永い言い訳 (2016年)

作品総合評価 7点
少年の出番 約30%(印象には残ります)
寸評 自尊心が高くワガママな中年男。その内面に迫る描写
【少年映画でない理由】主題が少年ではない事
映画情報など 2016年公開。DVD等未発売。写真は藤田健心君。


西川美和監督は、なにかヒトクセありそうな作品を撮るという印象でしたが、これまで私としては特に見たいと思う監督さんではありませんでした。でも、是枝裕和監督の(よく判りませんが)お弟子さんでもあり、本作品では初めて子役を使ったという事で、あまり期待せずに鑑賞しました。

なかなかやるではないか、が正直な感想。本年(2016年)公開作品の師弟対決では、師匠の是枝監督「海よりもまだ深く」より本作の方が優れていると私は思います。作品としても、少年俳優の使い方としても。

妻の同級生の息子役を演じた藤田健心君(父を見上げる表情が少し切ない)
■ストーリー

流行作家の衣笠幸夫(本木雅弘さん)の妻(深津絵里さん)が高校時代の同級生と旅行中にバス事故で亡くなった。その同時刻、幸夫は不倫の真っ最中。妻への愛なんかとっくの昔になくなっていた。しかしマスコミの前では悲しみにくれる男を演じるしかない。

そんな時、同じ事故で死亡した同級生の夫である大宮(竹原ピストルさん)から幸夫に連絡があった。会いたいと。がさつなトラック運転手の大宮なんかと気が合うはずもないが、なぜか幸夫は大宮と会う事にした。そこで、大宮の子供たち、真平(藤田健心君)とその妹に会う。

母を亡くし、父は家を空ける長距離トラック運転手。どうした事か幸夫は、大宮が不在の時間、兄妹の面倒をみることにする。子供のいない幸夫にとって、子育ては未知の体験だった。

小6で中学受験をめざす真平は難しい年頃だったが、幸夫には気を許し、妹もなつき始めた。妻を愛することはなかった幸夫だが、兄妹と接するうちに、いいようのない感情が湧いてくる。それは妻への愛にも通じるものか。だがやがてそんな時間も終りを迎える。

■透明な空気感が印象的な少年俳優

まず少年俳優の藤田健心君。出番はそんなに多くはないのですが、彼が登場すると、なんとなく透明で淡い空気感に包まれる感じがするのです(ちょっと言葉では表現しにくいのですが)

このデジタル高画質時代に、少し粒子の荒れたフィルム独特の画面。スタッフロールを見ると撮影は山崎裕さん。ずっと是枝監督とコンビを組んでこられた名カメラマン。やはりそうだったのですね。このカメラと藤田健心君の容姿が非常にマッチして、本当に美少年でした。

役柄的には妹役の白鳥玉季さんに持っていかれた分もありますが、12歳という年代にしか出せない、はかない少年の色気のようなものが印象に残ります。これはネタバレですが、ラストシーン。坊主頭に詰襟学生服の少年が登場します。これは誰、別人だろう、いやいや藤田健心君。髪型は本当に重要ですね。(坊主頭だと可愛さ50%ダウン)

■ストーリーの割切りが上手い。(視点を絞る)

本作品の登場人物は多いのですが、その視点は本木雅弘さん一人に集中。あれこれと欲張って描こうとすると、群像劇になり、映画としての力が弱くなります。学生映画などお金のない環境で育ってきた監督さんの方が、この割切りが上手くて、優れた作品を残すような気がします。

逆に大手会社で資金豊富な作品ほど、色んな俳優さんに配慮して総花的な脚本になりがちです。それにしても、本作品の本木雅弘さん。元アイドルと思って舐めていたのですが、いい役者さんになりました。中盤以降の鬼気迫る演技は、役所広司さんそっくりな感じです。

もう一人。出番は少ないのですが、池松壮亮さん。是枝監督「海よりもまだ深く」の役柄と全く同じ。阿部寛さんの同僚をやめて、本木雅弘さんのマネージャーになったのかと思ったくらい。でも池松さんは若いけれど本当にいい味を持っています。今度は主役で使ってほしい。

最後に忘れてました。竹原ピストルさん。いつキレて暴れ出すのか、ひやひやするほどの迫力。でも息子を殴るシーン、このまま感情のままに殴ったら大変な事になりそうでしたが、思い止まる表情は素晴らしかった。(ただ申し訳ありませんが、藤田健心君は息子に見えません。本木さんの息子になら見えますけれど)

受験勉強をみてもらう
舞台挨拶にて。かなり成長しました






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