敗れざるもの (1964年)

少年映画評価 6点
作品総合評価 6点
少年の出番 90%(準主役)
お薦めポイント 死を悟りながらも凛とした少年の眼差し
映画情報など 1964年公開/VHSビデオ廃盤


■大スター石原裕次郎さんに引けをとらない少年の演技

東京オリンピックの年に製作された社会派ドラマ。不治の病の冒される少年や少女を描いた作品は、数多くありますが、その先駆けに近い映画でしょうか。石原裕次郎さんがこんな作品に出ていたとは意外かもしれません。

■ストーリー

大富豪の高村家に運転手として雇われた橋本鉄哉(石原裕次郎さん)が主役。高村家の長男、俊夫(小倉一郎さん)は天体観測が趣味の中学生。

ある日、天体観測中の俊夫が「望遠鏡の隅が曇っている」というが、橋本が見るとどうもない。そのうち物にぶつかるなど視野が狭くなっているようだ。心配した橋本は高村夫妻に告げ、俊夫を病院に連れて行くよう勧める。

心配した通り、俊夫は脳腫瘍と診断され、大手術を受ける。しかし当時の医学では不治の病。毎日、お見舞に行く橋本に、俊夫は「君が僕の病気を発見してくれたんだね」と親愛の情を示すようになる。しかし退院、再手術と続く闘いの中で、自分が治らない事を知り、ぽつんと橋本につぶやく。

橋本は衝撃を受けた。この少年は自分の死を知りながら、逃げもせず、愚痴すら言わず、まっすぐ前を見つめて生きている。その日以来、橋本は仕事の合間を縫って、俊夫の残り短い人生を少しでも充実させるように、色々な所に連れて行き、話をしてあげる。

そんな中で、橋本の昔の仲間が、高村夫妻に過去の過ちを告げ口する。高村夫妻は橋本を解雇しようとするが、俊夫が必死に反対して留めてくれた。しかし、俊夫の命も限界だった。

■この凛々しい少年は小倉一郎さん。(今では想像もできませんが)
映画ポスターから。美少年です

あの大スター・石原裕次郎さんを前にして、全く互角以上に堂々と演じた少年俳優。きりっと凛々しい顔に、澄みきった天使のようなボーイソプラノ。彼が小倉一郎さんでした。

小倉一郎さんと言っても、最近の方は知らないかもしれません。現在でも色々な映画やドラマに端役として出演されておられますが、小心者で貧相な中年男が定番となっているようです。

30年くらい前のTVドラマ「俺たちの朝」が当たり役だったようですが、やっぱり情けない男だったようです。(同じ姓の小倉久寛さんとは違いますので。)

少年俳優と成人してからの小倉さんは別人物、というか、映画は映画の世界で閉じて鑑賞することです。それにしても、石原裕次郎さんと2人だけのシーンは、本当にジーンときます。

唱歌「星の世界」を見事なボーイソプラノで歌うシーンは今も思い出します。(唄は「北の星座」だったかも。)

■戦争の爪あとが残っていたのでしょうか。

「死を前にして、何を考えるのか」こんなテーマが伏線にあったのかもしれません。少年の純粋な態度に比べ、大人の中には死の恐怖から、仲間を売ったり、逃げてしまったり、取り乱したりした人も多かったのでしょう。そんな弱い人への皮肉が込められていたのかも。(私自身は、人間は弱いのが本性なのだから、それを必要以上に責めたくはありませんけど。)

本作品は、残念ながらビデオも廃盤となっていますが、地方のUHF局やスカパーなんかで放送されるケースもあると思いますので、機会があれば是非ご覧下さい。私もテレビで3回くらい観ました。石原裕次郎特集か何かでDVD化される事を切望しています。





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