オサムの朝 (1999年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 6点
少年の出番 100%(実質主役)
お薦めポイント 東京から地方へきた少年。ワンパターンでも感動
映画情報など 1999年製作。VHSビデオ廃盤
(写真は少年オサム役の森脇史登君)


東京から地方へやってきた少年が、地元の子供達との軋轢を克服して成長していく。本当に少年映画として王道のストーリー。ただ本作は過去と現在(といっても1999年)の少年の物語を二重に描いています。これもよくある手法ですけれど。

森詠氏の同名小説が原作。同氏の実体験に基くのだろうと思います。本作が小学生時代、2008年の映画「那須少年記」は続編の中学生時代を描いたものです。栃木県の那須高原という土地に対する原作者の思い入れが深く感じられます。

本作はDVD化されていなかったのですが、最近になってビデオを見る機会を得てようやくレビューが書けます。こういう作品こそ後世に残すべきアーカイブとしてDVDやブルーレイで発売して欲しいものです。

兄のツトム(左)とオサム。兄は手塚治虫に憧れて漫画家志望。
(ちょっと画質が粗くて明治時代の洋画風。でもオサムは美少年)
■ストーリー

電機会社に務める北山修(中村雅俊)は人事異動で東京から大阪へ転勤となった。妻と娘は大不満。修は一人で故郷の那須高原でリフレッシュ休暇。那須塩原からレンタカーで向かう途中、ある少年と軽い接触事故。少年は直樹(西谷有統)といい仙台まで一人旅との事。修は直樹を車に乗せた(危ないオヤジの車に乗ってはいけませんよ...)

直樹は自分は両親から嫌われていると言って心を閉ざしたまま。修は自分の少年時代の事を聞かせる。昭和29年、オサム(森脇史登)は両親と兄の4人家族で東京から那須高原へ越して来た。父(榎木孝明)は画家だが絵で生活は出来ず、出稼ぎに。家族の生活は苦しい。地元の子は坊主頭だがオサムは坊ちゃん刈り。これがイジメのネタ。

せっかく出来た親友のテツオ(小林元樹)だったが親戚へ引き取られていった。オサムは頭を坊主にした。女先生、妖しい女性美容師、闘鶏オタクの青年などに支えられながら、地元に溶け込んでいく。しかし運命は厳しい。愛犬レオの死。母が家出。辛い時は那須岳をふり仰げばいい。ぐっとこらえるんだ。

修の話に聞き入っていた直樹。しかし修が直樹の家へ電話(1999年には携帯電話普及)をするのを見て直樹は夜の森へ逃げ出した。道に迷った直樹の前に現れたのは少年オサムと愛犬レオの幻影。やがて修が追いかけてきた。翌日、修と直樹はレオを埋めた墓で手を合わせた。直樹の目に光が戻ったようだ...

■二人の少年

現代っ子(と言っても1999年)の直樹はヒネくれた性格。勉強が優秀な兄にいつも比較されていじけてしまった。両親も露骨に直樹を差別している(らしい)。しかし経済的には裕福。夏休みに仙台の祖母の家へ新幹線で一人旅。直樹に言わせれば、お前の顔など見たくないので仙台へ追いやられたそうだ。

本作でも全く可愛げの無いクソガキ。でも中村雅俊さん演じる修は彼を捨てておきません。自分も過去そんな時があったからでしょう。なんとか立ち直って欲しい。見ず知らずのオジサンですが、こんな優しい人間に出会った事は直樹にとって本当に幸運でした。

しかし実際には、こんな優しい人間に出会うことはないでしょう。そのまま挫折して下手をすると犯罪者に(これを書いている2018年、2人の21歳の男が新幹線や小学校で殺人事件を起こしています)。両親など家族の育て方の責任でしょうか。そう言ってしまえば簡単です。何かが足りないのでしょう。

一方、少年時代のオサム。貧乏でモノは無くとも両親は少年に十分な愛を与えてくれました。こう書くと昔は良かった式の噴飯もの。では直樹とオサムの差は何なんでしょう。明確にこれとは書けません。でも本作品を見て多くの方に考えて欲しいように思います。

修は一人旅の少年直樹を拾った
直樹は鬱屈した少年。心を閉ざしたまま

■本当に丁寧に作られた映画

出演している大人の役者さんが素晴らしい。中村雅俊さんは言うに及ばず。父役の榎木孝明さんがいい。売れない画家(実際に榎木さんの旅番組では、写真ではなく葉書サイズの絵を描いておられます)。母役の手塚理美さんなど女優陣も安心して見れます。

少年俳優では何と言ってもオサムを演じた森脇史登君が大熱演。本質とは関係ありませんが、ヘアスタイルの影響って大きいですねえ。長髪(坊ちゃん刈り)の時は美少年だったのに、丸刈りにしたとたんルックス半減。すみません、あくまでの私個人の価値観です。

(明治以降の富国強兵に伴って少年達は丸刈りが原則。都会や富裕層には長髪の子もいたようですが戦時には丸刈り。その影響は戦後も続き、私も中学生になると丸刈り。軍隊強化上で最も忌みされるのが同性愛。なので子供の頃から少年から(女子のような)可愛いさを排除するために丸刈りにさせたのでしょうか...)

閑話休題です。本作品で丁寧に作られていると思うのは、夜など暗いシーンの照明が見事なこと。最近のデジタル映像は真っ暗な場所でも撮影できますので、照明技術が劣化。そのため家庭のDVDやビデオでは暗いシーンが見れません。本作品では暗いシーンでもきちんと見えるのです。

本作に限らず昔の映画は当たり前だったのでしょうけれど。(もっと昔の映画は、フィルム感度から夜間撮影が不可能で、真昼間に夜間に見せるフィルターをつけて撮影していたようです。これは今見ると昼間とすぐに判って興ざめ)

親友が出来た。テツオ
(テツオは祖母と二人暮らし)
親友テツオとの別れを聞かされショック
(祖母が高齢で育てられず、親戚に引き取られ..)

森の奥の妖女?の美容室で丸刈りに
(「バーバー吉野」を思い出したりして)
丸刈りになったオサム
(これはこれでイケメン)

森の中で道に迷った直樹の前に現れたのは
少年時代のオサムと愛犬レオだった...
森で幻影を見た直樹は少し吹っ切れたのか
(初めて笑顔らしきものを見せてくれた)






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