2012年 青輝賞


毎年、毎年、同じことを言って申し訳ございません。
「2012年、ついに少年映画は壊滅した」と言っても過言ではありませんでした。

いや、少年映画に限らず、独立系・ミニシアター系の映画の壊滅が進んでしまった。
映画文化そのものが大きく変化してしまった。デジタル化の陰で。

しかし。そんな中でも、少年映画の芽は、地方にしっかり残っています。
この文化遺産を守っていきましょう。



2012少年映画大賞「青輝賞」・発表

各賞の発表です。


2012年青輝賞・作品賞
(該当なし) 本当に残念ですが、作品賞は無しとさせて頂きます。
2012年青輝賞・少年映画ベスト5
1.からっぽ 清水尚弥君の身体を張った演技に脱帽。→ review
2.ふるさとがえり 「志を果たして何時の日にか帰らん」涙です。→ review
3.めでたいヤツららら 短いが印象的。20分の短編なのが惜しい。→ review
4.武蔵野S町物語 意外な結末。少年時代の思い出が切ない。→ review
5.ワーキング・ホリデー 原作には遠く及ばないが、林遼威君は好演。→ review
5.Good Luck 恋結びの里 昭和的、牧歌的な少年の夢が微笑ましい。→ review
 次点(佳作1作品) MY HOUSE
2012年青輝賞・最優秀少年俳優賞
林 遼威 (12) 何と言っても、演技への姿勢が素晴らしい。
2012年青輝賞・優秀少年俳優賞
花岡 拓未 (14) めでたいヤツ。この躍動感と存在感は本当に素晴らしい。
熊崎 雄大 (11) ふるさとがえり。準主役を堂々と演じました。
横山 幸汰 (12) S町。とにかく、はじける笑顔が印象的でした。
山本 正成 (13) Good Luck。監督さんが評価しなくても、私は評価します。
村田  勘 (15) MY HOUSE。難しい中学生役でしたが、好演でした。
佐藤 詩音 (11) S町。同世代の子役とは段違いの演技力でした。
2012年青輝賞・特別賞 (シニア・ボーイ賞)
清水 尚弥 (17) 2年連続受賞。本当に裸ひとつの役者魂は大したもの。

※青輝賞・新人少年俳優賞は、本年度から廃止しました。(理由は総評欄で述べる予定です)


2012年青輝賞・海外少年映画ベスト5
1.ヒューゴの不思議な発明 映画へ愛もさることながら、映像が美しい。→ review
2.ブラック・ブレッド 少年は、真実を知って純真さを失っていく。→ review
3.瞳は静かに 少年は、成長と引き換えに純真さを失っていく。→ review
4.ものすごくうるさくて ありえないほど近い 特異な能力を発揮する少年。母はどこまで立入るのか。→ review
5.少年と自転車 愛に飢える少年。それゆえ疎ましがられる。悲劇。→ review
 次点(佳作2作品) 幸せへのキセキ、少年は残酷な弓を射る
2012年青輝賞・最優秀海外少年俳優賞(本年度より新設)
エイサ・バターフィールド (15) 緑の大きな瞳。吸い込まれそうな魅力。

 

2012年少年映画大賞「青輝賞」・総評

■2012年最優秀作品賞について

2008年、独断と偏見で「少年映画大賞・青輝賞」を設定しました。
初回(2007年度公開作品が対象)こそ、作品賞は該当なしでしたが、それ以降は、ハードルを下げてでも、その年に印象に残った作品を選定する方針を貫いてきました。

しかし2012年。どうしても、どんなにハードルを下げても、やはり少年映画大賞として納得のいく作品が見当たらず、ここに涙をのんで、該当無しとしました。(大げさで申し訳ありません)

それでも候補に上げたのは、「からっぽ」、「めでたいヤツららら」、「ふるさとがえり」の3本。

「からっぽ」は、非常に丁寧に作られた少年映画であり、大賞にするか本当に迷ったのですが、主演の清水尚弥さんが、やや高齢であること、作品としての盛り上げ方が弱く、結果として、感動や共感がやや不足したこと等から、外す事にしました。

一方、大変印象に残ったのが、「めでたいヤツららら」です。えぇい!これを大賞にしてしまおう!と何度も思ったのですが、何とか踏み止まりました。やはり20分の短編であり、そもそも兵庫県豊岡市のPR映画ですから、「少年映画の要件」を満たすところまでは、達していないと考えました。

「ふるさとがえり」は、第2回お蔵出し映画祭で、たまたま出会った作品。地方製作の映画ですが、なかなかの感動作、力作でした。ただ、少年俳優は活躍しますが、主役ではなかったこと。これが引っ掛かり、決定には到りませんでした。

日本では、シネコンにかかるようなメジャー系の作品で少年映画は、もう全く期待できません。それを補ってくれたのが、地方製作映画や、ミニシアター系、若手監督でした。しかしそんなマイナー作品も、製作はされたけれど、公開する場所が無くなってしまいました。

実は2012年、「ガマゴリ・ネバーアイランド」、「またいつか夏に」など、地方製作の少年映画があるのですが、とうとう鑑賞できませんでした。東京や大阪といえども、これらの映画を上映する映画館は無くなってしまいました。後はDVD発売を待つだけですが、これも厳しいのかもしれません。

ネット配信で鑑賞するとか、映画も新しい形になっていくのでしょうか。あまり悲観していても仕方がありません。来年度はどうなるか、期待して過ごしていきたいと思っております。


■2012年少年映画ベスト5について

1位は、「からっぽ」
存在感の無い中学生が、孤独感にさいなまれると、瞬時移動(テレポート)してしまう、という、非常に奇抜な設定が面白い。しかも移動先を自身でコントロール出来ず、移動した時は全裸になってしまう。この主人公を演じた清水尚弥さん、本当によく頑張りました。

しかしレビューでも書きましたが、この面白いドラマ設定を、最後まで活かしきれていません。いつの間にか、清水君ではなく、女性が主人公になってしまっているのも不満です。もう一度、監督さんにはトライして欲しいものです。

2位は、「ふるさとがえり」
映画監督になる事を目指して東京に出た青年。しかし夢の半ばで故郷へ戻ってきた。そして少年時代の回想が始まる。一見ありきたりですが、地に足の着いた脚本が素晴らしく、思いもかけず感動しました。少年時代の挫折と夢。そして最後のどんでん返し。いい映画でした。

3位は、「めでたいヤツららら」
これはもう、四の五の言いません。たった20分です。とにかくyoutubeで鑑賞して下さい。主役の花岡拓未君が可愛い。それだけ。監督の呉美保さん。是非、今度は長編映画を撮って下さい。花岡君がまだ少年のうちに。

4位は、「武蔵野S町物語」
これも地方映画で、結局、地元以外で公開はありませんでしたが、DVDが全国発売。2位の「ふるさとがえり」とよく似た構造の脚本でしたが、地元の町おこし系の色合いが強く、やや感動が不足です。それでも少年俳優たちの元気一杯の姿が爽やかでした。

5位は、「ワーキング・ホリデー」
実は2012年で一番期待の作品でした。坂木司さんの原作を読んでいただけに。原作の魅力を10とすると、映画は2もありません。予算、脚本、全て中途半端な印象です。救いは林遼威君。彼の好演が無ければ、見る価値が大幅に無くなってしまいます。でも作ってくれただけでも有難い事です。

同率5位は、「Good Luck 恋結びの里」
これを見るためだけに、第2回お蔵出し映画祭(広島県尾道市)へ行きました。大きく期待を裏切る事は、ありませんでしたが、やや小粒の作品でした。でも楽しめました。

次点ほか
「MY HOUSE」はデジタル撮影なのにモノクロでしたが、非常に意欲的なテーマで面白い作品でした。少年俳優の役どころが、やや不快だったのが残念です。その他、一番期待外れだったのが「HOME 愛しの座敷わらし」。原作小説の魅力を10とすると、映画は、0.2くらいです。(ちょっと言い過ぎかも)


■2012年個人賞について

最優秀少年俳優賞は、林 遼威君
実は迷いました。彼の出演した映画「ワーキング・ホリデー」自体の出来が、もう一つだったからです。これがテレビドラマなら上出来の作品ですが、映画となると凡作になります。しかしその凡作を光らせたのが林君。そういう意味で最優秀賞に決定しました。

新人少年俳優賞は、廃止
幼い頃から劇団にいて、テレビ等で活躍してきた子役さんもいれば、その映画のオーディションで抜擢された素人少年もいます。フレッシュな新人の表彰が目的でしたが、少年俳優自体が少なくなってしまった現在、新人とそれ以外を区別する意味が薄れたと思いますので、今年から廃止しました。

優秀少年俳優賞は、6名
まず、花岡拓未君。「めでたいヤツ」での、ハジケぶりは、いつまでも頭に残ります。もうちょっと本格的な映画に出て欲しかった。それが残念です。

「ふるさとがえり」の熊崎雄大君も問題なく優秀賞。腕白小僧たちの中で、ちょっとナイーブな演技が出色でした。今後楽しみな少年俳優です。

「武蔵野S町物語」からは、主役の横山幸汰君。彼の笑顔を見ているだけで、幸せな気分になってきます。また、貧乏な友人役の佐藤詩音君。彼一人だけ、丸刈り頭、短い半ズボンと本当の昭和スタイル。演技も段違い。ここは横山君も見習って欲しいところでした。

「Good Luck 恋結びの里」の山本正成君、「MY HOUSE」の村田 勘君も選出しました。もしかすると間違っているかもしれませんが、二人とも、愛知や岐阜など東海地方の少年俳優ではないかと思われます。どこか昭和の薫りがする少年達で、スクリーンで見ているだけで癒されます。
あのNHKの名作「中学生日記」に出ているような、ちょっと垢ぬけない?ところが、いいのです。

その他、最も悩んだのが、濱田龍臣君。「HOME 愛しの座敷わらし」の撮影では、骨折までして頑張ったとのニュースを聞きましたので、選出したかったのですが、残念ながら映画ではチョイ役同然。原作に忠実ならば、濱田君がもっと活躍しないといけない筈なのですが。濱田君はテレビ出演は多いのですが、結局、少年俳優として代表的な映画は残さないまま、大人になっていくのでしょうか。残念です。

特別賞は清水尚弥さん
彼については、何も言うことはありません。これから大人にどう脱皮していくのか。最近、世間を騒がせている、元少年俳優の黒田勇樹さんにイメージが似ている部分がありますので、あのようにならず、うまく成長して欲しいものです。


■2012年外国少年映画作品ベスト5

昨年と同様に、貧弱な邦画に比べて、外国映画は豊作でした。しかし、この状況も今後は心配です。欧米では、少年映画はジャンルとして確立しているようですので、製作が無くなることはありません。問題は日本へ配給されるかです。

欧米の少年映画を配給してくれるのは、大都市にある特定の映画館(テアトル、リーブル、シネスイッチなど)だけ。興業的にも苦しくなり、映画館自体の存続も危ぶまれてくれば、日本では見れなくなる日も、そう遠くではありません。英語をもっと勉強して、DVDを直輸入するしかありませんね。

1位は、「ヒューゴの不思議な発明」
これは文句なしの名作です。主役のヒューゴ少年、パリ駅の構造美、黎明期の映画への愛、どれを取ってもいい作品でした。

2位は、「ブラック・ブレッド」
スペイン内戦が舞台の少年映画は意外にたくさんあります。これもその一つですが、尊敬していた父の秘密を知ってしまった少年が、純真さを失っていくプロセス。非常に考えさせられる作品でした。

3位は、「瞳は静かに」
2位の「ブラック・ブレッド」の舞台をアルゼンチンに置き換えたような作品。やはり真実を知った少年が、だんだんと不気味な少年に変貌していくプロセスが印象的でした。

4位は、「ものすごくうるさくて ありえないほど近い」
アメリカの911テロ。亡くなった父の秘密を探してニューヨークを歩き回る少年。ややマニアックな少年の姿に感情移入できたのですが、最後に母親の行為が明かされる筋書きが残念でした。ここが別の結末であれば、最優秀作品だったかもしれません。

5位は、「少年と自転車」
2011年カンヌ映画祭でのグランプリ作品ですので、駄作である訳はありません。ただ、親の愛に飢える少年が、その思いの強さゆえ、親から疎まれる、見ている観客からも、やや疎まれる、ちょっと複雑な作品でした。

最優秀海外少年俳優賞は、エイサ・バターフィールド君。
本年から、海外少年俳優でも最優秀賞を設定しました。海外では、すごい少年俳優が目白押しですが、本年度は問題なく、エイサ・バターフィールド君で決まりです。大きな碧の瞳が神秘的。日本でも、世界でも大人気の少女俳優クロエ・グレース・モレッツさんの横に並んでも、エイサ君の魅力が色あせる事は一切ありませんでした。堂々の主役ぶりが素晴らしい。今後はどんな映画に出演されるのか、楽しみです。

■最後に

2012年、世界終末説は外れましたが、日本の少年映画は終末を迎えてしまったのかもしれません。しかし、何かが終る事は、また何かが生まれる事でもあり、2013年には、少年映画の新しい波が、芽生える年になってくれるのかもしれません。

インターネットによる動画配信、これがキーになるのでしょうか。youtubeなどネットの動画なんて、見られた画質ではないと思っておりましたが、ハイビジョンでDVDよりも綺麗な画像も流れています。

本当は大スクリーンで、カタカタとフィルムの回転する音が聞こえる、そんな映画を見たいのですが、時代は変わっていくのです。それに対応していかなければなりません。どうかいい年になりますように。


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