信さん 炭坑町のセレナーデ (2010年)

少年映画評価 6点
作品総合評価 4点
少年の出番 60%(熱演です)
お薦めポイント 小林廉君はさすが、熱演です。
映画情報など 2010年公開/DVD発売中
(写真は、少年信さんを演じた小林廉君)


2010年11月27日、シネプレックス枚方(大阪)にて鑑賞。

この週は、小倉で鑑賞した北九州少年合唱隊の定期演奏会の余韻も残る中、同じ九州が舞台の映画「信さん」にも期待していました。大阪府では2館だけの上映。九条のシネ・ヌーヴォーは常連とまでは言いませんが、もう飽きるほど行っていますので、今回は初めての映画館、シネプレックス枚方(ひらかた)へ。

京阪電車の特急で樟葉(くずは)駅下車、ここからバスで枚方国道バイパス沿いのショッピングセンターへ。ずいぶん辺鄙なところです。こんな所にシネコンを作って採算が取れるのでしょうか。角川映画系列で、9スクリーンもある立派なシネコンですが、案の定、土曜の午後だというのに閑古鳥が鳴いている感じです。自動車に乗る人専用の映画館なんでしょうね。歩き人の私には辛い映画館です。

■ストーリー

小学生の守(中村大地君)は母の美智代(小雪さん)と二人で東京から故郷の炭鉱町に帰ってきた。東京帰りの守は苛められるが、信さん(小林廉君)という少年に助けられた。信さんは両親がおらず、親戚の家で暮らしていたが、家でも学校でも鼻つまみ者だった。

守と信さんは友人になるが、母を知らない信さんは、守の母である美智代憧れを抱く。そしてその感情は母への思いというよりも、初恋の感情に近くなっていく。そうやって成長していくが。

■信さんの人物像が弱すぎる
守(中村大地君)と信さん(小林廉君)

映画ですが、正直言って微妙でした。タイトルが間違っています。「信さん」でなくて「美智代さん」でしょう。もちろん、少年時代を演じた、小林廉君と、中村大地君の2人は期待に違わぬ素晴らしい演技でしたし、場面、場面を切り取ってみれば、感動的で印象に残る部分も多々ありました。

しかし、映画全体を通してみると、なんと凡作、なんとご都合主義、感動できるような出来にはなっていません。あくまで私感です。この映画を愛しておられる方には申し訳ございません。

感動できない原因は、信さんという人物像が弱すぎることだと思います。小雪さん演じる女性、美智代。彼女の息子、守のナレーションで進行するのですが、守の存在も弱いのです。全ては小雪さんという女優の魅力をどう出すかというテーマで撮られたとしか思えないのです。

守は、大人になっても心の中で「信さん」と呼びかけるほど、信さんは大きな存在だったはずです。だからこそ、信さんと守の出会い、友情を深めていくプロセスをしっかり描いて欲しいのです。なのに全く手抜き。こんなので2人の心が繋がるとは到底思えません。

一方で、信さんと美智代の出会い、これも初対面でいきなり抱きしめたり、泣いたり、あまりにもご都合な脚本に、興醒めでした。信さん亡き後、余計な野球のシーンに時間をかけるのは、いったい何の意味があるのでしょう。

監督さんや脚本家の力量不足なのでしょうか。それとも映画製作委員会、あるいは俳優プロダクションの横やりが入って、妥協の産物のような作品になってしまったのでしょうか。こんな映画になってしまうようでは、邦画の未来は暗いかもしません。先日のPFFに入選した、若く、お金のない、監督の卵たちの爪の垢を煎じて飲んで欲しい。邦画関係者全員。

久し振りに毒言を吐いてしまいました。申し訳ありません。毒言はもう終り。180度転換して、この映画で良かったところ、ちょっと感動したところを書きます。

リー少年と守
■朝鮮人一家の描写が映画で光る

炭坑で働く朝鮮人一家の息子リー・ヨンナムのエピソードです。少年時代のリー君を演じた子役は誰か判りませんが、この少年が本当に良かった。学校で悪ガキに、朝鮮と言って酷い仕打ちを受け、泥だらけになってトボトボ歩く姿は、日テレのドキュメンタリーで見た北朝鮮の浮浪児そのもの。骨と皮だけで、どこを見つめているのか判らない虚ろな瞳。

守は、義憤を出して助けるのか。結局それは出来ませんが、リーの後をつけて朝鮮人一家と交流が始まり、守の言葉に、初めて見せたリーの笑顔。この笑顔がこの作品の中で一番輝いていました。信さんよりも、リーの方が「心の友」ではないでしょうか。

パンフレットを読むと、脚本は韓国系の方のようでした。だからでしょうか。今度はこちらのエピソードで、是非別作品を。なおパンフレットは例によって子役は全く無視。700円もするのに酷いものです。

■青年時代はそつなく。でもインパクト不足

さて、中学生から青年時代を演じたのが、石田卓也さん(信さん)、池松壮亮さん(守)、柄本時生さん(リー)の3人。期待の若手俳優さんですので、ソツなく演じておりましたが、正直言って、そんなに印象に残りませんでした。

池松壮亮さんは、子役時代から贔屓にしている俳優さんです。でも池松さんの演じた守青年は、ちょっと性格が悪くなった感じがして、あまり感情移入できません。石田さんも爽やかなイケメンですが、作品の中では、子役の小林廉君の方が数倍、頑張ったのではと思います。

柄本さんも、貧相な容貌(ごめんなさいね)は、子役と共通していますが、在日朝鮮人の持つ空気を体現できているとは言えません。ちょっと表現が難しいですけど。

長くなってしまいましたが、最後にまとめです。原作は読んでいませんが、「信さん」という男の名前がタイトルになって、九州が舞台と言えば「無法松の一生」のような強烈な男の物語を想像していました。

今は草食系なんとか等の、ひ弱な感じの男が多いなか、九州男児、それも骨太の男の物語をどこかで見たいものです。(なお映画「無法松の一生」は未見ですが、岩下俊作氏の原作小説は読みました。映画も見てみようと思っています。)





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