トロッコ (2010年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 4点
少年の出番 100%(ほぼ主役)
お薦めポイント 台湾の風景に溶け込む兄弟
映画情報など 2010年公開/DVD発売中
(写真は弟役の大前喬一君)


2010年5月22日、梅田ガーデンシネマ(大阪)にて鑑賞。

芥川龍之介の小説「トロッコ」の映画化という事で、本年期待の作品。大阪公開日は土曜出勤の日でしたが、昼食もそこそこに大阪駅北側の梅田スカイビルへ。13:30からの2回目の上映に何とかすべり込みました。(関西ではここ1館の上映のため、もっと混雑しているかと思っていましたが、拍子抜けするほどガラガラ。)

台湾の静かな森の中。迷ってしまった兄弟
■ストーリー

台湾人の父と日本人の母を持つ、敦(原田賢人君)と凱(大前喬一君)の幼い兄弟。父が急死し、その遺骨を台湾に住む祖父のもとに届けにきた。台湾の素朴で美しい風景の中で、二人の兄弟が体験した小さな小さな冒険と、大きな心の成長の物語。

■映画の主題が絞りきれていません。

原作小説はあくまでモチーフであって、全くオリジナルの脚本になっています。映画の印象は、是枝裕和監督の「歩いても歩いても」にそっくりなのですが、編集に問題があるのか、非常にテンポが悪く、せっかく見に来たのに寝ている人もちらほら。

静かな感動で、涙も出るだろうと期待していたのですが、消化不良な部分が目立ち、もどかしくて、結局のところ凡作になってしまったという印象です。素材は素晴らしいものがあるだけに、料理人が何とかして欲しかった。

A.キャリアウーマンと子育ての悩み?
B.日本から捨てられた台湾人(元日本軍兵士)の悔しさ?
C.少年の葛藤、冒険、成長?

どれがメインで、どれがサイドなのか、非常にいい加減な印象を受けました。物語はC.に沿って進行しますが、公式サイトやチラシには【主演・小野真千子】と大書してあります。母親である小野さんの役は重要な役ではありますが、この映画の主題だったのでしょうか。それではなぜ「トロッコ」なんでしょうか。

女優さんの映画にしなければ興行が成り立たないとの判断があったのかもしれません。(残念ながら今の日本では、これは事実なので、仕方がないのですけれど)

台湾映画には必ず出てくる?
子供の水浴びシーン
■少年俳優は合格点。

特に兄の敦役を演じた原田賢人君は大物になりそうな予感がします。ふてぶてしさすら感じる堂々とした面構えには、ある種の風格さえ漂っています。日本でも活躍中の撮影監督リー・ピンビン氏のカメラは、敦の顔を様々な角度からとらえます。照明技術とあいまって、本当に美しい。それだけに敦、原田君をきちんと主役に据えて欲しかった。

弟の凱を演じた大前喬一君、甘え、わがまま、そして可愛いしぐさ、典型的な弟タイプ少年を見事に演じました。彼はなかなかの美少年で、また違った活躍が楽しみです。

■言語の問題(日・台双方に大きな違和感)

小野さんは主演ならば、もっと中国語(台湾語)に取り組むべきでしょ。台湾人の方々とコミュニケーションがとれる感じには見えません。(キネマ旬報等のインタビュー記事を見ても、彼女は常に受身な感じで、真剣に役に向かう姿勢が見えないのですが)

また、お祖父さんを演じたホン・リウさん。雰囲気は素晴らしいのですが、彼の話す日本語はカタコト程度のお粗末さで、かつて皇軍兵士だった方の日本語では決してありません。これまで何本か台湾人兵士関連ドキュメンタリーを見ましたが、皆さん単語を忘れてはいても、イントネーションは非常に流暢です。

「日本統治時代の台湾は良かった、日本は憧れの国だった」とストレートに台湾の俳優さんに言わせるのも、品がない感じがします。この辺は政治的ですので、これ以上はノーコメント。

■最後にもう一度

非常にもったいない映画でした。前述のリー・ピンビン氏など、台湾を代表する映画スタッフが参加していますが、どうしてこんな凡作になってしまったのでしょうか。台北やムンバイの映画祭に出品、招待とは書かれていますが、何一つ受賞していない事が、この作品の質を端的に表していると思います。

もう一度、この撮影フィルムを台湾人スタップだけで再編集した「特別エディション」を見てみたい。





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