ふたりのイーダ (1976年)

少年映画評価 6点
作品総合評価 7点
少年の出番 85%(実質主役)
お薦めポイント 被爆から30年後の広島、悲しいファンタジー
映画情報など 1976年製作。未メディア化
(写真は直樹役の上屋建一君。)


松谷みよ子氏の同名小説(戦争童話)の映画化。40年以上前の作品で、過去何回かTVで放送されたのをチラっと見た記憶があります。そして昨年(2016年)、日本映画専門チャンネルでハイビジョンに修復された美しい映像で放送。ブルーレイで録画して大切に保存しています。

松谷氏の原作小説は子供の頃、講談社文庫版「龍の子太郎・ふたりのイーダ」で読みました。童話の形をとりながら、戦争や歴史への批判が子供にも判る文章で、非常に感銘を受けたことを覚えています。残念ながら2015年に逝去されました。

廃屋の中でイーダを待ち続ける椅子(左)に、広島の写真を見せる直樹少年
■ストーリー

1976年の夏休み、小4の直樹(上屋建一君)と3歳の妹ゆう子(原口祐子さん)は、広島近郊の祖父母の家で過ごすことになった。母(倍賞千恵子さん)はジャーナリストで忙しく、子供を預けて取材の仕事。父はいない。それでも直樹にとっては田舎の夏休みは楽しみに満ちている(はずだった)。

直樹が蝶を追っていると、なんと小さな椅子が歩いているのを目撃。びっくりして後をつけると、廃屋になった洋館に入っていく。「いない・・どこにもいない」とつぶやきながら。更に次の日、昼寝から覚めると3歳の妹がいない。もしや・・昨日の洋館に行くと、妹が椅子と楽しそうに遊んでいる。

31年前の8月6日の朝、この洋館の主人と3歳の孫娘は広島に出かけて二度と帰って来なかった。椅子は孫娘を待ち続け、たまたま出会った直樹の妹を孫娘と思い込んでいる。そして妹にもその想いが乗り移っている。直樹は妹を取り戻そうとするが、誰も信じてくれない。そして祖父(森繁久彌氏)から広島の悲劇の話を聞く事になる。

■夏休み。おじいちゃん、おばあちゃんの家

戦後昭和の時代。都会の小学生の夏休みは、祖父母の田舎へ帰ることが何よりの楽しみでした。昆虫採集、魚釣り、優しい祖父母。スマホもTVゲームも無かった時代ですが、ある意味豊かなlifeを送っていたのかも。もちろん故郷帰りなんてしない子供たちも多かったでしょうけれど。

そんな夏休み。少年が不思議な椅子に遭遇。最初はファンタジーのように胸を躍らせてくれます。やがて少年は妹を取り戻そうと、椅子に敵意をむき出しにして「お前のイーダは原爆で死んだんだ」と広島の写真を突きつけます。椅子はショックを受けてバラバラに。

ここから少年の意識が変わります。僕は椅子に酷い事したかもしれない。原爆で亡くなった女の子。その帰りを30年以上待ち続けている椅子(古来、古い道具には付喪神がついて心を持つらしい)。その気持ちを思いやる事ができるように成長したのです。

蝶を追っている時、歩く椅子に出会った
その夜、少年が見た悪夢。椅子が襲ってくる

■少年は主役ではありません(兄ちゃんはつらい)
直樹とゆう子の兄妹
(本作含め5部作に登場)

原作では終始、直樹少年の視点で話が進みます。映画はその辺りがやや曖昧。原作では殆ど言及のない(と記憶している)母親の再婚話、被爆者差別の話にかなりの時間が割かれています。母親役の倍賞千恵子さんへの配慮なのか、童話ではなく大人向けの作品にしたのかもしれません。

不思議な椅子は持ち主だった女の子が全て。少年には「お前は邪魔だ、出て行け」と邪険に扱います。それにめげずに一生懸命頑張りますが、全ては妹のため。自分のしたい事を求めて冒険する訳ではありません。そういう意味でも主役とは言えないような気もします。

とはいえ、直樹役を演じた上屋建一君は好演でした。ふてぶてしい面構えをするかと思うと、母を求める幼い顔のギャップが良かった。ただセリフの滑舌は少し難があるせいか、彼の場面でしばしば女性のナレーションが入ります。演技ではなく言葉で説明するのは今ひとつだと思うのですが。

■実はシリーズ化

私自身はこの「ふたりのイーダ」しか読んだ事がなかったのですが、ふたりの兄妹、直樹とゆう子を主役にした小説は5部作との事。松谷氏の小説は文庫本が少ないので、読む機会がないのが残念ですが、なんとか続きも読みたいと思っています。(図書館の子供コーナーにでも行くかな)

沖縄や広島へ旅行すると、他の場所とは異なる空気を感じるのです。悲劇というネガティブな感情ではなく、何か深い祈りがあるポジティブな感情なんです。「過ちは繰り返しませんから」という言葉も、私自身は世界に誇れる素晴らしい言葉だと思うのですが。(種々違和感がある事も承知しています。でも復讐と憎しみの連鎖を破るのは、この考え方しかないのでは。中東や民族紛争をみているとそう思います。)

※付記
実はレビューを書くにあたって原作小説を読み返したかったのですが、文庫本は処分してしまっており、Amazonで講談社青い鳥文庫の「ふたりのイーダ」を購入。1980年初刷ですが、39刷を重ねて今でもピッカピカの新本が入手できます。ゴシップばかり追う講談社ですが、こんな良心もあったのですねえ。
それはさておき、原作では、りつ子さんという若い女性が非常に重要な役として登場しています。こんなことも忘れてしまっていました。子供の本とバカにせずに、是非皆様も読んでみて下さい。


時間が止まったままの小さな茶碗とお箸
右は日めくり(進め一億 火の玉だ!)
広島の悲劇を知った直樹少年。その瞳には・・


母、祖父母と広島で灯籠流し。
(少年は手を合わせて、何を祈るのだろうか)
翌日、全てを忘れて夏休みを楽しむため海水浴に
そこへ流れついたのは灯籠と、バラバラになった椅子






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