この胸いっぱいの愛を (2005年)

作品総合評価 7点
少年の出番 40%
寸評 過去に戻って思いを遂げる。これはあり?
【少年映画でない理由】テーマが少年ではない
映画情報など 2005年公開。DVD発売中。


「黄泉がえり」などの小説家、梶尾真治氏の原作映画で、少年俳優として富岡涼君が出演していることは知っていましたが、なぜか見る機会がなく、ようやくDVDで鑑賞しました。

■ストーリー

2006年のある日、サラリーマンの鈴谷比呂志(伊藤英明さん)は、故郷の北九州へ出張した。航空機を下りて何気なく、かつて住んでいた旅館の前にやってきた。すると、少年(富岡涼君)が飛び出してきた。ええっ 子供の頃の俺じゃないか!

そんなバカな。喫茶店で読んだ新聞の日付は1986年。そこへ同じ航空機に乗っていたヤクザが。どうやら20年前にトリップしたようだ。携帯電話も紙幣も使えない。比呂志は実家の旅館へころがり込み、働くことにした。なんとヒロシ(20年前の自分)と相部屋。ヒロシは何かと突っ張ってばかり。自分のことながら、可愛げのないガキだ。

近所の和美(ミムラさん)は、初恋の女性だった。東京の芸大でバイオリンを専攻し、国際的な奏者を約束されながら、病気で挫折して故郷へ帰ってきたのだ。そしてこの後、死ぬ運命だった。和美が生きている。比呂志には堪らない状況だ。和美は手術すれば生存確率が1割ある事を知る。但し音楽家としては絶望。和美は生きる希望を失っていた。比呂志は決心した。運命を変えよう。手術を受けさせよう。

そんな時、また同じ航空機に乗っていた数学者の臼井(宮藤官九郎さん)と会った。そして意外な事実を知る。やはり同じ航空機に乗っていた老婦人の話だ。どうしても会いたかった盲導犬(既に死んでいる)と会って、思いを遂げた瞬間、彼女は消えてしまったのだ。

さらにヤクザから決定的な事実を聞いた。俺達は既に死んでいるんだ。どうやら航空機が堕ちたらしい。この世に残した思いを遂げるため、それぞれ一番大切な時代に戻してくれたのか。比呂志とヒロシは協力して、和美に生きる希望を与えるため、ある事を仕組んだ。そしてそれは成功した。和美は手術を受け、2006年の現在、生きている。しかし比呂志は、ヒロシは。

■さすが、脚本がしっかりしていると面白い

梶尾真治氏の小説は「黄泉がえり」「黄泉びと知らず」「穂足のチカラ」と読んでいます。奇想的なものが多いのですが、ストーリーテラーとして、非常に面白い作家だと思っています。また監督の塩田明彦氏も実力者ですから、面白くない訳はありません。

もちろん、細かい部分には不満もたくさんあります。一つだけ書くならば、1986年の少年達の服装が、ハーフパンツにシャツ出しというのは、いただけません。

しかし、そんな事に目くじらを立てるよりも、映画そのものを楽しむべきでしょう。主役を演じた伊藤英明さん、若いヤクザ役の勝地涼さん、二人とも嫌味がなく、しっかり映画に溶け込んでいました。ヒロインのミムラさん、少し我の強い女性役でしたが、無難に演じていました。

特筆すべきは宮藤官九郎さん。これを書いている2013年、監督として映画「中学生円山」やNHK朝ドラで大活躍ですが、こんな俳優さんだったのですね。情けない男の役ですが、俳優としても異彩を放っています。

■少年俳優としての富岡涼君

さて、少年俳優の富岡涼君ですが、演技やセリフの上手さは、子役レベルではありません。立派な俳優さんと言っていいでしょう。ただ、ストーリーの中でも書きましたが、特に前半は、あまりに可愛げの無い役でしたので、感情移入しにくいのが残念。

ようやく終盤になって、少し素直な少年になり、可愛くなってきましたが、あくまで主演は伊藤英明さんであり、それほど活躍する場面が無いのも残念でした。本作品や「小さき勇者たち〜ガメラ」など富岡涼君の出演する映画を見ていなかったのですが、これは間違いでした。やはり実力派の少年俳優です。ガメラも見なければ。

この少年は20年前の自分?
新しい生命の鼓動を感じる少年






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