ソ満国境 15歳の夏 (2015年)

作品総合評価 5点
少年の出番 100%(15歳の中学生の物語)
寸評 戦争描写は非常に甘いのですが、純粋な少年達に感動
【少年映画でない理由】年齢オーバー
映画情報など 2015年公開。DVD等未発売。
(写真は現代パートの中学生役を演じた俳優たち)


タイトルを見た時は、敗戦時の悲劇を描いたお定まりのパターンの作品かと思って、鑑賞する気はありませんでした(いつもこんな調子で始まってすみません)。たまたま金曜日に出張で東京へ来てそのまま宿泊、大阪へ帰る前に何か映画でもと思って検索すると、ユーロスペースで本作品が上映されており、ちょうといい時間でしたので、鑑賞することに。

文部科学省推薦(少年向き)とのテロップが出ましたので、戦争の描写が甘いのは仕方ありません。陰湿なイジメや喧嘩のシーンも全くありません。でも、拾い物だったのは、清水尚弥さん、清水尋也さんの兄弟が揃って出演していたこと。これは知りませんでした。これだけでも収穫です。

本作品の主人公は現代の少年少女。福島県のある中学の放送部員(右端は清水尋也さん)
■ストーリー

映画は、現代の中学生が70年前の中学生のことを回想する形で進行します。福島県の中学生、敬介(柴田龍一郎君)は、放送部の部長だが、震災で機材も失われ、卒業作品の制作も出来ないでいた。そんな時、中国の東北地方のある村から、機材と招待状が届いた。

その村の元村長が、敬介達の中学校で2年前に作られた作品を見て感動し、震災で困っているという話を聞いて、是非、夏休みを利用して村へ来て作品を撮って欲しいというのだ。戸惑いながらも、敬介たち5人の放送部員と顧問の先生が中国へ向かった。

機材と一緒に「ソ満国境 15歳の夏」という本が同封されており、6人はその本の内容を読んで驚く。招待された村は、その本に書かれた出来事が起きた村だった。1945年8月、満州の新京中学3年生120名に勤労動員命令が下った。それはソ連との国境地帯での農作業。

8月9日、ソ連軍が突如進撃してきた。慌てて退避するが、駅に列車はない。一度はソ連軍に抑留されるが、少年という事で解放され、故郷の新京目指して歩くが、食料はない。そんな時たどりついたのが、この村だった。敬介たちは、かつての中学生達の歩いた道をたどりながら放送作品を撮影します。そして最終日、元村長に呼ばれ、ある事実を打ち明けられた。

■戦争の悲劇。軍隊の本質とは

満州関連の書籍を読むと、悲劇が起こったのは、どちらかといえば終戦後。条約を一方的に破り、火事場泥棒のように参戦してきたソ連軍の横暴。難民になった日本の民間人を襲う満州の中国人。そんな悲劇ばかりを聞いていましたので、本作品も見る気がおきませんでした。問題が2点あります。

まず満州の日本軍(関東軍)はどうしたのでしょうか。精鋭部隊を南方へ抽出されて実力は無かったと言い訳のように言われていますが、それでも何10万人もの兵士がいたのに、なぜ少年や民間人を守らなかったのでしょうか。それどころか、軍が国境から撤退する事を察知されないために、少年達を国境付近に動員したなんて、もってのほか。

国は守るけれど、国民は守らないのが、旧日本軍だったのですね。今の自衛隊はどうなんでしょう。地震や津波や事故では国民を守ってくれています。ずっとこのままでいて欲しい。(政治問題には触れないのが本サイトのポリシーです。ピピーッと警告ブザーが出ましたので、これ以上は言及なし)

もう一つは「自己責任」。満州へ渡ったのは、国策で奨励されたのは事実だが、そこで一旗あげること(私利私欲)が目的であり、ソ連軍の脅威も当然知っていたはずだから、ある程度は自己責任だ。従軍安婦問題とも重なる論調です。一概に賛否は決めれませんが、やはり日本は冷たい社会なのかも。

ロケの車の中で。中央が清水尋也君。
70年前の中学生。眼鏡をかけた清水尚弥君。

■70年前と現代の中学生の違い

戦争の話から一転して中学生の話。本作品の主人公は、放送部の部長である敬介君なのですが、どうも存在感がありません。二人の女子部員の方が印象に残るように撮られています。中国から帰ってきて敬介君は大きく成長したというオチになっているのですが、どうもそんな風に感じられません。

それよりも、70年前の中学生を演じた少年俳優の方々のギラギラした存在感は圧倒的でした。原作者の少年時代を演じた六車勇登さん、実は朝鮮人だった少年役の三村和敬さん、この二人が主役だったら大河ドラマでも撮れそうにさえ思います。

「これを言っちゃあ、おしまいよ」になるのですが、70年前は男子だけの世界。現代は男女共同参画の時代。もうちょっと男子中学生の皆さん、大志を抱いて頑張らないと。映画の脚本上の演出なので、演じた俳優さんに言うのはお門違いですけれど。

舞台挨拶から。兄(左)と弟
■清水尚弥さん、清水尋也さん兄弟の共演

ミニシアター系の作品で何本も主役少年を演じてきた清水尚弥さん、最近メジャー系で活躍する清水尋也さん、この兄弟の共演が見たいとずっと思っていたのですが、なんと本作品では共演していました。

公開は2015年になっていますが、実は撮影は2012年との事で、二人ともまだ少年っぽい感じです。撮影開始から日中関係の悪化などがあり、中国ロケが難航し、結局完成は2015年までずれ込んでしまったとか。

二人ともメインの役ではありませんが、結構印象には残ります。特に兄の尚弥さんは、命からがら逃避行を続ける身体の弱い少年役を体当たりで熱演。トレードマークだった長髪をばっさり切って坊主頭になりました。

パンフレットのキャスト紹介には、清水尚弥さんを「清水尋也の実兄」と紹介されています。これは逆でしょう。お兄さんの方がデビューが早いと思いますし、兄を立てないと。

2012年の時点でパンフレットを作れば、こんな事にはならなかったでしょうが、2015年では、弟の尋也さんの方がメジャーと判断されたのでしょうね。厳しいなあ






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