック」主演。小さい身体のどこにあのパワーが。
田中 祥平 「ワラライフ!!」準主演は立派。今後どう脱皮していくか。
三輪 泉月 「WAYA」での可愛さは出色。もっと勉強して大成して欲しい。
2011年青輝賞・特別賞 (シニア・ボーイ賞)
本郷 奏多 「ふるり」は2005年に見たかった!(2回目の受賞)
清水 尚弥 マイナーキング。不遇の超美少年。次はメジャー作品で。

2011年青輝賞・洋画ベスト5
1.未来を生きる君たちへ 怒りの連鎖を破るには。究極の課題。→ review
2.バビロンの陽光 イラク少数民族の苦悩。少年と祖母に涙止まらず。→ review
3.蜂蜜 静かな森の世界。幼い少年の幻想に感動。→ review
4.モールス 北欧版とは違う凄惨な美しさ。→ review
5.ペーパーバード スペイン動乱下、したたかな少年に拍手。→ review
5.リアル・スティール 文句なしのエンターテイメント!→ review
 次点(佳作3作品) super8、黄色い星の子供たち、メタルヘッド

 

2011年少年映画大賞「青輝賞」・総評

■2011年最優秀作品賞について

本年も邦画の少年映画は寂しい限りでした。少年俳優がトップ・クレジットであった長編4作品を対象とすることにしました。
・「奇跡」(前田航基君)
・「やぎの冒険」(上原宗司君)
・「エクレールお菓子放浪記」(吉井一肇君)
・「忍たま乱太郎」(加藤清史郎君)

どうしてもコレ!という決定的な作品がなく、消去法で落としていくしかありません。少年俳優の活躍度よりも、作品そのもののレベル感を優先させる事にしました。「忍たま」は面白い事は確かですが、映画としては評価できず、1番最初にドロップ。

「エクレール」はラストなど感動しましたが、やや強引でご都合的な脚本が目につき、2番目に落としました。「やぎの冒険」は中学生監督とは思えないほど完成度の高い作品でしたが、ストーリーに起伏がなく、やや退屈なことから、この時点で大賞にするのは、まだまだ尚早だと考えました。

そうして結局残ったのが、「奇跡」でした。こんな言い方をすると、しぶしぶ選んだみたいですが、やはり是枝監督の作品ですので、完成度で他の3作品を大きく引き離しており、順当であると考えています。

まえだ兄弟のキャスティングが発表された時は、正直言って不安の方が大きかったのですが、2人をしっかりコントロールして、嫌味の全くない、素晴らしい演技を引き出したことは本当に素晴らしいと思います。(もっと正直に言うと、不安というより、不満でした。物怖じはしないと思うけれど、ルックスも含めて新鮮さに乏しいし。)

色々なインタビュー記事を見ていると、まえだ兄弟が是枝監督を心から尊敬している様子が伝わります。売れっ子漫才師の子供たちを、ここまで心服させたことが、この映画の成功の要因かもしれません。

一方で不満もあります。まえだ兄弟主演とはいえ、この作品は群像劇であり、どうしても少年映画としての味が薄まってしまいます。「スタンド・バイ・ミー」のような強烈な印象が残らず、この作品に出てきた鹿児島名物の「かるかん饅頭」のような、ぼや〜っとしたものになってしまいました。

鹿児島の3少年(前田航基君、林凌雅君、永吉星之介君)に思い切って焦点を絞り、3人の目線で進行してくれれば、もっと印象に残ったのではと思います。この3人が、いろいろ旅への工作をして、ついに鹿児島駅から旅立つシーンは、なぜか涙が出そうになるほどワクワク感がありました。でもその後は、全く尻切れトンボ。詰めが甘いというか、ぬるいというか。

これはこの作品だけでなく、あの強烈だった「誰も知らない」以降の作品全てに共通するように思います。「花よりもなほ」、「歩いても歩いても」など、決して失敗作ではなく優れた映画なのですが、そこそこ程度で止まっています。それが証拠に「誰も知らない」以降の作品で海外で大きく評価されたものはありません。(カンヌ映画祭へもお呼びがかからなくなってしまいました。)

もう映画監督は辞めて、若手育成とプロデューサーに専念するのでしょうか。まだもったいない。次はガーンと一発、正真正銘の少年映画を撮って欲しいもの。

■2011年少年映画ベスト5について

ベスト1は「奇跡」。(最優秀作品賞とベスト1は当然同じです。なので、ベスト5は最優秀作品以外から選出しようとも考えましたが、当面は重複させることにします。)

2位は「やぎの冒険」。沖縄の何ともいえない、ちょっとだるいムードが満点の映画。監督の仲村君は才能があるとは思いますが、中学生監督が2位に入ってしまうとは。日本の少年映画の現状はこんなものです。2009年には東京藝術大学の学生映画を大賞にしましたが、ある意味、それよりも衝撃的かもしれません。もちろん、数多くの大人の手が入っていたと思いますが、それでも、ここまでのものを作れるとは素晴らしいことだと思います。

3位は「ふるり」。2005年制作ですが、公開されたのが2011年という事で選出しました。正確には少年映画というよりも女性映画なのですが、本郷奏多君の魅力が存分に描かれていましたので、ここに入れて問題はありません。なぜこの映画がお蔵入りになってしまったのでしょうか。

4位は「おとこのこ」。ndjc(若手映画作家育成プロジェクト)で製作された超マイナーな映画です。30分という短編ですが、若い監督が力を込めて作っているだけに、下らないテレビ局製作映画よりもずっと心に残るものがあります。イジメ描写が強すぎるのが難点ですが、清水尚弥君、吉原拓弥君の2人のドラマが印象的でした。劇場公開はなくても、なんとかDVD化を切望するものです。

5位は「エクレールお菓子放浪記」。主役の吉井一肇君に引っ張られて、なんとかベスト5入り。実話に基づく原作があるのですが、それを忠実に描くあまり、一つ一つのエピソードが作り話っぽくなったのが残念です。それでも、戦後の日本を復興したのは、こんな庶民のパワーがあったのだろうなと、感動させられました。

次点の「ロックわんこの島」。フジテレビ色が強すぎるのが難点ですが、少年俳優の熱演だけは120%評価できます。「ラビット・ホラー3D」も、セーラー服の女子生徒キャーキャー系のワンパターンではなく、意外にも少年俳優が地に足をつけた演技で、思わぬ拾いものでした。

「RAFT」は「おとこのこ」と同じ30分のndjc作品。やや薄味の作品でしたが、吉岡澪皇君の不思議な演技に好感が持てました。

■2011年個人賞について

最優秀少年俳優賞は、まえだ兄弟と吉井一肇君で迷った結果、中国のアカデミー賞と言われる金鶏百花映画祭国際部門で、史上最年少で最優秀男優賞を受賞したこともあって、吉井君に決定。

正直言って中国のその映画祭の事は全く知りませんでしたが、世界20数カ国の作品の中からの選出との事で、吉井君の演技が評価された事は素晴らしいと思います。柳楽さんのようなプレッシャーを受けることなく、じっくりと勉強していい俳優になって貰いたいものです。

新人少年俳優賞は、上原宗司君と「WAYA」の三輪泉月君で迷ったのですが、映画の出来を優先して上原君に決定。失礼な言い方かもしれませんが、沖縄とは思えない都会的な容貌が印象的でした。昨年の「ニライの丘」といい、沖縄映画には期待していますので、いい俳優になって欲しい。

優秀少年俳優賞は、まず問題なく、まえだ兄弟。
私はどちらかといえば、お兄ちゃんの前田航基君の実直な演技を評価しています。もちろん弟の旺志郎君とのコンビがあってのことなので、2人一組での表彰です。ただ、キネマ旬報の2011年映画総決算号をみると、新人男優賞に投票されているのは前田旺志郎君ばかり(立読みですので、詳細な数字は覚えていませんが)。これはどうしたものでしょう。お兄ちゃん、頑張れ。

澁谷武尊君。幼くて華奢、今にも折れそうな子供から、段々と邪悪な存在に変っていく。大人顔負けの演技力でした。諸事情で子役を辞めるようですが、またいつかスクリーンに再登場する日を待っています。

土師野隆之介君。この小さな身体で堂々の実質主役。しかもスクリーンの中では、大人の俳優よりも、彼が出てくると安心感が広がる、こんな不思議な魅力の持ち主です。これから大化けするかもしれません。

田中祥平君。「花よりもなお」、「歩いても歩いても」の美少年も、かなり成長しました。今回の「ワラライフ!!」という作品の性格上、仕方がないのかもしれませんが、表情が暗くなってしまったのが気になります。今は成長という脱皮期間中ですので、一皮向けて、いい青年俳優になって下さい。

三輪泉月君。名古屋にこんな可愛い少年がいたことに驚きです。(愛知県の皆様、すみません。どうも「素朴な」顔の方ばかりの印象でしたので) これ1本で終りか、これから化けるか、全く未知数ですけれど、もう1本くらい作品を見たいものです。

その他、ここに選ばなかった少年俳優について。加藤清史郎君。まだ人気があるうちに、いい映画に出て欲しいもの。 吉岡澪皇君。「アキレスと亀」以来、久々に見ましたが、もっと出演して欲しい俳優です。

佐原弘起君。「ロック」の終盤、ほんの少しの出演でしたが、彼の笑顔は2011年のベストスマイル賞に値するものだと思います。犬と少年のツーショット。これが好きなんです。

特別賞は本郷奏多さん。「ふるり」出演当時は14歳ですが、現在は成人されているので、また特別賞とさせて頂きました。いい素材の少年俳優でしたが、なにか少しだけ運がズレていて、今一つ昇華しきれなかった残念感が漂う俳優さんです。冷たい目をした暗い少年のイメージを脱却して、同期の三浦春馬さんのような、明るい俳優になって欲しいものです。

もう一人。清水尚弥さん。ここ数年で特に個人的な思い入れが強い少年俳優です。所属事務所にパワーがないせいなのか、テレビや映画ではいい役が貰えません。でも、ndjc、ミニシアター系の映画では、かなりの主演作があるようです。ただ悲しいことに、大半は見ることができません。なんとかDVDででも彼の美少年ぶりを見たいものです。

■外国少年映画作品ベスト5

貧弱な邦画に比べて、外国映画は豊作の年でした。詳細は、結果とreviewを見ていただくとして、ここではごく簡単に感想などを書きます。

映画そのものには本当に感動したのですが、その作られた背景を見てみると、政治的な臭い、プロパガンダの臭いがするものが多々あります。特に西欧側論理の正当化を目的とするようなものも。

そこまで裏読みすると、気分が悪くなりますので、ここでは敢えて目をつぶり、映画の中だけに押しとどめて、人間ドラマとして感動できたかどうかで判断しました。

1位は「未来を生きる君たちへ」。この映画に出演している2人の少年のうち、エリアスというスウェーデン人の少年が今でも気になります。ブサイクと苛められていた少年です。彼の優しさが2011年のベストです。

イスラム圏の「バビロンの陽光」と「蜂蜜」。日本やヨーロッパの50〜60年代を彷彿させるような、深いレベルの少年映画でした。どうして今の日本では作れないのでしょう。

ハリウッド作品では「リアルスティール」、「super8」、「メタルヘッド」と少年俳優大活躍の作品群。日本では全く人気が出ませんでした。そんな時代なので仕方がありません。

■最後に

昨年は、マヤ暦の秘密とかなんとか、2012年終末説のようなものが流行りました。いつの時代に末法思想はあるものです。少年映画の世界では、既にここ数年で終末を迎えてしまったので、後は底を打って、上昇するだけ、と楽観的になろうと思っています。

少年映画の最後の砦だった、ミニシアターがどんどん廃業する流れが止まらないのは心配です。フィルムからデジタル上映になっていくのも仕方ありません。

それよりも深刻なのは、違法コピー蔓延でDVD製作費の回収が出来ないため、DVDすら作られなくなる時代になったことです。これは本当に何とかならないものでしょうか。2012年、映画産業そのものが終末にならないように、関係者の方々で知恵を出し合って欲しいものです。


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