泳ぎすぎた夜 (2017年)

少年映画評価 6点
作品総合評価 6点
少年の出番 100%(6歳にして堂々の主役)
お薦めポイント 雪の中を気ままにひたすら歩く。ただそれだけ
映画情報など 2018年公開。BD/DVD未発売
(写真は主役の古川鳳羅(こがわ たから)君)


6歳の少年が主役、しかも日本とフランスの合作映画。しかし全く話題にもならず、ただキネマ旬報の映画評を読むとそんなに悪い事は書いておらず(高評価でもありませんが)、少し期待を持って鑑賞。

鑑賞したのは京都に新しく出来たミニシアターの出町座。もともとは京都の繁華街の真ん中で廃校になった立誠小学校の教室を利用した立誠シネマでしたが、京阪電車の終点である出町柳駅からすぐのビルに移転。2スクリーンで天井は低いもののシートは本格的で結構見やすくて気に入りました。

さて映画ですが、これは評価が別れるでしょう。ダメな人は10分持たずに席を立ってしまうかも。無声映画でもないのにセリフなし、少年が何者で、何をしようとしているのか、そんな説明的な映像も一切なし。NHKあたりで放送終了後に流れる環境映像と大してかわりません。

でも絵本の世界、スパイク・リー監督の映画「かいじゅうたちのいるところ」を彷彿とさせる感じで79分間スクリーンに集中できました。最初はただのクソガキと思っていた少年の存在感が素晴らしい。

少年は学校へ行かず、誰もいない雪の野原へと歩き出す...
■ストーリー

6歳の少年(古川鳳羅)の父は弘前の魚市場で働いており、毎朝暗いうちに家を出ていく。ある日、父が出かける時間に起きてしまった少年は寝つかれず、魚を絵を描いたり、デジカメで写真を撮ったりと...(少年が父の仕事や魚が好きな事はなんとなく判ります)

その日の朝、姉と一緒に学校に出かけたものの学校には行かず、雪の積もった野原を歩き始めます。やがて電車の無人駅に到着、待合室(ストーブがあります)で寝てしまいますが、やってきた電車で弘前へ(無賃乗車!)。街の中でもひたすら歩き回ります。いったいどこへ行こうとしているのか。

少年は魚の絵が書かれたトラックに反応(やはり父の職場の魚市場に行きたいんだ)。なんとか市場に着いたものの商売は既に終わって無人。やがて吹雪が強くなってきました。少年は寒さに耐えきれず駐車場に停まっている車のドアに手をかけますが、どれもロックされていて...(このままでは死んじゃうよ)

■よく考えると怖い。小さな子供への無関心

主役の少年を演じた古川鳳羅君。天真爛漫なのか、ふてぶてしいのか、雪の中を一人ぼっちで歩いていても違和感を感じません。カメラは遠景(ロングショット)でしかも長回し。テレビの「はじめてのお使い」のようなスタッフも見当たらず、どうやって演技指導したのかと思うくらい。

しかし映画を見ているうちに、重いランドセル(北国仕様?)が何度も肩からずり落ちるし、足取りもおぼつかなくなってきます。でも周囲の大人はそんな子供が一人で歩いていても全く無関心。いつ、どんな原因で幼い命が失われてしまっても不思議はないのに。

「早く誰か気づいてやれよ」と心で焦りながらスクリーンに見入っていました。吹雪の駐車場で小さな手でドアを開けようと何台も何台も車に歩み寄りますが「ロックしてない車なんて無いだろう」もしかして嫌な悲劇として映画が終わるのかと不安に。

ネタバレですが悲劇ではありません、少年にしたら全部夢の世界のようなもの。ちょっと安易なラストだったりして。これを書いている2018年は新潟で幼い少女が殺害される事件が世間を騒がせているだけに心配になりました。(青森の人達は幼い男の子なんてどうなっても構わないのだろうか...そんな事ありませんね)

まだ暗い夜。父が出かけたのが気になって..
少年が描いた魚の絵。これがこの映画の冒険マップ
(父の職場で見た魚が忘れられない..)

無人駅からひとりで電車に乗って弘前へ
(電車の本数はわずか。ディーゼルでなく電車でした)
重いランドセル。道端にへたりこんでも平気..
(犬に吠えられても平気..)

やっと魚市場に到着。誰もいない...
(この後吹雪になり、少年は雪をしのぐ場所もなく...)
やっぱり親切な大人はいた。少年は寝たまま家へ
(少年にとって今日の冒険は夢だったと思うのかな)


(追記)
本作の登場人物。少年の父、姉、母は全て実際の家族。父親は本当に弘前の魚市場の関係者との事です。少年以外の登場人物で一番印象に残っているのは、少年の家で飼っている犬(人物ではありませんが)。いやもうこの犬は最高。お近くの映画館でやっていたら是非ご鑑賞を。






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