疾走 (2005年)

作品総合評価 6点
少年の出番 100%(手越君がもう少し若ければ名作)
寸評 重松清原作作品。限りなく暗い。
【少年映画でない理由】年齢オーバー
映画情報など 2005年公開。DVD発売中。


映画の存在は公開前から知っていました。映画「誰も知らない」で印象的な少女を演じた韓英恵さんが出演していたこともあり、見なくてはいけない作品だと思っていました。それを見なかった理由はジャニーズ・タレントへの偏見と反感でした。すみません。

テレビやコンサートなどエンタテイメント界で、男性タレント供給を独占するのは構いませんが、その人気を楯に映画まで独占されはしないだろうか。特にチャラチャラした少年アイドルに、容姿だけ(演技力なし)で、映画の主役級を独占されたらたまらない、なんて危機感を勝手に抱いていました。

なので本作「疾走」は鑑賞せず。それどころか、映画興業が失敗することを願ったりしていました。ベルリン等映画祭に出品されたけれど、何の賞も貰えなかったことに安心したりしていました。(映画ファンの風下にもおけない、クダらない人間でした。私)

しかし少年映画自体の存亡の危機(大げさですが)を迎えて、ジャニーズがどうのこうの言ってられません。森本慎太郎さん主演の「スノープリンス」、また最近鑑賞した田中聖さん主演の「カラフル」などの映画も、ジャニーズとは切り離して、単なる映画として鑑賞すると、これはこれで満足できることも判りました。そこで、これまでの封印を外して、本作品をDVDで鑑賞することにしました。

■ストーリー

岡山県のある海岸に面した町に住む秀次(手越祐也さん)は、兄(柄本佑さん)と両親の4人家族で暮している。この町の古くからある「浜」地区の住民は、干拓でできた「沖」地区の住民を差別している。その沖地区に小さな教会ができ、影のある神父(豊川悦司さん)がやってきた。

元殺人犯と噂のある神父に、なぜか惹かれるものを感じた秀次は、教会へ通うことになった。教会には、両親のいない少女エリ(韓英恵さん)がいた。中学に進学すると二人は同級生に。攻撃的で孤高な性格のエリであったが、秀次とエリはお互いを意識するようになった。

そんな頃、沖地区の再開発計画による地上げ騒動がおこった。放火事件が頻発し、住民に疑いがかかる。犯人は兄だった。秀才だった兄は高校で苛めにあい、精神が壊れてしまっていたのだ。この地方では、放火犯は「赤犬」と呼ばれ、村八分にされる。秀次の家族も苛烈な排撃を受け、バラバラになった。

秀次は耐えながらも登校していたが、エリが東京へ去ると、もう無理だった。頼るのは神父の宮原のみ。宮原の弟は殺人犯で死刑囚だった。ある日、宮原は秀次を弟との面会に同行させた。生と死について、秀次に感じさせるためであったが、これが裏目に出てしまった。ショックを受けた秀次は、町を飛び出した。

顔見知りの女性(ヤクザに囲われた女)を頼って大阪へ出て、男女の一夜を過ごす。ヤクザに踏み込まれ、秀次は暴行を受けるが、隙をみて女達と一緒にヤクザを殺害してしまった。もう人生は下り坂に向って疾走するしかない。

エリを追って東京に。エリは叔父の家にいるが、この叔父が性的行為を強要するエロおやじ。秀次はこいつを刺してしまった。エリと秀次は、東京を逃げ出して、また故郷へ。悲劇はその後に。

■まるで「俺達に明日はない」の世界

重松清さんの小説はかなり読んでいます。どれも最後は人情もので、ほんわりするような話が多いのですが、この「疾走」は知りませんでした。少年少女が主人公で、これだけ苛烈なストーリーだったとは。

まるでボニーとクライド(知ってます?)みたいな最後のシーン。余談ですが、天才少年ピアニスト牛田智大君の愛読書が重松清さんとの事で、幼い彼もこの「疾走」を読んだのでしょうか。

■キーマンは神父様

ストーリーで記し忘れましたが、本作品は全て、神父の宮原の回想として語られます。「お前は○○だった」という モノローグが多いのですが、最初は、誰が誰を指しているのか判りませんでした。これは神父が、秀次への呼びかけとして語っているものです。わずか15年で生を終えてしまった少年への鎮魂の言葉なのでしょう。

秀才だった兄を尊敬し、孤独なエリを愛し、聖書の言葉に惹かれるような優しい少年が、どうして殺人を犯し、最後は警察官に射殺される人生になってしまったのでしょうか。この神父も実は罪を犯しているのですが、秀次の瞳の中に、自分と同じ光を見たのかもしれません。

■スピッツの歌

さて、映画から脱線しますが、本作品を見て思い出したのが、スピッツの古い歌。「空も飛べるはず」に出てくる 「神様の影を恐れて」「隠したナイフが似合わない僕を」「ゴミできらめく世界が僕たちを拒んでも」等の歌詞。まあ単なるこじつけですけれど。(本年(2013年)の北九州少年合唱隊定期演奏会で歌われたこともあり、思い出したのが本音です)

そしてもう1曲「片隅に捨てられて」、最後は疾走の果てに「誰も触われない二人だけの国」へと行く、ロビンソンの世界です。しかし映画では「二人だけの国」にエリは行かず、秀次が一人で行きました。宇宙の風に乗って。

■手越祐也さんの熱演

最後に手越祐也さんについて。本作品クランクイン直前に17歳の誕生日を迎えたとの事ですが、さすがにジャニーズ、童顔で大変可愛い顔をしています。とはいえ17歳。本作品で演じる秀次役、最初は小学6年生です。やはり無理です。顔だけなら小学生に見える角度もありますが、体つきが少年体形ではないのです。

セリフも苦しい部分はあるのですが、それでも全体的にみて熱演だったと思います。ジャニーズに偏見を持っていたことをお詫びしないといけません。現在は、俳優が本業ではないようですが、もっとしっかり役者の勉強をすれば、持っているオーラのようなものがありますので、いい俳優になられたかもしれません。

ただ本作品について、17歳は残念です。せめて14歳くらいの時に本作品に出演して欲しかった。こればかりは仕方ありません。声変わり後の少年がファルセット(裏声)で、いくら上手に歌っても、純粋なボーイソプラノではないのと同じだと思っています。

中学生に見えなくもない。
ヤクザに暴行され、反撃の隙をうかがう






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