アイ・ラヴ・フレンズ (2001年)

少年映画評価 5点
作品総合評価 5点
少年の出番 50%(主人公の息子)
お薦めポイント 母の手話を通訳する少年の健気さ
映画情報など 2001年公開/DVDは絶版


少年映画の総索引(現在工事中)を作っていて、ずっと気になっていたこと。それは2001年の作品が極端に少ないことです。当時の日記を見直したり、キネマ旬報の過去の上映リストなどを見て、なにか忘れている作品はないか?と探していました。

たまたま、大澤豊監督の「こぶしプロ」のホームページを見ていて、本作品が2001年公開であることを知りました。DVDも発売されていますが、既に絶版状態で、仕方なく中古DVDを購入して鑑賞しました。

少年俳優として旬の時期。落合扶樹君
■ストーリー

聴覚障害がある女性写真家・山科美樹(忍足亜希子 おしだり あきこ さん)は、8年前に夫を亡くし、一人息子の優太(落合扶樹君)と二人で、義姉の経営する写真スタジオで暮している。

もう一人の主人公は、造園会社に勤める柴田真(萩原聖人さん)。7年前に交通事故を起し、幼い少年の命を奪ってしまった。刑期を終えたが、命を奪った少年への償いの気持ちから、自分の殻に閉じこもっている。

そんな柴田が落ち着く場所が、桜草が一面に茂った野原。この桜草は、償いの気持ちから彼が植えたものだった。そして、この桜草が柴田と母子を結びつける。(桜草の精?が出現)

ひょんな事から、柴田は美樹と優太と偶然出会う。そして優太が忘れていった野球のボールを届けに行き、3人の親交のようなものが始まる。優太も柴田を慕い始めるが、柴田の頑なな態度は変らない。

やがて柴田の勤める造園会社の社長(田村高廣さん)から、柴田の話を聞いた美樹は、写真の力で、柴田の心を溶かして行こうと決意した。そんな時、あの桜草の野原が破壊された!地主が土地を開発する事にしたのだ。その野原には、優太が親友と埋めた、大事なタイムカプセルがある。優太は工事の話を聞くや、野原に走っていくが。

■落合扶樹君、このベテラン少年俳優の実力

この映画の主役ではありませんが、キーとなる重要な役を、落合扶樹君が演じました。京都が舞台ですので、関西弁のセリフ。しかも会話の出来ない母の通訳ですから、長いセリフを一気にしゃべらないといけません。

本来なら、関西弁のネイティブ・スピーカー(平たく言えば、関西生まれの子役)を当てるべきですが、この役がキーマンの一人だけに実力のある子役として落合君になったのでしょう。

これは大正解だったと思います。セリフが長くなると、関西弁から、江戸っ子弁のイントネーションになってしまってはいましたが。関西人としては、この演技を出来る子役が、関西には、たった一人もいないのか、と残念な気もしますが。

落合扶樹さんの経歴を見ると、映画に引っ張りだこ。主演映画もかなりあります。なのに、地味なイメージがあります。それは1990年生まれのせいでしょうか。この年には、三浦春馬さん、柳楽優弥さん、池松壮亮さん、本郷奏多さんなど、有名人や実力派の俳優が大勢いるからかもしれません。

しかし冒頭で、2001年は少年映画不作と述べたましたように、2001年時点では、落合扶樹さんしか評価されていなかったのでしょうか。(事務所の力うんぬんは知りませんので)

本作品を見ても感じましたが、やはり安定感のある少年俳優がいると、子供が出ていても映画が締まります。そういう点が、監督さんや製作側から愛された理由ではと思います。

心に傷を持つ青年と、父のいない少年
桜草の精?が優太を助けてくれる

■ふしぎな映画製作会社 こぶしプロ・大澤豊監督

こぶしプロと言えば、児童映画専門の映画製作会社のようなイメージがありましたが、実は、社会派の作品が多い、独立プロダクション。神山征二郎監督の「ふるさと」、大澤豊監督の「ボクちゃんの戦場」などは知っていました。

本作品は、大人の男女が主役の普通の映画のはずですが、どこか児童映画の雰囲気も残っている、やや中途半端な印象も残ります。その一例が、桜草の精?が現れて、主人公や優太少年を助けてくれるのです。ちょっと子供騙しのような、リアリティ欠如の演出が気になります。

交通事故や障害者を描く社会派ドラマ、ファンタジー映画、児童映画をミックスしたような作品で、脚本はしっかりしていますが、全体的には、やや甘さを感じます。(偉そうに言って、すみません)

■さいごに。忍足亜希子さん

主役の忍足亜希子さん。この映画をDVDで見るまで全く知りませんでしたが、本当の聴覚障害者だったのですね(昔流に言えば、聾唖)。大澤豊監督に抜擢されて、この映画の前作「アイ・ラヴ・ユー」で主演デビューし、毎日映画コンクールで新人賞を受賞。

映画では、ややオーバーアクションなので、もう少し抑え目に演技できないものか、などと思っておりました。ただ、最後のシーンで、いなくなった息子、優太の名前を叫ぶ声。「ウータ、ウータ」と、声にもならない声。

迫真の演技だなと思っていましたが、本当の叫びだったのですね。それを知って、少し涙が出そうになりました。この作品の後も、大澤豊監督作品で主役を演じられておられます。本当に頑張って欲しいもの。

■ちょっと蛇足。 昔見た手話について

この作品でも手話がテーマの一つになっています。NHKの手話ニュース、また色々なところで手話を見ます。でも違和感があるのです。健常者の手話。私は(俺は)手話が出来るんだぞ。少しは私を(俺を)見習いなさい!そんな風に見えます。ひがみ根性で、すみません。

昔、子供だったころ、電車かバスの中で、本当の手話を見たことがあります。今の手話のような両手を使った、お遊戯(おおきなクリの木の下で・・あなたと、わたし・・)のようなものではありませんでした。

大きな荷物を片手に持っていた高齢の婦人が二人。使うのは片手だけ。しかも手指だけを激しく動かしています。顔や口も使っていたかもしれません。数分間やり取りを見ていた私は、彼女達が宇宙人にしか見えませんでした。

でも、手話の情報量、伝達速度は、口での会話の数倍くらいのコミュニケーションが出来ているように思えました。そしてスマートです。片手の手指だけで。日本語ではなかったのかもしれません。

こんな真剣な手話を見る事は、もう決してないのかもしれません。何年か先の未来には、手話なんてしなくても、携帯電話みたいなもので、障害者でも、外国人でも、宇宙人でも、犬猫でも、会話が出来る時代が来るのかも。





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