大阪には香川県出身の方々が多いので、そのうち上映するだろうと思ってもナシのつぶて。ようやく横浜のブリリア・ショートショートシアターで上映との事で、頑張って行ってきました。東京に前泊し、朝10:30からの上映ですが、予想していたよりも素晴らしい作品でした。
東京で母と2人で暮す中学生の隼人(遠藤健慎君)。母は息子をしっかり育ていたが、生活苦もあり男性に依存しがち。その日も隼人が帰宅すると家には見知らぬ男が。隼人は飛び出し、あてもないまま東京駅から四国・高松市行きの寝台特急に乗ってしまった。(お金は男から貰った。まるで手切金のように)
翌朝、なぜか高松の手前の坂出で下車。中学の制服のまま坂出市内を歩き、野宿しているところを警察に保護。迎えに来た母と東京へ戻るが、1ヶ月後、母と2人で坂出市に引越してきたのだ。(一応理由づけはされていますが、あまりに唐突といえば唐突。強引といえば強引な脚本。でも坂出に来ない事にはローカル映画になりませんので、そこは目をつぶりましょう)
心機一転、誰も知人のいない坂出市で暮らし始めた母子。でも母はやはり不安で、アルバイト先の男性と仲良くなってしまう。隼人もがっかり。投げやりになって学校をサボり、港にある粗末な倉庫のような小屋を見つけて入り込み、1晩寝込んでしまった。そして翌朝、不思議な少年、瑞輝(中島来星君)と出会う。
その小屋で瑞輝はガラクタを集め、船を作っていた。学校には行っていない。2人は意気投合し、その小屋で同じ時間を過ごすようになる。そして瑞輝の秘密を聞いた。瑞輝は隣の中学校で起きた放火事件の犯人の容疑者になっているのだ。
犯人は自分とも、そうでないとも瑞輝は口を閉ざしたまま。誰かをかばっているようだ。やがて刑事がやってくる。もう瑞輝がいなくては生きていけない隼人は必死になって真犯人探しを始める。後は映画を見て下さい。
ローカル映画の目的は地域振興ですから、できる限りその土地の名所、名物、お祭りなどを観光材料としてアピールするものです。都会の人に来て欲しいので、飾り立ててオモテナシ。でも本作品は、ちょっと違います。
観光映画のような作品ではなく、質の高い作品を目指す。それが結果的には地元に貢献する。そういう図式になって欲しいのですが、日本の映画産業は、もはやそんなレベルではなくなっています。上映する映画館がない、またマイナーな映画や文芸的な映画を好む観衆がいない。本当に残念です。
さて本作は何と言っても少年俳優に尽きます。出番的には遠藤君100%、中島君60%、SUPER★DRAGONで人気の飯島颯君、女子2人は20%というところでしょうか。とくに中島君が主役に引けをとらないくらい印象に残ります。
主役の遠藤君、本当に中学生らしい素直で熱気あふれる演技で堂々の主役でした。麦わら帽子を被って「女の子」というシーンの表情が抜群。中島君は本当に不思議系。静止画で切り取ると今一つのルックスなんですが、動いている彼の表情はすごく魅力的。涙をみせなかった彼が、最後のシーンで少し泣き、そして笑う。名シーンでした。
「放火犯は誰か」という中学にまつわる推理系といえば、2015年の「ソロモンの偽証」と被ります。少女俳優の藤野涼子さんの熱演もあり佳作でしたが、壮大な宣伝費をかけて前後編2回の大興業。それに比べると本作は、桁が2つくらい少ないような制作費。それでも私は本作の方が好きです。
真犯人を知っている瑞輝少年。真犯人は彼を恐れているはずですが、次第に立場が逆転してきます。他人をかばうというヒーロー的行為を好き好んでしている訳ではないのです。ヒーローという枠に追い込まれていった少年は、ガラクタに逃げ場を見つけます。