あの空をおぼえてる (2008年)

少年映画評価 9点
作品総合評価 7点
少年の出番 100%(実質主役)
お薦めポイント 小さな名優・広田亮平くんの底力
映画情報など 2008年公開/DVD発売済


臨死体験がもたらした切ない誤解。米国在住のジャネット・リー・ケアリー女史の原作を映画化したものですが、若干のアレンジが加えられているようです。それでも本当に心に残る作品でした。

生還した英治。このシーンが一番好き(story上重要なシーンとはいえませんが)
■ストーリー

10歳の英治(広田亮平くん)は、地方の町で写真館を営む父(竹野内豊さん)、母(水野美紀さん)、太陽のように明るくて可愛い妹の絵里奈(吉田里琴さん)の4人で幸せ一杯の生活を送っていた。

しかしある日、英治と絵里奈が2人で買物で出かけた時に悲劇が起った。トラックにはねられたのだ。臨死体験?の中で絵里奈は笑いながら天国へと飛んでいく。英治も必死で追いかけるがダメだった。気がつくと、英治は病室の上空にいた。両親は頭をかかえて泣いている。

その時、父の漏らした言葉を聞いたのだ。「なぜ絵里奈なんだ!」やがて英治は意識を取り戻し、自分だけが生き残った事を知る。退院して家に戻ってきた英治、しかし可愛くムードメーカーだった妹はおらず、火の消えたような寂しい家になっていた。せっかく英治が退院してきても、両親は悲しみに沈んだまま

よしっ僕がなんとか両親を励まそう!英治は必死で明るく振る舞い、昔のように明るい家にしようと頑張るが、妹の代りには決してなれない事を認識するだけ。特に父の冷たい視線に耐えられなくなってきた。僕はもう疲れた。英治は家を出て、あてもなく山へ登りはじめた。

ようやく息子の気持ちに気づいた父は、英治を探して山を奔走し、英治を抱きしめる。でも、英治の心には、どうしても消せない父の言葉が残っていた。「なぜ絵里奈なんだ」妹の絵里奈ではなく、僕が死んだほうが良かったんだ。

■小さな名優・広田亮平くん

広田くんは、TVドラマに映画にと、大人顔負けのキャリアを持つ名子役ですが、そんな経歴とは関係なく、本作品では本当に切ない少年役を見事に演じきりました。妹役を演じた吉田里琴ちゃんが、後光が差す程の超美少女なのに比べると、正直言って、広田くんの容姿はぱっとしないかもしれません。

この兄妹では、どんな場合でも兄は損する役回りかな、なんて思ってしまいそうです。それだけに余計に兄の英治が切なくて、切なくて。涙があふれてきそうなんです。その壊れそうな細い肩に、常に何かが重く重くのしかかっている、そんな姿を本当に自然に演じる事が出来るのは、広田くんしかいなかった、そう確信しています。是非もう1本、本当にもう1本、主演映画を見たい、そう切実に思います。

■映画のプロモーションなど

映画のプロモーションでは、竹野内豊さん、水野美紀さんの2人が前面に出てしまった事に、一部の方々からは不満もあったようです。結果的に興行は不調だったようです。私も最初は映画のプロモーションについて疑問もありました。でも今ではそんな事どうでもいいんです。

映画を見れば、主役は広田亮平くんであることは明白です。冨樫監督は広田くんを本当にしっかりと指導しており、こんな作品を作ってくれた事に感謝する以外の何ものでもありません。竹野内さん、水野さんも両親役を見事に演じており、お二人を責めるなんて気持ちは全くありません。

後世、この作品がきっと見返され、改めて評価される事があるように思います。ただ、今の日本では興行が失敗してしまうと、そういうジャンルの映画の製作自体が出来なくなる恐れがあり、私の好むような少年映画は、興行面では失敗が続いている事が心配です。

お通夜のような食卓。僕は妹の代りには
友人と妹を探しに出かけよう

(補足)鑑賞時の映画日記より

2008年4月29日、新宿バルト9(東京)にて鑑賞。

東京、新宿で朝1番の回で観ました(館内はガラガラで快適)。広田亮平君が本当に良かった。ネタバレは止めますが、最後の方で父親に思いを吐露するセリフ「それでも、僕はお父さんとお母さんのところに戻ってきたんだ」これが本当に堪りません。

「それでも」の意味は、僕なんかより妹に戻ってきて欲しかったのは判っていたけれど。ある意味ベタなセリフですけれど、これは反則です。しかし監督の冨樫森さん、この小さな名優・広田亮平くんをなぜもっと信頼しないのでしょうか。

なぜキャストの3番目なんですか?この作品は両親でも妹でもなく「英治」の物語。その主人公を演じる子役と心中するくらいの気迫、執念が全く感じられません。結果として映画が凡作になってしまっています。

キネマ旬報などを読むと、原作は少年の目を通した1人称の話、これではスケール感が出ないので、もっと大きく家族の話にした・・というような事を監督さんは言っておられるようです。しかしそれは結局、焦点がボケてしまっただけのように思います。

少年では映画にならないと思い、有名俳優の竹野内豊さんや水野美紀さんをメインにしたり、短いスカートの少女(妹)を空中に吊したりしたのでしょうか。感想やレビューを読むと多くの方が「子役2人の演技はよかった」とありますが、広田亮平君が、妹役の子とひとくくりで評価されるのは残念です。中には妹役の方が印象的だったと評価する人さえ。

以上が、観た当日に書いたブログの文章です。この時は凡作なんて書きましたが、日が経つにつれて印象が深くなり、今年1番を争う素晴らしい少年映画だったと思うようになってきました。

DVDを購入しましたら、特典として小さなフォトブックがありました。主役なのに広田君の扱いは残念。出演者の写真が各4ページずつあるのですが、広田君の写真の7割は吉田里琴さんとのツーショット。一方、吉田さんは全て単独。しかもツーショットの写真では、どうも広田君が冴えないのです。

ここでゴタクを並べても仕方ありません。とにかく映画は素晴らしいのです。まだ見ておられない方、是非ともDVDなどで鑑賞して下さい。下の写真はおまけです。


    撮影中エピソード。竹野内さんが見学者のファンの女の子の前に広田君を連れ出そうとしますが、
恥ずかしがって、徹底的に抵抗する様子が微笑ましいですなあ。




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