サウスバウンド (2007年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 5点
少年の出番 80%(準主役)
お薦めポイント 問題親父に振り回される少年
映画情報など 2007年公開/DVD発売中(写真は、田辺修斗君)


直木賞作家の奥田英朗氏の「サウスバウンド」の映画化作品。監督は「家族ゲーム」など話題作を数多く手がけた森田芳光氏。

■ストーリー

東京に住む小学6年生の上田二郎(田辺修斗君)は父母と姉、妹の5人家族。二郎の悩みは父親(豊川悦司さん)。元過激派で自称作家だが、いつ働いているのか、いつも家にいて鬱陶しい。おまけに、何かあるたび、過激派特有の訳わからない理論をブチあげて、問題を引き起こすやっかい親父。

些細なことで、二郎の学校へ怒鳴り込んだりして、二郎少年は恥ずかしくてたまらない。ある日、役人と喧嘩し「日本人や〜めた」とかいって、東京を抜け出して沖縄へ夜逃げ同然で引っ越してしまう。沖縄はこの親父の故郷であり、親戚の世話で廃屋となった家を見つけて南国生活を開始する。

初めは反対していた二郎達も、沖縄のワイルドな生活に馴染み出したころ、また問題が起きる。この廃家は、実は東京のリゾート会社の所有であり、この一帯の自然を破壊してリゾートを建設することになった。またまた親父の闘争本能が騒ぐが、相手は物量作戦で家を撤去していまい、親父は収監されてしまう。しかし!これで終わりはしない。

■小説と映画化

映画を観る前に、文庫本上下2巻の原作を読みました。小説は二郎少年の視線で描かれており、手に汗握る!とまでは言いませんが、非常に面白い展開で、エンターテイメント少年小説としては名作と言っても過言ではありません。

特に主人公の二郎少年の魅力がキーポイントでしたので、どんな風に映画化されるのか、不安でもありました。結果、映画は思ったよりも作品に忠実でした。ストーリーだけは。しかし小説とは別物でした。違いを例えるならば、蝋細工で作ったステーキの展示品と、本物の松阪牛ステーキ、くらいの差がありました。

でも、小説と映画では。もともと目的も手段も違うのですから、その差をとやかく言うのは野暮なので、ここでは省略します。あの作品を2時間少しにまとめざるを得ない映画作品としては、非常に健闘した方であると思います。ただ大失望した点が1つ。これは後で述べます

■田辺修斗君

主人公二郎少年を演じたのは、この作品がデビューとなる新人の田辺修斗君です。実際の年齢は少し上の中学生でしたが、小説を読んだ時に持っていた二郎少年のイメージに非常に近いルックスでしたので、この点は満足でした。

セリフなどは、まだまだ勉強すべき点があると思います。演技も妹役の少女の方がずっと達者な感じでした。しかし、持っている雰囲気は非常に魅力があります。「誰も知らない」でカンヌ最優秀男優賞を獲った柳楽優弥君とも共通する色気のようなモノは天性のもので、今後いい作品に出会えれば、伸びるかもしれません。

■なぜ日本の大手映画会社は子役を信じないのか

いきなり、こんなタイトルになりました。先ほど、この映画で大失望した点が1つあると書きましたが、それは原作では少年が主役なのに、映画では主役でなかったことです。監督は、素人の子役に主役を演じさせる自信がなかったのでしょうか。

有名俳優(ここでは豊川悦司さんや天海祐希さんなど)を立てなければいけない不文律があるのでしょうか。最近の日本映画は特に、少年が主役なのに影が薄い作品が多く感じます。主役少年を信じて演技指導に全力を尽くして欲しいのですが、なぜか有名俳優や美少女を出してお茶を濁すような脚本になってしまいます。

少年映画では興行的に苦しいからでしょうか。でも「ハリーポッター」は少年(今ではオッサン?)映画ですが、興行は大成功です。主役達を徹底的に信じて製作しているので「本物」感が伝わってきます。

それに対して、例えば一昨年の「花田少年史」はどうでしょう。原作漫画の人気からすればもっと興行的に成功してもいい筈だったのに。主役の須賀健太君を信じて、彼に全てを賭けた?そんな感じは全く伝わらず「偽物」感が伝わり、白けてしまったのが原因の一つではと考えています。

日本の大手映画会社には少年映画を作るのは当分期待できません。一方、お金のない独立系の作品では少年映画の珠玉作品が生まれたりします。お金がなくて有名俳優のギャラが払えないからかもしれませんが。この映画についてはもっと書きたいこともあるのですが、今回はここまでにします。





▼イーストエンド劇場へ戻る   ▼少年映画第3部へ戻る