くちびるに歌を (2015年)

少年映画評価 6点
作品総合評価 6点
少年の出番 35%(準々主役という感じでしょうか)
お薦めポイント 風光明媚な五島列島、合唱にかける中学生がさわやか
映画情報など 2015年公開。DVD/BD発売中。写真は下田翔大君


女子コーラス映画だろうと思ってノーマークでした。男子中学生も意外に活躍しているとの話を聞いて、そんなに期待もせずに映画館へ。意外な拾いものでした。少年映画だと思って見に行くと失望するかもしれませんが、少女映画だと思って見に行ったので、満足感は高いです。

(サイトを見直していましたが、下田翔大君のこれだけの頑張りを思うと、やっぱりこれは少年映画でもあります。そのため、5部から3部へ格上げしました。)

■ストーリー

長崎県五島列島の中学校に、女性教師の柏木先生(新垣結衣さん)が、臨時教師として赴任してきた。柏木先生はこの島の出身だが、東京で音楽大学を出て世界的に有名なピアニストとなった経歴の持ち主で、産休中の先生に代り、合唱部の顧問になった。

一方の本作品の実質的な主人公は、女子中学生のナズナ(恒松祐里さん)で、合唱部の部長。ナズナは母を亡くし、父は愛人と失踪しており、祖父母と3人暮し。そんな暗い境遇にもめげず、合唱に打ち込む明るい少女だ。彼女は柏木先生の指導に大きな期待を寄せるが、先生は全くやる気なし。ピアノも弾いてくれない。

それどころか、超美人の柏木先生を目当てに男子が入部届けを出し、先生が承諾したから大変だ。全国学校音楽コンクール予選で大事な時に、不純な動機で下手くそな男子入部反対!とナズナは抗議するが「あなた達女子だけというけれど、今の実力は全国どころか、県でも下位レベルよ」と全く無視されてしまう。

ひょんな事から悟(下田翔大君)も入部する羽目になった。悟は大人しく、存在感のない少年で、狭い島の中学で3年生にもなるのに、いまだに先生に名前をまともに覚えられていない。悟には自閉症の兄がおり、障害者作業所で働いているが、その送迎が悟の役目だった。毎日、兄弟で同じ道を一緒に歩く。それは運命だと悟は思っていた。

柏木先生とナズナの反目、不純な動機の男子部員、中3なのにソプラノ美声が出せる悟、そんな不協和音をかかえながら、合唱部は全国大会をめざして練習。課題曲は、手紙〜拝啓十五の君へ(アンジェラ・アキ作詞,作曲)

■典型的な女性教師モノなんですが

二十四の瞳でおなじみ、島や地方の学校に美人女性教師が赴任して、子どもや地域の人々との交流を通して慕われていく物語。本作品もそのパターンをしっかり踏襲しています。

おまけに、この先生は世界的なピアニストだったのに、過去の事件(婚約者の事故死)がトラウマになって、ピアノを弾けなくなっているという設定。これもよくあるパターンです。生徒達との交流を通して、そのトラウマを打ち破り、先生もまた、めでたし、めでたしとなる訳です。

似た作品としては「おっぱいバレー」や「チェスト!」がありました。これらは男子生徒との交流が主体の少年映画でしたが、本作品は合唱部の女子生徒と先生の物語です。ただ、先生も女子生徒も、キャラクター設定がふらついており、どこか間延びした演出になっています。132分という長編ですが、この内容なら20分くらいカットできたように思います。

女性教師を演じた新垣結衣さん、役柄なので仕方ありませんが、やや暗くて投げやりな感じ。女子中学生役の恒松祐里さんは、現代っ子らしく明るく前向きなんですが、急に落ち込んだり、逃げ出したりと、感情移入しずらい感じです。そのため、後で述べますが、第3番目のキャラである男子中学生においしいところを持っていかれたかもしれません。

誰かに声をかけられて振り向く悟
実は人違い。存在感のない悟なのです。
いきなり先生に叱られる悟
やっぱり人違い。先生にも覚えられていない悟。

■本来の主役は合唱なんですけれど

映画で歌われるのは「手紙〜拝啓十五の君へ」と「マイバラード」の2曲だけ。合唱部の練習シーンは、運動部のような体操やランニングばかりで、合唱ファンとしては少し不満が残るところ。それでもラストのコンクール予選での「手紙・・」フル合唱には感動しました。(手紙は結局、このラストだけ)

でも、あの下手くそでお荷物の男子連中が、テノールパートとしてハーモニーを出せるようになる。その過程が全く省略されていますので、ちょっと説得力がありません。歌は吹き替えのように感じてしまいます。

他にもご都合主義の脚本など、アラを探せばたくさんあるのですが、それもこれも演じた中学生たちの爽やかさの前には、吹っ飛んでしまいました。やはり若いっていいですね。楽しめました。

ちなみに私は少年合唱ファンで、何回もコンサートに行ってるだけに「マイバラード」はおなじみですが、学校音楽に関わりの無い方は全く知らないかもしれません。「大地讃頌」「with you smile」なんかもいい歌ですよ。

■さて、中学生役を演じた下田翔大君
私服での集合写真から
(素顔は小学生ですね)

本作品を見る1ヶ月前(2015年2月)に、若手監督の短編映画「世田谷区、39丁目」で主役小学生の下田翔大君を見たところでした。その下田君が中学生役を演じている、これが本作品を見る直接的な動機でした。

本作品では準々主役という位置づけですが、非常にいい役で、ある意味、主役の二人を喰ってしまい、私には一番印象に残りました。それは純真で誠実なキャラクターにブレが無いからだと思います。彼はこんな人生感を持っているのです。

障害を持った兄。両親が亡くなった後、誰がこの子の面倒を見るのか。結婚なんてできる訳もない。そこで下した決断が、もう一人子供を生んで、その子(弟)に面倒を見させる。これがこの弟の運命。映画とはいえ、ちょっとたまらない人生感です。(海外で、難病の子供に、臓器移植のドナーとして、もう一人下の子を生んだという報道を聞いたことがあります。これと同じですね)

よく調べましたところ、やはり下田君は小学生(12歳)で、出演者中最年少だったとか。身体の線や肩幅は子供で非常に細いのですが、脚がすらっと長く、少年らしいスタイルが印象に残ります。

声はボーイソプラノで「マイバラード」をアカペラ(無伴奏)で歌ってくれました。本人の声なんでしょうか。合唱部では男子なのに、一人だけ女子と一緒のソプラノパートに入れられていたのが、微笑ましいところでした。

ただ合唱になると、ボーイソプラノの繊細さは、パワーのある女声の中に埋もれてしまうのが残念なところ。京都市少年合唱団を思い出してしまいました。それでも男女が一緒で混声合唱というのは、本当にいいものだと思います。

■おわりに

その他、気になった出演者として、昨年2014年の「瀬戸内海賊物語」で主演の少女二人が合唱部員として出演していました。今回は脇役でしたけれど、そのまま二人ペアで出てくるのも、ちょっとした演出でしょうか。ちなみに同作品に出ていた少年俳優の大前喬一君あたりも出演してくれれば良かったのですが。

不純な動機で合唱部に入ってきた男子のリーダーを演じた佐野勇斗さん。彼もイケメンですし、男子部員をしっかりリードするいい役を貰っていました。青春映画だったら、彼と主役のナズナの絡みがもっとあったかもしれません。

最後にいくつか下田君の写真を掲載して、本レビューを終わります。皆様も是非ご鑑賞してみて下さい。青春時代の部活の思い出に浸れること間違いなし。そう言えば「楽隊のうさぎ」というのもありました。

youtubeで「手紙〜拝啓十五の君へ」の映画版MVが視聴できます。これがなかなか歌も映像もいいんです。やっぱり悟役の下田翔大君が印象に残ります。





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