火の鳥 (1978年)

少年映画評価 8点
作品総合評価 7点
少年の出番 80%(準主役)
お薦めポイント 手塚アニメと実写合成の妙?
映画情報など 1978年公開/DVD未発売(写真は尾美としのり君)


■手塚治虫氏の壮大なスケールの原作を実写映画化

手塚治虫氏のライフワークともいえる壮大な作品「火の鳥」。黎明編から古代、中世、現代、世界各地を舞台として、不死鳥である火の鳥をめぐって輪廻を繰り返していく。この作品は、そのうち黎明編を映画化したものです。

監督は巨匠の市川崑氏、脚本は詩人の谷川俊太郎氏、アニメーションは手塚治虫氏自身が担当、これだけ聞いても素晴らしいスタッフです。俳優は、若山富三郎氏、江守徹氏、林隆三氏、草刈正雄氏、仲代達矢氏、高峰三枝子さん、草笛光子さん、大原麗子さん、風吹ジュンさんなど、超豪華メンバー、音楽をフランスのミッシェル・ルグラン氏が担当するなど、今では考えられない贅沢スタッフでした。

しかし、贅沢な素材を集めすぎた料理が必ずしも美味しくないように、この映画の評価も決して高くはなく、今までDVDやビデオは発売もされていません。(権利問題との話も聞きますが。)

実写とアニメの合成。(当時流行っていたディズニー映画の影響でしょうか。元画面は4:3サイズです)
■ストーリー

この作品のストーリーを詳細に語るのは、あまりに複雑すぎて困難です。申し訳ありませんが、少年俳優の出る部分を中心とした概要だけにさせて下さい。(原作を読んで下さい)

小国に分かれた古代の日本が舞台。覇権を狙うヤマタイ国は、女王ヒミコの命令で不老不死のため火の鳥を探している。一方で、隣国のクマソ国へスパイを送り込む。スパイは、まんまとクマソ国の長老に取り入ることに成功し、油断させておき、猿田彦(若山富三郎氏)を隊長とするヤマタイ国の軍勢が攻め入る。

猿田彦はクマソ国の民衆を皆殺しにするが、長老の息子ナギ(尾美としのり君)だけは、捕虜として連れ帰る。しかし女王ヒミコは「ナギを殺してしまえ!」と命ずるが、猿田彦は何とか取りなして命だけは助けて貰う。実は、捕虜として連れ歩くうちに猿田彦はナギに情が移ったのだった。(もともと少年好きオヤジだったのかもしれません)

猿田彦はナギを可愛がり、弓を教えるが、一人の女スパイがナギに近づき、親の仇であるヒミコを討て!とそそのかす。ナギはヒミコを弓で狙うが失敗し、女スパイと一緒に逃げ、代りに猿田彦がつかまり穴倉に幽閉されてしまう。

しかし、日食で暗くなった混乱に乗じて、ナギと女スパイは猿田彦を助け出すが、途中で見つかり、女スパイは命を落としてしまう。(筆者注:これで邪魔者は消えてナギと猿田彦だけの世界に。) 二人はヤマタイ国の軍勢に追われながら、火の鳥の住む火の山まで逃げる。ここで火山が爆発、追手の軍勢は生き埋めになり、二人は助かる。

しかし、この頃、強大な騎馬集団のタカマガハラ(高天原)勢が勃興し、日本統一を目指してヤマタイ国に攻め入ってきたのだ。それを知った猿田彦はヤマタイ国に戻り、怒るヒミコを説得して、タカマガハラ勢との戦いを準備する。ナギも仕方なく、ついてくる。

やがてタカマガハラ勢との決戦の時が来るが、騎馬集団に歯が立たず、猿田彦は奮戦むなしく討死。ナギは脱出し、何とか火の鳥(死体)を見つけるが、そこへタカマガハラの軍勢が追ってきた。火の鳥を渡すものか、と抵抗するナギ。

しかし、あっけなく弓で射殺される。(えっ嘘!こんなに簡単に死なすなよ)死ぬ直前に、火に投げ込んだ火の鳥は、復活して天に昇ってい。

■ナギを演じた尾美としのり君

今や邦画を代表する中堅男優の一人ですが、この作品がデビュー作。多分、大勢のオーディションの中から選ばれた期待の新人子役だったのでしょう。当時の記事とか資料は見たこともありませんので、想像です。

この作品では、変声期前の可愛さと凛々しさを備えた顔、露出部?の多い衣装から覗く健康的な肉体とマッチして、少年ナギを見事に演じていました。風吹ジュンさん、大原麗子さんなど、当時のトップ美人女優に負けず劣らずの華がある役でした。(05年の「妖怪大戦争」の神木隆之介君のような感じの役ですが、この作品の方が少年映画として出来は上だと思います。)

尾美君はこの後、NHKのドラマ「ぼくは12歳」で、自殺した中学生を演じましたが、この作品も印象に残っています。再放送もビデオ化もないようですが、何とかもう一度見たいですね。

その後、大林宣彦監督の「転校生」でブレイクするようですが、この辺の映画は全く観ておりません。成長するにつれて鶴見辰吾さんとの区別がつきにくくなってしまいました。

■注目のシーン

この映画では、猿田彦とナギの二人のシーンが非常に面白い。幽閉された猿田彦を救出した後、弱った猿田彦の顔(鼻)にナギが口を付けるシーンは見ものでした。ヤマタイ国の軍勢に取り囲まれたシーンでの会話も見どころです。

猿田彦とナギがお互いに「自分は置いて逃げろ」と言い合う中で、猿田彦がナギの言葉尻をとらえて「お前、今なんと言った、俺の事を好きだといったのか?もう一回言ってくれ」ナギは、恥ずかしいから二度と言わないけど、内緒にしてと言いながらも「好きだ」と言い、狂喜する猿田彦の二人は親子の関係ではなく、男女のようでした。

傷ついた猿田彦に思わず駆け寄る少年ナギ
猿田彦の鼻の膿を口で吸い出すナギ


大変残念なことに、2008年2月に市川崑監督は逝去されました。市川監督を偲んで、特集上映が様々な映画館で開催されるようです。「火の鳥」も上映されますので、機会があればスクリーンで鑑賞したいと思っています。また、スカパーの日本映画専門チャンネルでも、何回か放映されました。(実は2008年7月にスカパーで観て、このレビューを書いています)

(補足)鑑賞時の映画日記から

2008年8月31日、シネ・ヌーヴォー(大阪)にて。

大阪は九条にある老舗ミニシアターのシネ・ヌーヴォーで、市川崑監督追悼特集として、ほぼ全作品の上映会が開催されており、前から観たかった「火の鳥」をやっとスクリーンで鑑賞しました。(ストーリーなど、かなりネタバレ部分も書きましたので、未見の方はご注意を)

昔から数回、テレビやスカパーで鑑賞しましたが、自宅では他の事をしながら観るため、真剣に通して観たことがなく、今回はその夢が果たせて大満足です。少し残念だったのは、これだけスケールの大きい作品ですから、ワイド画面のシネマスコープサイズだろうと思っていたら、35mm普通サイズだったこと。TVアニメの鉄腕アトムやヒゲオヤジが突然出できますので、TVサイズにせざるを得なかったのかも。

しかし、大勢の超豪華俳優のなかで、無名の尾美トシノリ君が、クレジットの2番目と上位でしたので、これは彼がメインの少年映画と言ってもいいでしょう。(他の俳優が氏名だけなのに対し、尾美君だけは氏名の後に(ナギ)と、役名が書かれていました。やっぱり「誰なんだコイツ?」と言われる事への対応かな)

大原麗子さん、由美かおるさん、風吹ジュンさんなど、当時の超美人女優にも負けない魅力的な扱いでしたね。こんな映画、もう当分は作られることは無いでしょう。何とかDVD化して欲しいものです。

(補足)
2014年になり、スカパーの日本映画専門チャンネルでHDリマスター版が放送され、何とか録画出来ました。とはいえ、元が4:3ですので、ワイド画面のハイビジョンでは両端が黒くなって勿体ない感じですが。

尾美としのり君、当時は12歳。ちょっとポッチャリ気味ですが、非常に精悍な表情も見せてくれ、並みいる大男優、大女優に決して臆することなく堂々とした演技。こんな「大河少年ドラマ」は、もう二度と映画化されることはないかもしれません。

小舟の上で釣り。少年らしい表情
ちょっとワイルドな表情





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