そして父になる (2013年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 8点
少年の出番 90%(幼いが印象的)
お薦めポイント カンヌを射止めた幼い瞳。
映画情報など 2013年公開 DVD発売予定
(写真は二宮慶多君)


2013年9月28日、天王寺アポロシネマ8(大阪)にて鑑賞。

是枝裕和監督作品で、カンヌ映画祭審査員賞受賞作品ですから、見逃す訳にはいきません。早くから前売券を購入していました。大阪では、正式公開前に、ほぼ全ての映画館で先行上映が行われているのですが、前売券が使えないとの話も聞きましたので、公開日まで待ちました。

大阪のキタやミナミの混みそうな映画館は避けて、天王寺という、やや場末の映画館に行きましたが、さすがに話題作だけあって、9割近く席が埋まっていました。(大半は、高齢のご婦人)

父に捨てられたのか。幼い足でどこへ行くのか
■ストーリー

大手企業のエリート社員、野々宮良多(福山雅治さん)は、妻と6歳の息子 慶多(二宮慶多君)と3人暮らし。幸せな家庭を築いていた。ところがある日、出産した病院から連絡があった。「子供を取り違えた可能性がある」と。相手は、地方都市で電気店を営む男(リリー・フランキーさん)で、息子は琉晴という。他に妹と弟もいた。

ここから両家の苦悩が始まった。6年間育てた子供か、それとも血のつながった子供か、どちらを選択すればいいのだろうか。殆どのケースは血縁を重視して、子供を交換するという。

野々宮はエリートだった。血のつながっていない慶多が、自分のような優秀な子供ではないかもしれないとの思いから、最後は交換することにする。果たしてそれで良かったのか。妻はショックを受けている。野々宮はクールだったが、あるものを見て、心が揺れ出した。

無邪気だった頃
■赤ちゃん取り違え(題材としては昔から)

日本の高度成長期、ベビーブームの時代には実際に頻発したようで、それを題材にして脚本を書かれたとの事です。でも映画では結構使われる題材。フランス映画「人生は長く静かな河」(1988年)が先輩ですね。童話の「みにくいアヒルの子」の方が先かも。赤ちゃん取り違えではありませんけれど。

貧乏で子だくさんの家に育った娘。「ふんっ!あたいはこんな貧乏な家の子じゃなくて、本当は貴族のお嬢様なのよ。赤ん坊の時に間違えられたの。いつか本当の両親が迎えにきてくれるわ」なんて、夢見る乙女の定番空想ストーリー。

■本作は「父親の視点」淡白なのがいい

本作は、子供取り違えを父親の視点で描いています。しかも子供は男の子。最も淡白な関係ですので、どろどろした部分がなく、すっきりと見れます。(表現が難しいのですが)

母親の視点で描いた場合
母親の場合、子供の性別に関係なく、交換なんて簡単なものではないでしょう。精神的に追い詰められてドロドロのサイコ・ストーリーになりそうです。本作品でも、両家の母親を演じた尾野真千子さん、真木よう子さんの好演が光りましたが、映画の中では、一歩引いた位置だったのが良かったと思います。

子供が女の子の場合
女の子の場合、父親は、男の子ほど淡白ではおられないので、やはりドロドロとしたものになった可能性があります。そういう意味で、本作は親子の葛藤部分を一番あっさりと描いています。ある意味では、この部分を避けた(逃げた)のかもしれません。

なお参考までに「人生は長く静かな河」では、取り違えは男の子と女の子。映画は男の子の視点で描かれています。これは、なかなかの作品でした。

■カンヌを射止めたのは、幼い少年の無垢な瞳?

さて、主演の福山雅治さんに注目が集まりますが、少年映画ファンとしては、子役さんの演技が気になります。今回は少年俳優というにはあまりに幼いので、演技力には期待できませんが、大変印象に残りました。

一番は、慶多を演じた二宮慶多(役名は本名と同じなのですね)君。両親の言うことは全て素直に聞き、自分の我を出さない、おとなしい子供。実際にはなかなかいません。

彼は口では何も言いませんが、子犬のようなクリクリした大きな目を動かして素晴らしい表情をしてくれます。この表情に、カンヌの審査員がやられたのでは(もちろん勝手な私見です)。しかしカンヌ映画祭の入賞作品には、少年俳優が関係する率が非常に高いように思いますので、あながち妄想ではないかも。

お受験合格ケーキのろうそくを消す
本当と父と一緒にお風呂

■名作「誰も知らない」の小道具と風景

当時の少年俳優・柳楽優弥さんを世界スターにした「誰も知らない」の持つ映画のパワーに比べると、本作品は、はっきり言って物足りない部分があります。でも、ちょっとした小道具や風景が気になりました。

公園の回転遊具、真ん中に手すりのある階段(同じロケ地かどうかは判りません)ピアノ、そして押入れ。この押入れのシーンが、一番泣かされました。

子供を交換して数ヶ月後。慶多は寂しいとも言わず新しい家で生活しています。しかし家出した琉晴を連れ戻しに、父(福山雅治さん)がやって来ました。久し振りに父の声を聞いた慶多。懐かしいはずなのに、何か言いたいはずなのに。押入れへ隠れます。この時に慶多の気持ちを考えると。

是枝監督作品は1回みただけでは、淡白なのですが、どこか引っ掛かる所があり、考えさせられる部分が残ります。何回か見て、考えたいところです。

琉晴を演じた黄升君。なかなかの個性派
前の父がやってきた気配を感じて
後ろの押入れに隠れます。何か切なくて





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