田園に死す (1974年)

少年映画評価 6点
作品総合評価 7点
少年の出番 100%(主役・年齢はぎりぎりセーフ)
お薦めポイント 暗い恐山、寺山修司ワールドが満喫できます
映画情報など 1974年公開/DVD発売済(写真は、高野浩幸君)


本サイトでもいくつか取り上げている故・寺山修司さんの作品。初期の短編映画は、制作費も無かったのか、非常に雑な作り(学生映画でももっとマシ)な作品が多く、おまけに意味が判りにくいものばかり。それでも、なんとなく心が残る「寺山修司」という一名前の持つハロー効果かもしれませんけれど。

一方、長編映画では、本作品が代表作だと思います。原作も脚本も監督も寺山修司氏。やっぱり寺山ワールド満開なのですが、さすがに商業映画でもあるので、思ったよりマトモ?な映画で、少なくともストーリーは追うことができます。

恐山の海を歩く大人の私と、20年前中学生の私
■ストーリー

青森県の恐山の近くに住む中学生(高野浩幸君)が主人公。父は戦死し、母と二人で暮すが、そろそろ母親から離れたい年頃。そんな時、隣家の嫁(八千草薫さん)から、ここを一緒に逃げ出そうと誘われる。彼女は隣家に嫁いだものの、家族にいびられる毎日。ある夜、二人はそっと抜け出し、駅へと向かい、故郷を脱出したのだった。

しかし、ここでフィルムがぐちゃぐちゃと、ある映写室に舞台が変わります。あの中学生は大人(菅貫太郎さん)になり、東京で映画監督になっていた。そして自分の少年時代を描いた映画を試写していたのだった。

「この映画は嘘だ。私の少年時代はこんなキレイ事ではない」そう悩む私。タイムマシンに乗って過去を変えてしまうとどうなるのだろう、なんて考えているうちに、本当に20年前にタイムスリップしてしまった。

20年前の中学生の自分と会った。「お前のことは全部知っているぞ」(そりゃ、当然といえば当然)、それに対し中学生は「ねえ教えてよ。僕はいつこの村を出ていくの?」(そりゃ知りたいわ)

隣家の嫁と駆け落ちする約束をしたまでは本当だった。でも、嫁は昔の恋人(共産党員)と一夜を過ごし、心中してしまった。二人の遺体を見て呆然とする中学生。心が揺れる中学生に一人で汽車に乗るよう背中を押したのは、20年後の自分だったということか。

■恐山の風景。母親への愛憎

やっぱり寺山作品のストーリーを書くのは難しい。今回も尻切れトンボですみません。映画全般を通して、恐山の暗い風景が、ブルーのフィルターを通して目に飛び込みます。そして音楽(J.A.シーザー氏、日本人です)がまた凄惨な世界を表現していて、ずっと耳に残ります。

恐山のイタコなのか、瞽女(ごぜ)というのでしょうか、黒いベールを被った老女たちが、また印象的です。画家、斎藤真一氏の「瞽女シリーズ」も好きな作品ですが、どこか日本というより、西洋の香りがするのです。「ファンタズム」(1979年)というアメリカのホラー映画がありましたが、この中でも同じような格好の小人が出てきます。

あっと、ストーリーでは省略しましたが、寺山作品と言えば必ず登場する、サーカスと曲芸人の方々。今回も空気女、侏儒(こびと)など、やはりどこかヨーロッパ的な雰囲気の方々が登場。

そして、本作品の大きなテーマは母でしょうか。息子にいつまでも干渉する母に対し、憎しみを感じながらも、やっぱり母は母。結局、母親の手のひらの中から、抜け出せない男たち。一方で、ててなし子(父無し子)を生んだ若い娼婦が村八分にされる様子も。これも母の意味に関係しているのかもしれません。

■少年俳優・高野浩幸さん

さて最後は少年俳優について。高野浩幸さんは、当時15歳。特撮TVシリーズ「超人バロム1」の主役少年の一人、その後もNHK少年ドラマシリーズなどに出演し、既に同世代の女子からは人気子役でした。

人気子役も、成長して大人に近づくと、一気に仕事が減るのは当時も今も同じ。(ジャニーズ事務所だけは別。思春期前から成人までずっと連続して、少年俳優の「美」をコントロールできる事務所の力には本当に感心します)

本作品は、少年期ギリギリの高野君の魅力をうまく撮影しています。寺山作品の特徴である顔の白塗りが無ければもっと良かったのですけれど。

母親との葛藤。隣の美しい嫁へのあこがれ。サーカスへの興味。そんな憧れと、でもどうにもならない無力感をうまく表情に出せていました。

おまけですが、子供を処分して帰ってきた娼婦に童貞を奪われます。昔の寺山実験映像でしたら、ボカシだらけの映像になりますが、本作品はお上品ですので、過激なシーンは一切ありませんので、安心して見れます。私もそうでしたが、寺山作品を敬遠されている方も、本作品は是非ご覧になって下さい。

■ちょっとおまけ

本作のラストシーン。大人の私と年老いた母が、二人でご飯を食べています。と、その時、突然壁がバタンと倒れます(ドリフのコントのように)。そこは東京の真っただ中。

通行人も気にせず、二人は食事を続けます。よく見ると、白塗りの高野浩幸君や娼婦の姿も。でもここの注目ポイントはそれではなく、この風景。

どうやら1974年の新宿駅東口です。地味ですねえ〜。これが今のスタジオアルタのあたり。マクドナルドや住友銀行はありますけど。

映画の楽しみの一つに、昔の風景が残っていることがあります。特に今はなくなってしまったビルや橋、路面電車などが見れると、胸がキュンとします。





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