天国と地獄 (1963年)

作品総合評価 8点
少年の出番 5%
寸評 息詰まるサスペンス。テンポが素晴らしい
【少年映画でない理由】出番過少。
映画情報など 1963年公開。BD、DVD発売中。
写真は左から島津雅彦君と江木俊夫君。


もう古典的名作。脂の乗り切った黒澤明監督の手腕が本当に素晴らしい。出演者も黒澤組の常連ばかり。その中で出番は少ないものの2人の子役が印象に残りました。後年フォーリーブスで活躍する江木俊夫さんは美少年。しかし彼よりも使用人の息子役の島津雅彦さんが印象に残りました。

特急こだまの車窓から、誘拐された進一と犯人らしき女性を確認した。
(この後、窓から身代金の入ったバッグを落とし、進一は解放された。女性は単なる使い走りだった)

大手靴メーカー常務(三船敏郎)の息子、純(江木俊夫)を誘拐したとの電話があった。3000万円を用意しろと。しかし誘拐されたのは使用人である運転手の息子、進一(島津雅彦)だった。犯人は間違いに気づいたが身代金要求はそのまま。常務は悩んだ。使用人の息子に3000万円を出せるか。しかし常務は決断した。出そう!

警察チームが対応を始める中、常務は犯人の要求通り特急こだまの窓から3000万円入りのバッグを落とし、犯人はあっけなく進一を解放。ここから執念の捜査が始まる。進一が監禁された鎌倉の家には男女2人の遺体。死因は急性薬物中毒。男女は薬物中毒患者で単なる使い走りだった。

犯人に医学的知識がある事から、常務の豪邸の近所の貧民街に住む医師見習い(インターン)の男が浮かんだ。また薬物中毒殺人事件を重ねたところで逮捕。最終的に死刑が確定。犯人の男は常務に面会を求めた....

■天国と地獄とは

靴メーカーの常務は職工から叩き上げて重役になり、高台に豪邸を建てた。その豪邸の下は貧しいアパートが密集する地域。そこに住む犯人は豪邸を見上げているうちに憤りが。地獄に住む自分たちを見下すように天国に住む金持ち野郎め。

1963年と今とでは価値観が違いますので戸惑いもあります。今どき靴屋なんて海外製品に圧倒されて斜陽も斜陽。それに比べてインターンとはいえお医者様は今でも天下の勝ち組。何を文句言ってるんだ、と言いたくなる感じもあります。犯人役は山崎努さん。迫真の演技。でもこんな若い山崎さんは初めて見ました。

しかし警察の執念も凄い。犯人を特定したのにすぐ逮捕しない。麻薬常習者の男女に高純度の麻薬を与えて中毒死させて口塞ぎ。しかし2人では極刑にならない。そこで男女は死んでいないと報道させる。焦った犯人は、街の中毒患者に高純度麻薬を与えて効果を確かめる。この警察のやり方も倫理的にどうでしょう...

■使用人の息子

常務の息子と使用人の息子は身分の差も関係なく友だち。しかし使用人である父はそうはいきません。常務は自社の株を買い取ってオーナーになる野望があった。そのための資金が使用人の息子のために消えてしまった。使用人の父の心中を考えると堪りません。

しかし三船敏郎さん演じる常務は大物でした。仕事にはとてつもなく厳しいけれど、心の底には暖かいものが流れている。そんなオーナーが今の日本には少なくなってしまいました。

常務の息子の純(江木俊夫)
(カウボーイごっこ。今の子はしませんねぇ)
使用人の息子の進一(島津雅彦)
(この後、2人は服を交換。それで犯人は間違えた)


息子を誘拐したとの電話。でも純はここに。
(右は父親である常務役の三船敏郎さん)
左は純、隣は解放された進一。刑事に話を...
(右は刑事役の仲代達矢さん。若い頃から凄い存在感)


焦る使用人の父は進一を連れて犯人探しに...
(後ろは江ノ電。変わりませんなぁ...)
ここは通った事ないよ。進一は言う。
(窓の外に見えるのは江ノ島)


※後記
本文で靴メーカーを斜陽と書いてしまいました。本作品の靴メーカーはハイヒールやパンプスなどを製造。これは斜陽かもしれませんが、ハイテク・スポーツシューズのメーカーは世界と切磋琢磨して頑張っています。どうもすみませんでした。





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