天城越え (1983年)

作品総合評価 8点
少年の出番 80%(準主役)
寸評 我が青春に悔いあり。少年の過ち
【少年映画でない理由】女性映画・少年の暴力
映画情報など 1983年公開/DVD発売済


■松本清張氏の同名小説の映画化

伊豆の天城峠といえば、川端康成氏の小説「伊豆の踊り子」が有名ですが、それをモチーフとして推理小説にしたのが松本清張氏の「天城越え」。天城峠を、様々な人、ロマンチックな踊り子、人生の裏街道を歩く娼婦、そして内面から出る精力を制御できない思春期の少年が越えていきます。

<ストーリー>

物語は現代、印刷業を営む中年男性・小野寺建造(平幹二朗さん)の店に、一人の老人がやってきて、ある文書の印刷を依頼する。その文書を見た小野寺は絶句する。それは小野寺が14歳の時だった。(少年時代は伊藤洋一君)

信じていた母親が男と情事する姿を見て、どうしようもない憤りに駆られた建造少年は衝動的に家を飛び出し、静岡に住む兄の家へ向かう。トボトボと天城峠を歩くうちに、美しい女性ハナ(田中裕子さん)と出会い、一緒に峠を歩く。ハナの美しさ、母のような優しさ、そしてどこか淫靡な風情。建造はハナの虜になってしまった。

しかし1人の土方の男とすれ違ったハナは、急に態度を変え、土方の男の後を追いかけた。突然の事に驚く建造。後をそっと追うと、ハナは男と交渉し、藪の中で情事が始まった。またも女性に裏切られた建造少年は、やり場のない怒りを土方の男に爆発させてしまう。すきを見て男を殺害したのだった。

やがて、ハナが殺人容疑で逮捕される。殺人現場の足跡が女性サイズである事が証拠になった。実は女性でなく、少年の足跡だったが。そのままハナの刑は確定してしまった。

数十年が過ぎ、建造の前にいる老人。当時の担当刑事だったのだ。彼は、捜査終了後も独自調査を続け、真犯人を建造と見破り、その資料の印刷を建造自身に依頼したのだった。


■少年を演じた伊藤洋一君

伊藤洋一君は、TVの時代劇「江戸を斬る」とか「浮浪雲」などで子役として活躍していました。演技が達者で、利発そうな美少年で、声もきれいで、三拍子揃ったお茶の間の人気子役だったそうです。私はそこまで覚えていませんが、チラっと見た記憶はあります。

その子役がしばらくTVから遠ざかっていて、久し振りに現れたのが、この映画でした。可愛かった子役時代の容貌とギャップがあり、少年俳優の宿命と思いましたが、この映画では思春期の葛藤を素晴らしく演じており、新たな魅力を感じたのを覚えています。

映画「天城越え」は高く評価され、主演の田中裕子さんは、1983年の国内の様々な女優賞を総ナメにしたようです。本当に彼女の演技は、神がかったのかと思うほど素晴らしかったと思います。

しかし、田中裕子さんと対等に演じた伊藤洋一君は、賞どころか、名前も忘れられている事について、長年、残念に思っていました。でも、この作品で子役から脱皮して新たな青年俳優に成長していくことを期待したのですが。残念ながら、その後どうされているのか、判りません。

■「天城越え」を演じた俳優

映画以外に2回、TVドラマ化されています。
78年のNHK:ハナを大谷直子さん、建造少年を鶴見辰吾さん
98年のTBS:ハナを田中美佐子さん。建造少年を二宮和也さん(ジャニーズJr)

鶴見さんも、二宮さんも、今やメジャー俳優ですね。でもやっぱり私は、この役は伊藤洋一君がベストだと思っています。

■参考作品にした理由(少年映画にカテゴライズできなかった)

かなり迷いました。映画作品としても出来がいいし、伊藤洋一君も熱演しているし、第2部くらいに入れようかと思いました。でも、結局は参考作品扱いにしました。(また変わるかもしれませんが)

理由は2点です。
(1)伊藤洋一君は、少年というには少し成長していたこと。
(2)少年が殺人を犯すストーリーであること。

(1)は人によって捉え方が違うかもしれません。十分少年じゃないか、という人も大勢いると思います。こちらは、とって付けた理由にすぎません。(2)が問題でした。映画作品としての評価や、芸術性には何も関係はありませんが、私として、暴力が題材の映画、まして少年が性欲とも関連して殺人を犯す内容は、どうしても「少年映画」には相容れないと考えたからです。

■訃報

実は、このレビューを書いた前日に、映画「天城越え」の三村晴彦監督が逝去されました。全く知らず、レビューを書いた翌日になってネットニュースの片隅に記載されているのを発見して、非常に驚きました。何かのご縁があったのかもしれませんが、三村晴彦監督のご冥福を祈ります。




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