愛してよ (2005年)

少年映画評価 9点
作品総合評価 8点
少年の出番 100%(主役)
お薦めポイント 塩顕治君のモデル姿
映画情報など 2005年公開/DVD発売済


愛してよ。タイトルだけ見ると恋愛物語に思えますが、実際に鑑賞したら、再婚、虐待、自殺など、少年映画としては非常に重苦しい題材。それをまだ幼い少年俳優、塩顕治君が大熱演でした。

■ストーリー

10歳の少年ケイジ(塩顕治君)は離婚した母親と2人で暮らす。母親はケイジをモデルにしようと、一心不乱にステージママを演じるが、情緒不安定なところがあり、時折息子を虐待する。ケイジは母を喜ばせるためだけにモデルにチャレンジするが、心に大きな穴が開いており、ビルの屋上で、ふと自殺を招く少女の幻影をみたりする。

あるとき母親が再婚する事になるが、ケイジは新しい父を受入れず、離婚した父に会いにいくが、父は事業に失敗して自殺してしまう。そんな中で大きなオーディションがあり、ケイジは全くやる気がないのに、どんどん予選を勝ち抜いていく。オーディションの中で、年上の少年と友達になったり、富豪の息子に暴力をふるわれたりするなかで、ケイジは、とうとう自殺を招く少女の幻影に導かれてしまう。

■暗くて重いテーマだけれど、最後に希望の光

監督(福岡芳穂氏)は、徹底的に塩君を中心に据えて映画を進めます。パンフレットに母親役の女優(西田尚美)さんが「監督は塩君ばかりみて、私をみてくれない」と嫉妬するくらいに、塩君に入れ込んでおり、彼もそれに応える素晴らしい演技をしています。

映画自体はヒットするような配給体制ではありませんでしたので、知名度も少ないかもしれませんが、少年時代にこんな監督に出会えて、この作品を残せた事は、彼にとっても、日本の少年映画史にとっても財産であったと思います。(少し大げさですかね?)

■好きなシーン

塩君が、本当の父親に会いに行き、ひと時だけ「マイホームごっこ」するシーンがあるのですが、その時に父親役の松岡俊介さんとジャレあう姿が、暗い映画の中で、束の間の楽しみを体現していて切なくなります。モデルのオーディションで、上位10名程に残った少年少女が、モデル衣装を次々に着替えながら、ポーズをとるシーンが、本当に美しい!

■伊山伸洋君

塩君と友達になるモデル志望の年上少年。彼もまた、複雑な家庭環境の中で事件を起こし、結局はオーディションから脱落していくのですが、どこかで観たような顔だな、と思って調べると、NHK教育ドラマ「虹色定期便」の小学生役で出演していた元子役さんでした。

■地方映画を越えた普遍性

この作品は新潟を舞台にした、いわゆる地方映画です。地方の活性化を図るためにフィルムコミッションなどを組織して、映画ロケを誘致し、地元の振興を図るケースが非常に増えています。地方映画は、地元の風景や行事を入れた観光PR映画になる事が多く、正直言って作品の出来はよくないものが多いと思います。

福岡監督は、新潟の風景は入れていますが、新潟に媚びる事なく(新潟である必然性はなく)質の高い作品に仕上げたのは立派だと思います。

地元の人に媚びて、意味なく地元の名所を写し、地元の下手糞な素人俳優を使ってあげる事が、地元のためになるとは思いません。あくまで作品として質の高いものを作ってあげる事が、地元へ報いる事になると思います。それが、なかなか出来ないんですね。

■お台場映画王

1回目は2005年の年末に、渋谷のシアターイメージフォーラムというミニシアターで鑑賞しましたが、空いていました(いい作品なのに)。2006年のお台場映画王(フジTVが、東京お台場一帯で開催する夏祭の中の映画企画)で「愛してよ」が上映される事になり、休暇を取って2回目を鑑賞しました。

女性作家の室井佑月さんが、この映画をイチオシという事で、上映後トークショーがあり、そこに飛入りで、福岡芳穂監督(かなり年輩の男性です。字で誤解しないよう念のため)も登場されて話を聞く事ができたのは、有意義でした。

少し暗い話かもしれませんが、機会がありましたら皆さんも鑑賞してみて下さい。




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