漂流教室 (1987年)

少年映画評価 6点
作品総合評価 6点
少年の出番 100%(実質主役)
お薦めポイント 極限の世界で生きる少年
映画情報など 1987年公開/VHSビデオ絶版
(写真は、主役の林泰文君)


楳図かずお氏の代表漫画の実写映画。映画「野ゆき山ゆき海べゆき」のレビューを書いた時に思い出したのが本作品でした。もちろん少年俳優の林泰文さんのつながりで。

レビューを書くにあたって古いVHSビデオを探し出し、半分壊れかかったデッキで鑑賞。何年ぶりに見たのか忘れましたが、今見ると意外に面白い。ところがネットを検索してみると散々な酷評です。原作者の楳図かずお氏すら否定的だとか。そんなに酷いでしょうか。私は好きですけどね。

■ストーリー

「その朝のことを僕は一生忘れないでしょう」こんなナレーションで始まった。米国からの帰国子女である高松翔(林泰文君)は神戸のインターナショナルスクールに通う。その朝は母(三田佳子さん)と些細な事から口喧嘩、酷い悪態をついて家を飛び出たのだった。そしてこれが最後の会話になったのだ。

学校に着いてしばらくした時、大地震が教室を襲った。学校の周囲は闇につつまれ、信じられない砂嵐に閉じ込められてしまった。嵐がおさまった時、学校の周りには砂漠しかなかった。一方、神戸の街。学校のあった場所は地面もろとも消え失せ、大きな穴が残っていただけ。学者はタイムスリップしたというが、残された生徒の父兄達はなすすべがなかった。

タイムスリップした翔たち。翔を慕って学校に入り込んだ幼稚園児の勇一(佐々木一成君)も巻き込まれてしまった。出入り業者だった男(尾身としのりさん)も巻き込まれるが、変な劣等感を持つこの男、生徒に襲いかかるが、翔たちに撃退される。

最初は指揮をとっていた教師達大人は、みどり先生(南果歩さん)を残して、いつの間にかいなくなった。みんなの推薦で翔がリーダーとなったが、ライバルのマークとリーダーを争う。腕力ではマークに勝てない翔だが、その気力にマークは降参。この極限の世界で団結して立ち向かおうとする。

学校の外へ探検に出かけた時、翔は一人で「学校消失の碑」を見つけ、タイムスリップした未来である事に気付くが、みんなには黙っている事にした。学校へ戻ってみると、巨大昆虫のような生物に襲われた後だった。翔たちは協力して巨大昆虫を退治する。

一人マイペースで遊んでいた園児の勇一。巨大昆虫の幼虫と友達になるが、やがて元の世界へ帰っていく。残された翔たち。元の世界へ帰るのをきっぱり断念した。ここで一から新しい世界を創っていくのだ。


タイムスリップした学校の生徒たち
■堂々主役の林泰文さん

映画「野ゆき山ゆき海べゆき」公開は86年、本作が87年ですから1年の違い。撮影時期の差はもっとあったのでしょう。完全に声変りし、青年の面影になっています。でものほほ〜んとした風貌は健在。何度も書きましたが、決して美少年ではありませんが、味わいのある癒し系の顔は、見ていて本当に安らぎます。

特筆すべきなのはセリフ。英語も素晴らしいし、ナレーションも本当に素晴らしい。英語は吹き替えではないと思います。ネイティブの先生について必死で覚えたんだろうな。

最初に登場した時は、いきなり全裸でシャワー。そのまま母親にベタベタとくっついてちょっかいを出すあたりは、ちょっと嫌な奴かと思いましたけど。本当に芸達者な少年俳優。この作品以降も大林宣彦監督に重用されたのも判るような気がします。(この年で裸で走らされるのも可哀想ですけれど。)

■その他の俳優さん

学校に紛れ込んでしまった幼稚園児の勇一役を演じた佐々木一成君も好演。いつも三輪車に乗ってマイペース。裾の長いスモッグを着ているので、最初は男の子か女の子かよく判りませんでした。怪物に襲われることもなく、最後は元の世界へ戻って行きました。

出入り業者の鬱屈男を演じたのは、尾身としのりさん。大林監督の常連組。でも今回は少し損な役でした。さて肝心なのは外国人の少年少女俳優たち。日本の映画に出てくると、どうしてもバタ臭くなるか、TVに出ている変なガイジンの子供みたいになりがち。いやいや!しっかり演じています。正真正銘の洋画となんら遜色はありません。

口の達者なチビ少年、双子の美少年、いつも何かを食べている太っちょ少年、キザな美男子、この辺りのキャスティングは「ベアーズ」や「グーニーズ」など米国ジュブナイル映画をパクったのかもしれませんが、演じている子役の達者さには感服。もちろん女の子も達者でした。

映画冒頭。林君はまた裸にされています
幼稚園児の佐々木君。幼いのに存在感抜群

■この映画をどう考えるか

さて冒頭にも述べましたが、この映画を楳図かずお作品の映画化と考えるならば、完全な失敗作だろうと思います。登場人物も背景も変えていますので、原作ファンの方には受容できないでしょう。私はあくまで、楳図かずお作品をモチーフにした大林宣彦作品であると考えていますので、これはこれで十分楽しめる映画だろうと思います。

脚本の強引さやアラ。更には特撮のチャチさなど。これも大林映画なんだから、この独特のケレン味とチープ感が持ち味なんだから、と居直ることを許せるならば、十分許容範囲です。

脚本のアラの一例。みどり先生の恋人が東京から電話。「神戸は雨?まだ降っていない?東京はもう雨だからすぐ神戸も雨になるよ」これは関西人としてはおかしい話ですよね。大抵の人は、天気は西から変わると知っていますよ。(勿論、例外はあるでしょうけど)

次に出演者の大半を外国人にしたこと。これは正直どうかな、と思いましたが、今回再度見直してみると、外国人少年少女俳優のさっぱりした演技力もあって、正解ではなかったかと思っています。日本人だけの少年少女ものになると、妙な湿り気があって後味が悪くなることも。(最近では映画「七人の弔い」なんかがそう)

林泰文君、女生徒役の浅野愛子さんも外国人の中で浮いている感じがしません。米国西海岸にいるアジア系外国人といった雰囲気でリアリティがありました。唯一みどり先生役の南果歩さんは浮いていましたけれど。

結局、大林監督作品を許せるか、ダメかに依るのでしょう。私に関して言うならば、昔はダメでした。「転校生」も「時をかける少女」も。でも今になってみると嗜好が変わってきたのか、かなり許せます。いや大林ファンになりかかっている、そんな状況です。





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