邦画の少年映画の冬。春の光は見えそうにありません。
しかしそんな時代の中で、なんと中学生監督登場。次代に期待です。
海外作品は、今年も選ぶに困るほどの豊作。でも興業的には厳しい。
奇跡 | 是枝監督の子役演出は、さすが一級品。 |
1.奇跡 | 少年3人が鹿児島を旅立つシーンは鳥肌。→ review |
2.やぎの冒険 | まさかの中学生監督。でも素晴らしい。→ review |
3.ふるり | 05年の幻作品が、やっと日の目。→ review |
4.おとこのこ | 短編、厳しい苛め。この中に少年映画が凝縮。→ review |
5.エクレール お菓子放浪記 | 戦後の復興は、こんな少年達がいたからこそ。→ review |
次点(佳作3作品) | ロックわんこの島、ラビット・ホラー3D、RAFT |
吉井 一肇 | 彼の美しい声は全てを魅了。(中国でも) |
上原 宗司 | 話題は中学生監督だけでなく、彼の演技にも注目。 |
前田 航基、前田旺志郎 | 漫才で鍛えた度胸は風格さえ感じる。兄弟で表彰。 |
澁谷 武尊 | 「ラビットホラー」でタダ者でない実力を発揮。俳優を続けて欲しい |
土師野 隆之介 | 「ロック」主演。小さい身体のどこにあのパワーが。 |
田中 祥平 | 「ワラライフ!!」準主演は立派。今後どう脱皮していくか。 |
三輪 泉月 | 「WAYA」での可愛さは出色。もっと勉強して大成して欲しい。 |
本郷 奏多 | 「ふるり」は2005年に見たかった!(2回目の受賞) |
清水 尚弥 | マイナーキング。不遇の超美少年。次はメジャー作品で。 |
1.未来を生きる君たちへ | 怒りの連鎖を破るには。究極の課題。→ review |
2.バビロンの陽光 | イラク少数民族の苦悩。少年と祖母に涙止まらず。→ review |
3.蜂蜜 | 静かな森の世界。幼い少年の幻想に感動。→ review |
4.モールス | 北欧版とは違う凄惨な美しさ。→ review |
5.ペーパーバード | スペイン動乱下、したたかな少年に拍手。→ review |
5.リアル・スティール | 文句なしのエンターテイメント!→ review |
次点(佳作3作品) | super8、黄色い星の子供たち、メタルヘッド |
本年も邦画の少年映画は寂しい限りでした。少年俳優がトップ・クレジットであった長編4作品を対象とすることにしました。
・「奇跡」(前田航基君)
・「やぎの冒険」(上原宗司君)
・「エクレールお菓子放浪記」(吉井一肇君)
・「忍たま乱太郎」(加藤清史郎君)
どうしてもコレ!という決定的な作品がなく、消去法で落としていくしかありません。少年俳優の活躍度よりも、作品そのもののレベル感を優先させる事にしました。「忍たま」は面白い事は確かですが、映画としては評価できず、1番最初にドロップ。
「エクレール」はラストなど感動しましたが、やや強引でご都合的な脚本が目につき、2番目に落としました。「やぎの冒険」は中学生監督とは思えないほど完成度の高い作品でしたが、ストーリーに起伏がなく、やや退屈なことから、この時点で大賞にするのは、まだまだ尚早だと考えました。
そうして結局残ったのが、「奇跡」でした。こんな言い方をすると、しぶしぶ選んだみたいですが、やはり是枝監督の作品ですので、完成度で他の3作品を大きく引き離しており、順当であると考えています。
まえだ兄弟のキャスティングが発表された時は、正直言って不安の方が大きかったのですが、2人をしっかりコントロールして、嫌味の全くない、素晴らしい演技を引き出したことは本当に素晴らしいと思います。(もっと正直に言うと、不安というより、不満でした。物怖じはしないと思うけれど、ルックスも含めて新鮮さに乏しいし。)
色々なインタビュー記事を見ていると、まえだ兄弟が是枝監督を心から尊敬している様子が伝わります。売れっ子漫才師の子供たちを、ここまで心服させたことが、この映画の成功の要因かもしれません。
一方で不満もあります。まえだ兄弟主演とはいえ、この作品は群像劇であり、どうしても少年映画としての味が薄まってしまいます。「スタンド・バイ・ミー」のような強烈な印象が残らず、この作品に出てきた鹿児島名物の「かるかん饅頭」のような、ぼや~っとしたものになってしまいました。
鹿児島の3少年(前田航基君、林凌雅君、永吉星之介君)に思い切って焦点を絞り、3人の目線で進行してくれれば、もっと印象に残ったのではと思います。この3人が、いろいろ旅への工作をして、ついに鹿児島駅から旅立つシーンは、なぜか涙が出そうになるほどワクワク感がありました。でもその後は、全く尻切れトンボ。詰めが甘いというか、ぬるいというか。
これはこの作品だけでなく、あの強烈だった「誰も知らない」以降の作品全てに共通するように思います。「花よりもなほ」、「歩いても歩いても」など、決して失敗作ではなく優れた映画なのですが、そこそこ程度で止まっています。それが証拠に「誰も知らない」以降の作品で海外で大きく評価されたものはありません。(カンヌ映画祭へもお呼びがかからなくなってしまいました。)
もう映画監督は辞めて、若手育成とプロデューサーに専念するのでしょうか。まだもったいない。次はガーンと一発、正真正銘の少年映画を撮って欲しいもの。
ベスト1は「奇跡」。(最優秀作品賞とベスト1は当然同じです。なので、ベスト5は最優秀作品以外から選出しようとも考えましたが、当面は重複させることにします。)
2位は「やぎの冒険」。沖縄の何ともいえない、ちょっとだるいムードが満点の映画。監督の仲村君は才能があるとは思いますが、中学生監督が2位に入ってしまうとは。日本の少年映画の現状はこんなものです。2009年には東京藝術大学の学生映画を大賞にしましたが、ある意味、それよりも衝撃的かもしれません。もちろん、数多くの大人の手が入っていたと思いますが、それでも、ここまでのものを作れるとは素晴らしいことだと思います。
3位は「ふるり」。2005年制作ですが、公開されたのが2011年という事で選出しました。正確には少年映画というよりも女性映画なのですが、本郷奏多君の魅力が存分に描かれていましたので、ここに入れて問題はありません。なぜこの映画がお蔵入りになってしまったのでしょうか。
4位は「おとこのこ」。ndjc(若手映画作家育成プロジェクト)で製作された超マイナーな映画です。30分という短編ですが、若い監督が力を込めて作っているだけに、下らないテレビ局製作映画よりもずっと心に残るものがあります。イジメ描写が強すぎるのが難点ですが、清水尚弥君、吉原拓弥君の2人のドラマが印象的でした。劇場公開はなくても、なんとかDVD化を切望するものです。
5位は「エクレールお菓子放浪記」。主役の吉井一肇君に引っ張られて、なんとかベスト5入り。実話に基づく原作があるのですが、それを忠実に描くあまり、一つ一つのエピソードが作り話っぽくなったのが残念です。それでも、戦後の日本を復興したのは、こんな庶民のパワーがあったのだろうなと、感動させられました。
次点の「ロックわんこの島」。フジテレビ色が強すぎるのが難点ですが、少年俳優の熱演だけは120%評価できます。「ラビット・ホラー3D」も、セーラー服の女子生徒キャーキャー系のワンパターンではなく、意外にも少年俳優が地に足をつけた演技で、思わぬ拾いものでした。
「RAFT」は「おとこのこ」と同じ30分のndjc作品。やや薄味の作品でしたが、吉岡澪皇君の不思議な演技に好感が持てました。
最優秀少年俳優賞は、まえだ兄弟と吉井一肇君で迷った結果、中国のアカデミー賞と言われる金鶏百花映画祭国際部門で、史上最年少で最優秀男優賞を受賞したこともあって、吉井君に決定。
正直言って中国のその映画祭の事は全く知りませんでしたが、世界20数カ国の作品の中からの選出との事で、吉井君の演技が評価された事は素晴らしいと思います。柳楽さんのようなプレッシャーを受けることなく、じっくりと勉強していい俳優になって貰いたいものです。
新人少年俳優賞は、上原宗司君と「WAYA」の三輪泉月君で迷ったのですが、映画の出来を優先して上原君に決定。失礼な言い方かもしれませんが、沖縄とは思えない都会的な容貌が印象的でした。昨年の「ニライの丘」といい、沖縄映画には期待していますので、いい俳優になって欲しい。
優秀少年俳優賞は、まず問題なく、まえだ兄弟。
私はどちらかといえば、お兄ちゃんの前田航基君の実直な演技を評価しています。もちろん弟の旺志郎君とのコンビがあってのことなので、2人一組での表彰です。ただ、キネマ旬報の2011年映画総決算号をみると、新人男優賞に投票されているのは前田旺志郎君ばかり(立読みですので、詳細な数字は覚えていませんが)。これはどうしたものでしょう。お兄ちゃん、頑張れ。
澁谷武尊君。幼くて華奢、今にも折れそうな子供から、段々と邪悪な存在に変っていく。大人顔負けの演技力でした。諸事情で子役を辞めるようですが、またいつかスクリーンに再登場する日を待っています。
土師野隆之介君。この小さな身体で堂々の実質主役。しかもスクリーンの中では、大人の俳優よりも、彼が出てくると安心感が広がる、こんな不思議な魅力の持ち主です。これから大化けするかもしれません。
田中祥平君。「花よりもなお」、「歩いても歩いても」の美少年も、かなり成長しました。今回の「ワラライフ!!」という作品の性格上、仕方がないのかもしれませんが、表情が暗くなってしまったのが気になります。今は成長という脱皮期間中ですので、一皮向けて、いい青年俳優になって下さい。
三輪泉月君。名古屋にこんな可愛い少年がいたことに驚きです。(愛知県の皆様、すみません。どうも「素朴な」顔の方ばかりの印象でしたので) これ1本で終りか、これから化けるか、全く未知数ですけれど、もう1本くらい作品を見たいものです。
その他、ここに選ばなかった少年俳優について。加藤清史郎君。まだ人気があるうちに、いい映画に出て欲しいもの。 吉岡澪皇君。「アキレスと亀」以来、久々に見ましたが、もっと出演して欲しい俳優です。
佐原弘起君。「ロック」の終盤、ほんの少しの出演でしたが、彼の笑顔は2011年のベストスマイル賞に値するものだと思います。犬と少年のツーショット。これが好きなんです。
特別賞は本郷奏多さん。「ふるり」出演当時は14歳ですが、現在は成人されているので、また特別賞とさせて頂きました。いい素材の少年俳優でしたが、なにか少しだけ運がズレていて、今一つ昇華しきれなかった残念感が漂う俳優さんです。冷たい目をした暗い少年のイメージを脱却して、同期の三浦春馬さんのような、明るい俳優になって欲しいものです。
もう一人。清水尚弥さん。ここ数年で特に個人的な思い入れが強い少年俳優です。所属事務所にパワーがないせいなのか、テレビや映画ではいい役が貰えません。でも、ndjc、ミニシアター系の映画では、かなりの主演作があるようです。ただ悲しいことに、大半は見ることができません。なんとかDVDででも彼の美少年ぶりを見たいものです。
貧弱な邦画に比べて、外国映画は豊作の年でした。詳細は、結果とreviewを見ていただくとして、ここではごく簡単に感想などを書きます。
映画そのものには本当に感動したのですが、その作られた背景を見てみると、政治的な臭い、プロパガンダの臭いがするものが多々あります。特に西欧側論理の正当化を目的とするようなものも。
そこまで裏読みすると、気分が悪くなりますので、ここでは敢えて目をつぶり、映画の中だけに押しとどめて、人間ドラマとして感動できたかどうかで判断しました。
1位は「未来を生きる君たちへ」。この映画に出演している2人の少年のうち、エリアスというスウェーデン人の少年が今でも気になります。ブサイクと苛められていた少年です。彼の優しさが2011年のベストです。
イスラム圏の「バビロンの陽光」と「蜂蜜」。日本やヨーロッパの50~60年代を彷彿させるような、深いレベルの少年映画でした。どうして今の日本では作れないのでしょう。
ハリウッド作品では「リアルスティール」、「super8」、「メタルヘッド」と少年俳優大活躍の作品群。日本では全く人気が出ませんでした。そんな時代なので仕方がありません。
昨年は、マヤ暦の秘密とかなんとか、2012年終末説のようなものが流行りました。いつの時代に末法思想はあるものです。少年映画の世界では、既にここ数年で終末を迎えてしまったので、後は底を打って、上昇するだけ、と楽観的になろうと思っています。
少年映画の最後の砦だった、ミニシアターがどんどん廃業する流れが止まらないのは心配です。フィルムからデジタル上映になっていくのも仕方ありません。
それよりも深刻なのは、違法コピー蔓延でDVD製作費の回収が出来ないため、DVDすら作られなくなる時代になったことです。これは本当に何とかならないものでしょうか。2012年、映画産業そのものが終末にならないように、関係者の方々で知恵を出し合って欲しいものです。