ミスター・ロン (2017年)

作品総合評価 B+
少年の出番 約50%(準主役)
寸評 余計なセリフは殆どなし。暴力映画なのに優しい。
【少年映画でない理由】年齢がやや低め。
映画情報など 2017年公開。BD/DVD発売中。
写真はバイ・ルンイン君。


2017年ベルリン映画祭のコンペティション部門、また東京国際映画祭にも出品されるなど力の入った作品ですが、2023年にWOWOWで鑑賞するまで全く知りませんでした。「ミスター・ロン」で検索すると、なぜか「ミスター・ロンリー」になってしまい、有名な楽曲や外国映画ばかり。地味な作品ですが、私は気に入りました。

優しいおじさんだと思っていたロンが、ヤクザたちを殺す場面を目の当たりにした少年ジュン。

台湾のロン(チャン・チェン)はナイフだけを使う凄腕の殺し屋。東京である組織幹部を殺す仕事を請負ったが失敗。山に運ばれて殺される寸前に脱出。怪我をしたまま北関東の廃墟のような村まで来て倒れた。村にいた幼い少年ジュン(バイ・ルンイン)がロンを助けた。ジュンは台湾人の母と二人暮し。

ジュンの母はヤクザにシャブ漬けにされていたが、ロンは強引に母をシャブ抜き。さらに母子らへ料理を作った。それを食べた村人は美味さに感激。ロンは台湾麺の屋台を出す事になり、評判を呼んで大盛況。地元のマスコミも取材。しかしそれを見た組織がロンを始末に来るが、ロンは全員を殺して台湾へ。数ヶ月後。台湾のロンの前に現れたのはジュンだった...


舞台は日本の北関東の寂れた村。しかし主人公のロンも、少年ジュンとその母も台湾人。でもすから殆どセリフがありません。それが却ってテンポよくて判りやすいのです。ロン役のチャン・チェンは台湾の大スター。クーリンチェ少年殺人事件(1991)で脚光を浴びた頃はまだ15歳の少年でした。

健気な少年ジュン。父親を知らないのでしょう。ジュンの母は借金か何かで風俗で働き、逃げないように覚醒剤付けにされています。そんな母は日本人の青年と恋仲になりジュンを産んだ訳ですが、ヤクザは激怒。店の女に手を出したと言って青年を殺害。なんと実行者にはロンもいました。

自分の父を殺した犯人かもしれないロンに寄り添っていくジュン。覚醒剤が抜けた母とロン、ジュンの3人は束の間の親子のような幸せな時間。しかし長くは続きません。ヤクザに再び覚醒剤を打たれた母は悲観して自殺。ジュンは天涯孤独の孤児になってしまいました。

ロンを始末しにきた組織の連中は20人以上。それをたった1本のナイフで全員殺害。ジュンや村人の目の前で。ロンは優しいおじさんではなく殺し屋。もうジュンたちとは一緒にいられない。横浜からロンの雇い主が手配した密航船で台湾に帰っていきました。

台湾で元の生活に戻ったロン。そこへおかしな日本人の集団が。あの村の人たち。ロンの行為を責めるどころか喝采。そしてジュンが走り寄り、ロンに顔を埋めます。お前どうして来たんだ? ジュンを抱きしめるロン。やがてジュンはロンの養子になり、台湾の学校へ通うところで映画は終わり。

殺し屋と幼い少年の話は映画では珍しくありません。SABU監督の荒んだ中にも暖かいものがある本作は、是非ご覧になってみて下さい。


怪我をしていたロンにジュンが近寄った。
水、薬、服を持ってきた。
お礼にロンは料理する。料理の腕はコック並み。
通りかかった村人が試食して仰天。



村人たちの依頼で屋台を出す事になった。ジュンも手伝う。まるで戦後の昭和みたいな風景。


覚醒剤が抜けたジュンの母、ジュン、ロンの3人で温泉へ。男風呂で神妙な顔で湯につかる二人。


温泉宿で、初めて子供らしい笑顔を少しみせるジュン。この幸せな時間がいつまで続くのか...


村人につれられて台湾にやって来たジュン。ロンをみつけて胸に飛び込んだ。



※後記
本作を見て思い出したのは同じ時期に東映chで放送された1976年の『子連れ殺人拳』という作品。千葉真一さん主演作。空手と剣術の達人が、ライバルの武道家と決闘して殺してしまう。武道家には幼い息子がいたがその目の前で。その後はミスター・ロンと同じ。息子は父の仇である千葉真一さんを慕う。この作品もまた気が向けはレビューします。(2021年に逝去された千葉真一さんの追悼放送の一つだったと思います)





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