水の旅人 侍KIDS (1993年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 5点
少年の出番 100%(ほぼ主役)
お薦めポイント テンポの効いた特撮・アクション
映画情報など 1993年公開/DVD発売中(写真は、吉田亮君)


■大林宣彦監督が童話「一寸法師」を料理すると

つい最近の映画とばかり思っていたら、もう20年近く昔の作品になりました。当時、映画館で見たはずなんですが、記憶も定かではなく、今回このレビューを書くためにDVDで見直しました。よくも悪くも大林宣彦監督の特徴がよく出た映画でした。

■ストーリー

野球のボール追っていた小学2年生の悟(吉田亮君)は、ボールが、たまたま川から流れてきた小人の老人(山崎努さん)に当たるのを見た。悟は小人を家に持って帰り、机にしまった。やがて気がついた小人は、墨江少名彦(すみえ・すくなひこ)と名乗り、山の水源から海へと旅をしているのだ、と説明した。

悟は訳が判らず、少名彦を昆虫か小動物のように扱っていたが、少名彦の崇高な武士のふるまいに圧倒され、しだいに尊敬の念を抱いていく。そして本当の祖父のように思い始めたのだった。

しかし、少名彦は言わば水の精であり、海へ下り蒸発してしまう運命は変えられない。別れが近づいた時、悟はキャンプで山へ行くが、その時地震が起きて山で遭難してしまった。少名彦は最後の恩返しとばかりに悟を救出する。

■ほぼ主役を演じた吉田亮君

オーディションで主役の座を射止めた吉田君、映画冒頭のキャストでは<新人>(子役に、こういう表記があるのは、何となく嬉しいものです)と書かれ、超ベテラン俳優、山崎務さんと堂々とわたりあいました。

ただ演技はしっかりしていましたが、セリフはかなり棒読み状態です。このセリフについては、吉田君だけでなく、山崎さん以外の役者さんは全て棒読み感があり、ひょっとすると、大林監督の演出なのかもしれません。

■全て「テンポの良さ」で押し切った

はっきり言って、脚本に大きなヤマもなく、特撮やアクションの技術レベルも映画とは思えない出来でした。特にカラスが重要な役を担っているのですが、作り物まる見え、ワイヤーさえ見えそう。(特撮は、今では有名な「白組」が担当したようですけど。大昔の特撮テレビ番組「悪魔くん」や「河童の三平」に出てくるカラスでも、もっとマシでしたよ。)

しかし、そんな欠点部分を、ポンポンと進める映像のテンポの良さ、ノリの良さで、ぶっ飛ばせるのが大林マジックなのかもしれません。

もう一つは音楽。最近の映画はBGMをあまり使わないで、リアル感を出そうとしているようですが、本作品は古い洋画のように、フルオーケストラのBGMがずっと流れています。昼のよろめきドラマレベルのシーンに、超壮大な歴史ドラマのようなBGMがミスマッチなんですが、これがテンポを作っています。この作風は、2008年の「その日のまえに」でも全く同じでした。

■その他の役者さんたち。(大林監督ファミリー)

何と言っても山崎務さん。よくこんな映画に出演されたと思います。結構恥ずかしいシーンも多いのにも係らず、体当りで演じておられるのは、本当のプロ役者であると再認識しました。また岸部一徳さん、いつも見ても同じです。「大阪ハムレット」で演じた中年男の飄々とした雰囲気はこの頃から変わりません。

そして多分、この映画で大林監督がもっとも押しているのは、残念ながら吉田亮くんではなく、姉を演じた伊藤歩さんでしょう。ストーリー上は脇役ですが、カメラや演出を見ていると、大林監督の力の入れようが感じられます。

レビューを書いた後で、DVD特典のメイキング、監督インタビューを見ましたが、やはり伊藤歩さんへの思い入れはすごいですね。「10年に1度の逸材」とのこと。一方、吉田亮君は柳家金語楼師匠の孫?なんて発言がありましたけど、真相はいかに。

大林監督は一度気に入った俳優さんは、とことん使うようで、本作には原田知世さんも出演。伊藤歩さんも、これ以後、何本も何本も大林作品に出演し、ファミリーになっているようです。(吉田君は気に入られなかったのかも)。なおウッチャンナンチャンの南原清隆さんは、この映画でチョイ役で出演し、2008年の「その日のまえに」では主役に抜擢されています。


最後に、おまけです。水の旅人、少名彦は、最後のシーンで山の水源に戻り、老人から少年へ若返ります。

山崎務さんから、まるで牛若丸のような美少年に変貌するのですが、その少年侍を演じたのは、歌舞伎役者の尾上丑之助さんでした。

当時は15歳くらいでしょうか、写真でしか見たことありませんが、戦後すぐあたりの「○○童子」役の美形スターの雰囲気があって、なかなか趣きがありました。





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