すばらしい松おじさん (1973年)

少年映画評価 6点
作品総合評価 6点
少年の出番 100%(主役です)
お薦めポイント 少年映画版、無法松の一生
映画情報など 1973年製作・劇場未公開/DVD発売中
(写真は、土屋信之君)


■東映にもあった児童映画

児童映画といえば日活しか知りませんでしたが、東映でも作っていた事を最近になって知りました。ただ、当時は教育映画として、学校や教育機関を巡回して上映されるための短編〜中篇作品で、劇場公開はされていません。

ここ最近になってCSや衛星放送で放映され「甦る東映児童映画の世界」シリーズとしてDVDも発売されており、Amazonを検索していて、たまたま見つけたので購入した訳です。「東映チャンネル」でも、古いお蔵の中の作品を取り出さざるを得ないほど、ネタが尽きてきたのかもしれません。でもそれは大変いい事です!

■ストーリー

舞台は東京。出来たばかりの高層団地に住む少年(土屋信之君)は父を亡くし、母と2人暮らし。母は働きながらも息子の教育に熱心だ。(父親がいない分、余計に意地になって息子を秀才にしようと力んでいる)

しかし少年は母の期待が重荷になり、ヤケになって悪戯を繰り返す。そんなある日、大工の棟梁(ハナ肇さん)に悪戯の現場を見つかり、こっぴどく叱られる。棟梁は少年をただ単に叱るのではなく、男として、人間としての道を身体で教えてやり、少年も次第に棟梁を父のように慕っていく。

実は棟梁は息子を亡くして以来、近所の子供を誰彼と無く世話をする、文字通り親分だった。最初は棟梁をヤクザのように思っていた少年の母親も棟梁に心を許すが、少年には父親の存在が必要だと考え、再婚を決める。それを知った少年は家出して、棟梁の家にやってくるが、棟梁は「けえれ!(帰れ)」と一喝し、追い返す。少年のためを思い、ここは鬼になったのだ。

■無法松の一生

少年役を演じた土屋信之君も達者な演技でしたが、この作品ではハナ肇さんの演技が光りました。未亡人とその息子に絡んでくる肉体派のガサツな男。これはまるで「無法松の一生」と同じ構図ではありませんか。

無法松は腕っ節の強い車夫で、未亡人への淡い恋か中心でしたが、少年への献身ぶりも印象的でした。一方この映画では、未亡人へ恋物語が一切カットされて、亡き息子への面影を追い続ける頑固オヤジの話になっています。(児童映画ですからね。色恋モノはウッホン!となったのでしょう)

まだ田舎の風景。遠くに高層団地群が見えます

高島平団地でしょうか。地方から上京した人の憧れ


■東京の都市化、そして少年の急激な変化

この年代の映画の楽しみ方。それは東京の街並みウォッチングです。Always三丁目のばばちい東京から、現代都市東京へ生まれ変わる、その瞬間が見れる貴重な作品かもしれません。

1975年くらいを境に、テレビや映画に出てくる少年がガラっと変りました。まずは言葉。それまでは、標準語ではなく江戸っ子弁といのでしょうか、全くあか抜けない言葉でした。

「おいら..」「○○するんだいっ!」「父ちゃんよう〜」。浅草の落語家みたいな言葉で、はっきり言って、これらの少年達をカッコいいとは思えませんでした。東京も田舎なんだなあ。

しかし地方人が集中しだし、いわゆる標準語になり、ファッションも言葉もあか抜けてきた1970年代後半から、東京がメディアの中心になってしまったのです。少年達もカッコよくなったのです。

しかしそれが良かったことかどうか、それは判りません。この映画のハナ肇さんのような、おせっかいだけれども、正しい道を歩き、正しい人情を持った人。そんな人間は減ってしまいました。

この映画を見ていると、新しい高層団地から少し外れると、のどかな風景が残っていた時代。そんななんともいえない郷愁を感じるのです。決して「昔は良かった」オヤジにはなりたくありませんが。





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