独立少年合唱団 (2000年)

少年映画評価 8点
作品総合評価 9点
少年の出番 100%(主役)
お薦めポイント 仏映画「寄宿舎」を彷彿
映画情報など 2000年公開/国内ビデオ絶版・海外DVD有


第50回ベルリン映画祭アルフレート・バウアー賞受賞作品。アルフレート・バウアー賞というのは、新人監督賞とのこと。ということでヨーロッパ、特にドイツでは評価の高い作品のようです。日本でも話題になっていたようですが、自分は迂闊にも全くノーマークでした。

■ストーリー

1970年の初め、父親を亡くした少年、道夫(伊藤淳史君)は、東日本の山の中にある全寮制の中学に転校する。道夫は吃音(どもり)があり、それが負目となって心を開けない少年であるが、転校した初日、音楽室で綺麗なボーイソプラノを持つ美少年康夫(藤間宇宙君)と出会う。

道夫は学校になじめず寮から脱走するが、康夫に説得されて戻る。この時から二人は友情以上の微妙な関係のスタートとなる。道夫は教師(香川照之さん)の指導で吃音を直すため、康夫のいる合唱部に入り、二人はますます親交を深めていく。

教師はかつて過激派闘士であったが、その無意味さに気づいて活動を止めているが、ある日、彼の後輩の女性過激派が警察から追われて彼の下に逃げてくる。しかし彼女は警察に囲まれ、ダイナマイトで自爆死という壮絶な最後を遂げるが、それを見ていた康夫は影響を受けてしまう。

夏休みが終わって寮に戻ってきた康夫は、声変わりして声を出さなくなり、また精神も革命思想にとりつかれて、一種の狂気のようになっている。そんな康夫を、道夫は保護してやるようになるが、とうとう破局が訪れる。

■藤間宇宙君

この映画では、少年から青年へ変化する時期の身体も心も不安定な姿を、藤間宇宙君が絶妙な雰囲気で演じています。自分がこの映画をノーマークにしていた理由の一つに、この藤間君が主役だという点がありました。

藤間君は小学生時代にNHK教育テレビ「天才てれびくん」にレギュラーで出演しているのを知っていましたが、この映画では既に中学3年生。自分にとっては既に「少年を卒業した人」でしたので、勝手に対象外と決め付けていたのでした。

しかしこれが間違いでした。少年期末期の何とも言えない美しさが、この映画の他の欠点をカバーしています。これは監督やカメラマンの非常な努力だと思いますが、藤間君にとって、こんな作品を世に残せた事は本当に幸運な事だと思います。さすがにボーイソプラノを出すことは無理で、吹き替えだったようです。

■伊藤淳史君の存在感

この映画は、ほぼ伊藤君の視点で流れていくのですが、彼の存在感はどうでしょう!もっと幼い時代の「鉄塔武蔵野線」の頃から、昨今の電車男まで、全く同じ存在感を持っています。何をやっても、どんな役を演じても「伊藤淳史」になってしまう。

それでいて嫌味もなく、どんな映画の中でもハマってしまう。こんな子役が世界に何人いるでしょうか。容姿的には美少年とは程遠いのですが、どこか憎めず、愛嬌のある顔はどんな役でもホッとするような存在で「寅さん」の故渥美清さんを継ぐのは、伊藤君かもしれません。


■香川照之さん

少年ではありませんが、教師を演じた香川さん。彼もまた今や日本映画では無くてはならない存在感を持つ役者さんです。最近みた映画では「ゆれる」「出口のない海」「花よりもなほ」「14歳」など、本当に安心できる演技をされています。

決して二枚目ではないのですが、男性からみた時、映画の中で感情移入しやすい平凡な容姿である点が安心できるのかもしれません。感情移入とは、出演者の中で誰の視点に立って映画に入っていくか、という意味です。香川さんの役なら、まず変なことにはならないだろうという安心感がある訳です。

出演者がみんな変な奴で、誰にも感情移入できない作品は不安定感があり、自分は好きではありません。(「14歳」がそんな作品でした)

■学生運動や革命思想について

この映画のレビューをネットで検索してみますと、評価が大きく分かれています。一つは主に女性のBL嗜好者なのか、高評価というより一種の崇拝者みたいな層。(後述)

もう一つは、反左翼系のナショナリズムの方なのか、革命思想が描かれる点に反発される層で、非常に低い評価をつける方々が、少なからずおられます。自分の学生時代には、とっくに学生運動なんか終焉していましたので、彼らの事はよく判りませんが、その反動なのか、政治的なことは係ってはいけないという風潮の学生時代でした。

この作品では、革命思想なんかを決して肯定せず、虚しいものだと強く否定しているように思われます。ただ中学生の藤間君が、過激派に洗脳されていくようなストーリーの必然性や背景がひとつも描かれていないので、判りにくい点があったとは思います。

全く余談ですが、ドキュメンタリー映画の神様みたいに言われている監督の一人に土本典昭氏がおられますが、この人の水俣病シリーズの映画を何本かみました。企業や政府の横暴を告発し、民衆の苦悩や「闘争」を伝えようとしたのでしょうが、正直言って、逆効果でした。

大勢で数人を取り囲んで、いわゆる「吊るし上げ」をする人民や労働者たち。そこには尊厳も正義も何もかも霞んでしまい、自分は「チッソの社長さん、頑張れ!」とまで思いました。(勿論、これは極言ですが)

今、社会党や共産党、労働組合が廃れてしまったのは、自分達で自滅したように思います。本当はもっと人間を尊重した、まともなリベラル系の勢力も今の日本には必要と思うのですが。

■日本で今後、少年映画は

話が脱線しましたので、元に戻します。この映画にも女性は出てきます。合唱の合同合宿で一緒になる女子生徒は道夫を誘ったりしますが、康夫は女子生徒を相手にさせません。映画は終始少年達だけの世界を描いています。

この手の作品は、少女マンガの世界に多くあります。代表的な映画「1999年の夏休み」的であれば敬遠したところですが、テーマは似ているものの、実際は意外にも男くさい硬派の作品だと思います。

しかし、こんな作品は、メジャー系制作会社で今後決して作られることはないように思います。出生率低下、未婚者増加が進み、日本人の人口が減少に転じたこともあるのでしょうか。

最近の映画は、少年少女が出演する映画も恋愛モノや安易なストーリーの作品ばかりになっていくようです。(仕方ありませんか)

■謝辞

最後にこの作品につきまして、この作品のビデオをお借し下さいました吉岡様に、心より御礼を申し上げます。近所ではレンタルも終了しており、DVDも発売されず、Amazonで5000円も出して中古ビデオを購入するか悩んでおりました時、ビデオをお借りすることができました。

こんな名作なのに、日本ではDVDも発売されないのは、本当に残念でなりません。海外ではDVDも発売されているというのに。でもこれが日本の少年映画の現状なのでしょう。
(追記)
その後、イギリスで発売されていたDVDを輸入業者のサイトから購入して、いつでも見れるようになりました。海外の方が理解がある現状に、今更ながら嘆息した次第です。





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