福田村事件 (2023年)

作品寸評 あくまでフィクション。福田村事件はネタに過ぎず。
少年の出番 行商団の少年が印象に残る。準主役レベル。
見どころ 生き残った少年を演じた生駒星汰君だけ。
【少年映画でない理由】これは群像劇です。
映画情報など 2023年公開。BD/DVD発売予定。有料配信あり。
写真は生駒星汰君。


大変話題になった映画。関東大震災後のデマに煽られて香川県から来た行商団が惨殺された事件。私の父は香川県生まれ。複雑な感情があって映画を見に行けませんでした。DVD発売を前にネット配信でようやく鑑賞。思っていたような衝撃作品ではなく、私にとっては拍子抜けするほど軽い映画でした。

行商に出発する日。幼馴染の少女が御守りをくれた。あなたを守ってくれると言って。
(この御守りの功徳なのか、少年は惨殺を免れて生き残った)

香川県から行商団が出発。リーダー(永山瑛太)一家など女性や子供含めて15人。その中に13歳のノブ(生駒星汰)もいた。薬を売りながら半年間の長旅。そして関東大震災に遭遇。一行は千葉県の福田村へとやってきた。

不逞朝鮮人が暴れているという報道や通達を受けた村人が自警団を作り朝鮮人狩りを始めた。行商団は朝鮮人との疑いを受けて捕まり、村人は惨殺を始める。村の駐在が行商団の持つ許可証を確かめて帰って来た時には9人が惨殺。残った6人はかろうじて助かった。ノブは言った。お腹に子がいて10人なんです。みんな名前があるんです。


森達也監督によれば「本作は実際の事件にインスパイアされて創作したフィクションです」
こんな風に最初から逃げられてしまいました。善良でふつうの村人がなぜこんな悲惨な事件を起こしたのか。そこに焦点を当てて映画にしたのだと思います。しかし答えは出ていません。

やはり加害者に寄り添った作品。朝鮮から戻ってきた夫婦。新聞記者の女性。そのほか普通の農民たち。長い上映時間136分の大半をこの群像劇に割いています。さらに平澤計七の亀戸事件も絡ませていて、登場人物ばかり多くて退屈に感じました。

一方、被害者の行商団。永山瑛太さん演じるリーダーは商売のためには平気で嘘もつきます。もちろん朝鮮人の飴売りには同情する優しい部分もありますが。加害者を擁護するため被害者を貶める、いや貶めるのは言い過ぎで、被害者だって偉そうな事は言えないだろう、これが森監督の意図でしょうか。

杉田雷麟さん演じるインテリ風の青年。いいキャラをしているのに出番が殆どありません。本当にもったいない。しかしその中で光っていたのがノブ役の生駒星汰君。リーダーよりもこの少年にスポットを当てて印象的に描いたこと。ここは森監督のGood Job だと思っています。

映画における印象度から言えば、主役とはいいませんが、堂々の準主役です。なのに映画チラシや公式サイトには生駒君の名前が出ていません。映画のキャストロールでは随分と下の方。大勢の有名俳優が出演する群像劇なので、こんな誰とも知らない少年を上に書くことは出来なかったのかもしれません。

このノブを主役にしたスピンアウトか、ディレクターズカット版を作って欲しいものです。
・故郷香川での彼女との淡い恋。
・穢多として差別されていること。
・わずか13歳で行商に出されること。
・水平社のこと、インテリ青年のこと、朝鮮人虐殺のことなど...
多感な少年が悲劇を通じて大人になっていく。タルコフスキー監督の『 僕の村は戦場だった』に負けない名作になるかもしれません。


出発する行商団一行。リーダーの一家を先頭に。
こんな小さな子や幼児まで連れて半年間とは。
(真ん中の子。ミドリーズの小さな子を思い出して..)
商人宿で。ノブは商いの口上が上手く言えず悩む。
ただ行商の仲間は優しく見守ってくれていた。


朝鮮人の飴売りから飴を買って貰った。嬉しそうな顔。
鮮人の飴は毒入? 一行の中にはこんな事を言う者も。
(被害者だって差別していた、そう言いたいのでしょう)
(こんな幼い子たちまで...村民が惨殺。飴が哀しい...)
ノブは複雑な思いで朝鮮人をみていた。
(穢多と朝鮮人はどちらが上なのか...)


大震災が起こり不穏な空気に包まれる中、行商団は水平社宣言について語り合った。
ノブが少女から貰った御守りの中には水平社宣言文。(難しい漢字の文章をノブは理解できたのでしょうか)


縛り上げられたノブたち。村の駐在が濡れ衣を晴らしてくれた時は既に9人が惨殺。
ノブの縄を解いてくれたのは行商に行ったお屋敷の娘さん(演じるのは田中麗奈さん)。


事情聴取の係官は被害者を9人と言ったが、ノブは小さな声で言った。10人です。お腹に「望」がいました。
男の子なら「のぞむ」、女の子なら「のぞみ」 みんな名前があるんです。9人全員の名前をつぶやいた..



※後記
香川の行商団の話す讃岐弁が判らないので朝鮮人だと疑われたとの事ですが、行商団の役者さんの話す言葉は讃岐弁ですか。全く訛りなんかなくて誰でも判るじゃありませんか。なんて野暮な事は言いません。映画ですものね。

さて本作の悲劇とは異なり、全くお気楽な話です。行商団の一行のスタイルをみて思い出したのが、小学校に入ったか入らないか頃にテレビで放送していた『わんぱく砦』という子供向けドラマ。色々な特技を持つ子供たちの一行が活躍するお話。関西でしか放送していなかったのかもしれません。♪むかしの兵隊さんは鉄砲かついてトットコト、いまの兵隊さんはジェット機飛ばしてゴーゴーゴー、そんな主題歌をかすかに記憶しています。





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