あかぼし (2013年)

少年映画評価 9点
作品総合評価 8点
少年の出番 100%(本当の主役)
お薦めポイント 亜蓮君の存在感に衝撃。本格少年映画です。
映画情報など 2013年公開/DVD等未発売


2012年東京国際映画祭の「日本映画ある視点部門」に出品されたということは知っていましたが、特に受賞したとの話も聞かず、忘れていた作品でした。でも公式サイトが開設され、映画の予告編、特報をみた瞬間からテンションが上り、期待度100%

東京・新宿のミニシアターで、夜20:30からのレイトショー。かなり迷ったのですが、土曜の夜、衝動的にネットで新幹線とホテルを予約。日曜日に東京へ。往復交通費と宿泊費を考えると4万円近い出費ですが、後悔することはありませんでした。(財布は痛いです。もうこの年の夏はこれで終了)

■ストーリー

小学5年生の保(亜蓮くん)は、東京近郊のアパートで母(朴路美さん)と二人で暮している。父は失踪してしまった。それ以来、母は精神を病んでいる。そんなある日、母は、ある宗教家(キリスト教系のカルト教団?)の勧誘を受ける。心の隙間を埋めるような言葉に、母は簡単に洗脳され、宗教活動にのめり込んでいく。

宗教活動とは、新たな信者の勧誘だ。ここがカルト教団の本領。まるでセールスマンのように、勧誘した入信者数を競わせる。勧誘には、可愛い少年少女は武器になると教えられ、息子の保も、毎回正装して勧誘活動に参加させられた。

当初は、保少年の可愛さもあり、順調に信者を増やしていく。母は教団から表彰されるまでになった。しかしある日、勧誘に行った家は、なんと保の同級生がいた。それ以来、学校で苛めのターゲットとなってしまった。保の迷いが出てきたのか、次第に勧誘がうまく行かなくなってきた。

母は焦る。トップだった入信者数も、ライバルに抜かれ、教団の中でも扱いが低くなってきた。とうとう、ライバルとトラブルになり、教団を脱退。これで洗脳が解消したかと思いきや、母は一人で布教活動を再開した。保は戸惑いながらも母に協力する。しかし母の言動はエスカレート。失踪していた父の自殺も知らされる。

母が脱退した宗教団体の幹部の夫妻には、カノン(Vladaさん)という養女がいた。どこの国籍か判らないが白人の美少女(中学か高校生)。同じような境遇のカノンと保は、どこか気が合い、姉弟のような感じだった。

ある日、カノンは保に「家出しよう」と持ちかける。カノンが援助交際で稼いだお金を持って、大阪の知人を訪ねていくそうだ。保は意を決して、家出に付き合うことにするが。

■壊れてしまった母親を持った少年の苦悩と成長
ドアの向こうにこんな子がいたら
思わず話を聞いちゃいます

非常に暗い映画でした。2005年の映画「愛してよ」(福岡芳穂監督)とどこか共通するところがあります。悩みをかかえながら、現実を直視できず、どんどん自分の世界に入っていく母親。息子のことは、気にかけてはいるし、愛しているのは確かです。でも優先順位は自分が一番。

「なぜ、あたしだけがこんな目に合うの」「なぜ、みんな、あたしの事を判ってくれないの」この手の人間は、最近の女性に増えているのでしょうか。どうもリアル過ぎて、映画とは思えないほどの嫌悪感を覚えます。これも、母親役の朴路美の迫真の演技力の賜物でしょう。

それに対し、息子である少年は、精一杯母親を守ろうとします。本来は嫌な勧誘活動にも、笑顔で取り組みます。でも彼とて人間。天使ではありません。学校では、自分より弱い立場の同級生には、酷い言葉を吐き、うっぷんを晴らします。でもこの行為で、後にしっぺ返しを喰らうのですが。

ここで気になるのが父親の存在。この映画では全く触れられませんが、唯一の手掛りは父の残したギター。ギターケースにあった音叉(調律用か)をそっと持ち歩きます。耳に音叉を当てて、父の言葉を聞くように。でも、何も聞こえなかったのでしょうか。最後は音叉を捨てます。この捨てるシーンが、男の私にとっては、少し寂しいのですが。

そしてラストシーン。少年の決意の言葉で終わります。少年と母親の先行きに、私は、どうしても、明るさを感じられません。映画「誰も知らない」のラストも、一見絶望的なのですが、こちらは、非常な明るさを感じたのですが。

父の記憶は、ギターの音叉だけ
ロシア少女と電車で絶望の旅

■存在感抜群の少年俳優・亜蓮くん

それにしても、この映画の実質主役を演じた亜蓮君の存在感には圧倒されました。しかし本作品の主役は、母親役の朴路美さんとなっています。映画公式サイトや、そこに書き込まれているツイッターは「朴路美さんの演技に圧倒された」が大半。オマケで「亜蓮もよかった」がチラホラ。

私は、朴路美さんの事は全く知りませんでしたが、有名な声優さんで、ファンの方が大勢おられるようです。確かに朴さんの演技は、鬼気迫るものがあり、素晴らしいものだったと思います。でも本作品では、彼女の気持ちは病んだままで、精神的な起承転結、成長も少なく、正直言って彼女に感情移入するのは、困難だと思います(女性の方から見たらどうか判りませんが)

公式サイトの監督の「製作意図」をみると、やはり、息子である少年の戸惑い、葛藤、悲しみ、決断といった精神的な成長のプロセスが、本作品の主題であると思います。そういう意味でも、亜蓮君が堂々主役の少年映画であると、私自身は思っております。

映画館には吉野監督もおられ、上映前に一言挨拶があり、上映後もロビーにおられたので、できれば、少し話をしたかったのですが、夜も遅いので帰りました。でも、何を話してよいか。

まあ誰が主役でも構いません。本作品は久し振りに、邦画の少年映画として骨のある作品でした。さて最後に、公式サイトの特報動画から、亜蓮くんの表情を紹介して、終りにします。本当に美少年!

営業用?の不自然な作り笑いの亜蓮君
作り笑いが虚しくなったか、ふと見せる表情





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