ビル・ダグラス三部作(1972、73、78年)

製作年・国 1972,73,78・イギリス
少年映画評価 B+(厳しさに圧倒されました。)
お薦めポイント イギリスの底辺層のリアリズム。
映画情報など 3作とも国内未公開。海外版BD/DVD発売中。
(写真はスティーブン・アーチボルト君)


英国(スコットランド)のビル・ダグラス監督が自身の生い立ちを基に、少年から青年時代を描いた三部作。『My Childhood』(1972)『My Ain Folk』(1973)『My Way Home』(1978)の3作品。3つ別々にレビューを書いた方が数が稼げる?のですが、1本の作品として見た方がはるかに感動します。

英国など海外でも長らく幻の作品だったようですが、最近になってフィルムからデジタル修復されたDVDとBDが発売。あらためて話題になった作品との事です。日本語字幕はありませんが、セリフはそんなに多くありませんので、英語版でも十分理解できますよ。

『My Childhood』のラスト。悲惨な生活だったが、自分を愛してくれた唯一の肉親である祖母が死んだ。
(鉄道で自殺しようとした訳ではありません)

『My Childhood』(1972)
炭鉱町の少年ジェイミー(スティーブン・アーチボルト)は兄トミーと祖母の3人暮し。働き手がいないので極度の貧乏生活。父は祖母に家を追い出された。母は死んだと聞かされていたが、実は精神病院にいた。そんなジェイミーの唯一の友だちは捕虜のドイツ兵。お互いに寂しい境遇のせいもあり、年齢を超えて信頼しあっていた。

兄から驚く秘密を聞かされた。兄弟の父は違うのだ。ジェイミーの父は向かいの家の男だと。そして二人の唯一の肉親だった祖母が死んだ。時を同じくして戦争が終り、ドイツ兵は帰還していった。ジェイミーは絶望の淵に...

『My Ain Folk』(1973)
祖母が亡くなり、兄は自分の父親の家に。ジェイミーも自分の父である男に引き取られたが男は独身。すなわちジェイミーは不倫の子だった。そのため男の母である祖母に徹底的に疎外される。辛い時には空家になった元の家に戻るが、鍵がかけられた。男の父である祖父は高齢だったがジェイミーには優しかった。その祖父も亡くなり、ジェイミーは施設に送られることになった。

『My Way Home』(1978)
施設で過ごしたジェイミーも青年になった。施設の教官はジェイミーの将来を親身になって心配してくれた。芸術系の学校へ進学も勧められた。しかしそれを辞退して施設を去る。そして兵役につきエジプトへ派遣された。特に戦争もない兵役生活でジェイミーに親友が出来た。退役したら自分の家へ来いと。しかしジェイミーは生まれた家へ戻っていく。


主人公のジェイミーは3作ともスティーブン・アーチボルトが演じました。演じているうちに6年以上の年月が経っているのですが、あまり顔が変わらないのが不思議です。まだ幼いはずの10歳前後でも、厳しい生活で顔に皺のようなものが刻まれて年長に見えました。逆に兵士の扮装をしていても顔はそのまま。

父母のこと
母は精神病院のベッドで1回会ったきり。本来なら母恋しのはずですが、本作では全く描かれていません。父は二人います。兄の父。露骨に兄だけを愛しているようです。ジェイミーは無視。本当の父は少しはジェイミーを気にかけていますが、やはり淡白で他人のような存在。

祖父母のこと
本作で一番大きな存在は祖母。母方の祖母は兄とジェイミーを育ててくれました。でも事情は不明ですが父を追い出します。母が精神病院に入る原因が父だったのでしょう。もう一人、父方の祖母。彼女にとってジェイミーなど不快以外何者でもない事は判ります。自分の息子が不倫で生ませた子。孫だなんて決して認めたくはないでしょう。

兄のこと
祖母が亡くなって兄弟二人きり。そんな境遇だからこそ兄は親代わりとはいいませんが、弟を大事にしてやらないといけないはず。でも兄はわがまま。時折りヒステリーのように弟に殴りかかります。年老いた祖母がオロオロして止めようしているのが哀れでした。しかし弟を捨てて自分だけ父の家に行ったことを反省している様子があったことが救いでした。やはり父違いの弟なので心からは愛せないのかも。

家のこと
ジェイミーが住んでいた家は炭鉱住宅でしょうか。同じ作りの家がずっと並んでいます。家族の誰かが炭鉱で働いていたのかもしれません。最後のシーン。ジェイミーの家だけなく、同じ作りの家が並ぶ町自体がゴーストタウンに。炭鉱が閉山されて労働者たちはいなくなってしまった。


『My Childhood』 主人公のジェイミー
穴だらけのセーター、真っ黒な顔。悲惨な暮し。
『My Childhood』 兄のトミー(左)とジェイミー
思春期に突入した兄の精神は不安定だった。

『My Childhood』 ジェイミーとドイツ兵捕虜。
英語とドイツ語を教え合った。この時間が幸せだった...
『My Childhood』 祖母は死に、ドイツ兵は帰還。
もう何もなくなった。ジェイミーは...



『My Ain Folk』 兄トミーは映画をみて涙を流した。
(映画は名犬ラッシーの『家路』ここだけカラー映像)
『My Ain Folk』 ジェイミーは父の家へ。
でも居場所がない。食事も満足に食べれない。

『My Ain Folk』 新しい?祖父は優しかった。
でも高齢で、祖母や父に何も言えない寂しい存在だった。
『My Ain Folk』 その祖父も亡くなった。
ジェイミーの顔。まるで皺が刻まれた老人のよう...



『My Way Home』 青年になったジェイミー。
(あまり顔は変わらず。施設を出て兵役に。)
『My Way Home』 エジプト駐留地で友人と。
(駐留とはいえ、何もする事が無いヒマな勤務)


ジェイミーが帰ってきた。僕にとってHomeはここだけ。しかしそこはゴーストタウンだった。


※後記
2020年は『ビリー・エリオット』、2021年は『オリバー!』と英国労働者階級の人たちが主役のミュージカルが日本でも上演されました。ミュージカルでは貧乏な子供も歌って踊って最後はハッピーエンド。でも本作や『ケス』が現実なのでしょう。斜陽になったとはいえ大英帝国。そこで生まれた子供たちがこんな悲惨な生活を送っていたのでしょうか。逆にそれだからこそ、夢をかなえるミュージカルが生まれたのかなぁ..なんて

もう一つ。小さい話ですけれど。祖母の死後、兄のトミーは一人だけ父の家で暮らします。そして落ち着いた頃、弟ジェイミーに手紙を書きました。その手紙の最後。I am wearing long trousers now. 「僕は長ズボンをはいている」 英国でも少年期の決別=半ズボンの卒業なんですね。なんとなく感心しました。




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