つづり方兄妹 (1958年)

少年映画評価 5点
作品総合評価 8点
少年の出番 100%(実質の主役)
お薦めポイント これぞジャパン・ネオリアリズム。涙涙です。
映画情報など 1958年公開/ビデオ・DVDなし


ずっと昔にテレビで見たことがあるのかもしれませんが、全く覚えていませんでした。そんな日曜日の朝、布団の中で、ふとテレビをつけて、スカパーの日本映画専門チャンネルを見ると、本作品をやっておりました。(鑑賞したのは2012年12月2日 朝7:00から)

ちょっとだけ見るつもり。が、結局、最後まで見てしまいました。録画するのも忘れて。こんなモノクロの古めかしい映画なのに。最後は涙でした。

■ストーリー

大阪府の北東にある枚方(ひらかた)が舞台。野村元治は戦後、台湾から引揚げて、この地でブリキ職人をしている。元治には6人の子供がいるが、頑固な性格ゆえ仕事が少なく、畳もない掘立小屋の壮絶な貧乏暮らしであった。

しかし長男、圭一(藤川昭雄さん)、長女、まち子(竹野マリさん)、次男、文雄(頭師孝雄さん)の3兄妹は素直に育ち、作文が得意で「綴り方兄妹」と言われ、近所では評判の子供たちだった。

小学校の先生たち(香川京子さん、津島恵子さん)の熱心な指導もあり、3人は様々な作文コンクールで入賞。今度は、モスクワで開催される国際児童作文コンクールに3人揃って作文を送った。しかし、3人は賞品こそ貰っていたが、遠足代どころか食事にも事欠く状況だった。

そんな時、次男の文雄は子犬を拾った。人間すら満足に食物が無い家庭で、犬なんて無理だったが、母ちゃんが、そっと飼うのを許してくれた。やがて悲劇が始まった。ある豪雨の日、いなくなった犬を探して文雄は雨の中を探し回り、熱を出して倒れてしまった。

兄妹のボロ小屋の前には大きな病院があるが、貧乏一家には縁がなく、お金を工面して藪医者にかかるのが精一杯。文雄の熱は下らず、衰弱するばかり。両親や兄妹が泣き叫ぶ中で、文雄は亡くなってしまった。あんなにワンパク小僧だったのに。あんなに優しい子だったのに。幼い命はあっけなく。

そしてモスクワから便りが届く。文雄の作文がコンクールで最優秀作品に選出されたと。新聞記者がボロ家にやってきた。残された兄妹には言葉は無い。長男は記者に言った。「ぼくたちは賞が欲しくて作文を書いているんじゃないんです。ぼくたちの事を知って欲しいだけなんです」そういって兄妹は丘へ向って歩いていく。

■日本にもあった。ジャパン・ネオリアリズム映画

映画が作られたのは1958年(昭和33年)。もはや戦後ではなく、高度成長に向って駆け出した時期。先年大ヒットした「Always 三丁目の夕日」と全く同じ年。しかし三丁目の世界は、理想化された架空の世界だったことを思い知らされました。(誤解しないで下さい。三丁目は、これはこれで素晴らしい作品だと思いいます)

実は、この映画の舞台である枚方市。現在、私が住んでいる地域なのです。昭和40年代から急速に宅地化が進展し、今や無計画に住宅が密集して空地なんて殆どありません。ところが本作品で出てくる枚方は、まるで北海道の原野のように丘が続いています。これは本当に貴重な映像。

そして恐ろしい貧乏。一番印象に残るのは、空のお茶碗を箸でカタカタならしながら、ご飯を食べるマネをする文雄たち兄妹。父ちゃんが「何食べてるんや。食べ物なんかあったか」「食べるマネしたら、お腹がふくらむ気がするて、父ちゃん言うてたやろ」「ほんま、しょうむない事ばっかり覚えてるんや」

子供が死にかけていても、医者も満足に呼べない両親。この両親の気持ちを思うと泣けてきます。

■豪華な出演者たち

大阪でも、当時は誰も知らないローカルな枚方市が舞台の映画。地元の地味な役者さんしか出ていないのか、と思いきや、そこは天下の東宝スコープ(東宝の超ワイド画面)。香川京子さん、津島恵子さん、乙羽信子さんと超一流女優、男優も森繁久彌さん、左卜全さんなど全国区の有名どころ。

しかし主役の文雄を演じたのは、頭師孝雄さんという子役。ルックス的には、おっちゃん顔なんですが、この子がうまい。その小さな全身から、はじけるようなワンパク小僧ぶりが、画面を飛び出してくるようです。この頭師孝雄さん、地味なルックスなので、この作品1本だけかと思いましたが、立派な俳優さんになって、数々の映画に出演されておられます。(惜しくも故人になられていますが)

長男役の藤川昭雄さんも、中学3年生とは思えない身長の低さでしたが、弟が亡くなって、きりっとした目で未来を見つめるような演技が印象に残ります。

■最後に。(映画「誰も知らない」との類似性)

とにかく地味ですが、素晴らしい映画です。今や、お気軽映画しか作らない東宝も、こんな作品を作っていたのですね。なぜDVD化しないのでしょうか。誰も買う人がいない?そうかもしれませんね。

さて、この映画を見て感じたのは、2004年の映画「誰も知らない」との類似点。是枝監督がこの「つづり方兄妹」を見ていたとは思えませんが、子供の世界を真剣に見つめると、同じようなシーンが出てくるのかもしれません。

食べ物がなくて食べるマネをするシーン。
「何食べてるんや」(父ちゃん)、「なに食ってんだ、出しな」(柳楽君が弟に向って)
幼い弟が死にかけて、必死になって、向かいの病院へ走っていく長男(つづり方兄妹)
幼い妹が死にかけて、必死になってドラッグストアで万引きする長男、柳楽君(誰も知らない)

そしてラストシーン。両作品とも、残された兄妹だけで、手をつなぎながら、どこかへ歩いていく。その後ろ姿が深く印象に残ります。まあ、こじつけかもしれませんけれど、たまらない作品でした。





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