はい、泳げません (2022年)

作品総合評価
少年の出番 10分未満。(2人合せて)
寸評 亡き息子と新たな恋人の息子。2人とも「いい子」過ぎて
【少年映画でない理由】出番過少。
映画情報など 2022年劇場公開。BD/DVD発売中。
写真は荒井天吾君。


タイトルを見て、また主演が長谷川博己さんや、綾瀬はるかさんなので、どうせドタバタのラブコメディーだろうと、全く関心はありませんでした。しかしたまたまWOWOWで鑑賞したところ、実は亡き息子への愛がモチーフでした。(ネットのレビューを見ると、そんな風に書いている方は殆どいないのですが)

父の頭の中に浮かび上がる息子トモヤの最後の日。ジャケットの黄色だけが...

大学講師の小鳥遊(長谷川博己)は数年前に6歳の息子トモヤ(荒井天吾)を水難事故で亡くした。その時、助けようとしたが自分も溺れて意識不明になった。それが元で妻とは離婚。事件の事は忘れようとしていた。しかし小鳥遊に新たな恋人が出来た。シングルマザーでジュンヤ(築谷櫂)という男の子がいた。

ジュンヤのためにも小鳥遊は水泳を習い始めた。美人コーチ(綾瀬はるか)が指導してくれるが、事故のトラウマに襲われて何度も溺れそうになる。トモヤの思い出つまった部屋とマンションを売却する事にした。その時、元妻と小鳥遊の前にトモヤ(霊)が現れた。ふっきれた小鳥遊は再婚する事を決心。


長谷川博己さん演じる大学講師は幼い頃、スパルタ教育で漁船から海へ投げ落とされて以来、水恐怖症。息子のトモヤたちと川へ遊びにいくのもへっぴり腰。新たに出来た恋人の息子ジュンヤに海に行きたいと言われ、仕方なくつれていった時も。

そんな情けない男や父に対して、息子は文句を言ったり軽蔑の念を抱くのが普通では。しかしトモヤもジュンヤも素直に理解します。大学の先生だからでしょうか。特にジュンヤは「先生、先生」といって懐いています。欧米映画では母の新しい恋人に、少年は憎しみ、時には殺意を抱くのが定番。

大学講師の妻。トモヤを助けれなかった事がきっかけで離婚します。しかしトモヤが流された時、水恐怖症の父がそのまま突っ立っていたのならともかく、トモヤを助けようと自分の命をかけてまで川に飛び込んだワケです。これを理解してやれない妻(もちろん離婚の原因は他にも多々あったのでしょうけれど)

トモヤを助けられなくて一番悔しく、辛い思いをしたのは父。溺れたのでトモヤの最後の叫び声は聞いていませんが「父さん!」だったと聞いてますます落ち込む。しかしあの世のトモヤは理解していました。だから幽霊になって父さん、母さんの前にやってきたのでしょう。御礼を言うために。もう自分を責めなくていいよ。

スイミング練習中の父の目に浮かんでくるもの...
在し日の息子トモヤ。赤ん坊、幼児と成長していくが。
そして運命の6歳。川に流されていく。
父は自分の不甲斐なさに苛まれる。


事故から数年が経ち、恋人が出来た。
彼女の息子ジュンヤは自分に懐いてくれる
海に行きたいと言われて連れてきたが...
ここから先に言っちゃだめ。トモヤの事がよぎる。


元妻と会い、トモヤの思い出つまった部屋の処分を決めた日。公園のベンチに座っていると...

トモヤが思いっきり駆け寄ってきた。父さん!母さん!と叫びながら...

トモヤは父も母も許してくれてるんだ。
父も母もそれぞれ別の新たな家庭を持つことを...
新しい恋人にプロポーズした。ジュンヤにも。
今度の妻は理美容師。髪結いの亭主ですなぁ...



※後記
水に流されるトモヤの映像はモノクロで、黄色いジャケットだけがガラー。これを見て思い出すのが2021年の映画『護られなかった者たちへ』。東北大震災で流された息子の黄色いジャケット。息子を演じたのは川口和空君。ほんの数秒のシーン。彼も幽霊になってでも父(阿部寛)の前に出てくるような演出ならよかったのに。

もう一つは現実的なお話。長谷川博己さん演じる大学講師は常勤教員なんでしょうか。文系でしかも哲学の講座となると、今の世の中では常勤教員の口はとてつもなく狭い気がします。もし非常勤教員ならば、まず賃金が安い。講義1コマあたりの報酬はびっくりする値段。マクドで働いた方がマシだったりして。そして契約更新の恐怖。この映画のようにマイホームを建て、自家用車を乗り回し、スイミングクラブに通うような優雅な生活とは無縁かも。他の私大で講義のアルバイト。予備校の先生まで。つらい世界...





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