少年映画評価 |
8点 |
作品総合評価 |
7点 |
少年の出番 |
100%(物語の主役) |
お薦めポイント |
フランス版に負けない わんぱく戦争 |
映画情報など |
1986年公開/DVD発売中(写真は林泰文君) |
■大林宣彦監督が痛烈な風刺で描く戦争の愚かさ
佐藤春夫氏の「わんぱく時代」という小説が原作ですが、少年時代の思い出、若い男女の激しい恋、売られていく少女、そして戦争と、色んな具材をまぜこんだ鍋料理みたいな映画。大林監督流の素人舞台のような演出に評価は分かれるでしょうが、なかなかの力作だと思います。
■ストーリー
戦争の足音が迫る昭和10年代、瀬戸内地方の小さな町で暮らす医師の息子、総太郎(林泰文君)がこの物語の主人公。ある日、総太郎のクラスに大杉栄(片桐順一郎さん)という少年が転校してきた。
大杉は事情があって同級生より2歳年上で、めっぽう腕力が強い。クラスのボスであるポンちゃんは子分を集めて、大杉と決闘するが全く叶わない。一方、総太郎は大杉の姉、お昌ちゃん(鷲尾いさ子さん)にひと目ぼれ。お昌ちゃんは性格も素晴らしく総太郎だけでなく、みんな虜になってしまった。
でも、お昌ちゃんには、樵の若者、勇太(尾美としのりさん)という恋人がいた。大杉とポンちゃん達の争いは続くが、総太郎のアイデアで喧嘩の代りに戦争ごっこで勝負することに。ルールを決めた戦争ごっこであったが、子供同士であっても、戦争はその性格である凶暴さを増し、コントロールできなくなっていく。
しかし、そんな子供の時代は終わってしまった。戦争が激化、景気はどん底。勇太には召集礼状、お昌ちゃんは女郎屋に売られる事になった。これに待ったをかけたのが子供たち。総太郎の作戦に大杉もポンちゃんも一体になって「お昌ちゃん掠奪大作戦」を展開し、一時はお昌ちゃんを連れ戻すが、お昌ちゃんに帰るところなんかない。
結局、女郎屋へ行こうとするが、その時、兵営を脱走してきた勇太がお昌ちゃんを奪い、船で沖へ漕ぎ出す。しかし。勇太を追ってきた兵士達の隊長、青木少尉(実は密かにお昌ちゃんに思いを寄せていた)は勇太を射殺。そして、お昌ちゃんも燃える船の中で。
パッケージ変遷。左は最初のVHSビデオ版、右は後に発売されたDVD版
(売らんが為に、鷲尾いさ子さんを全面に出し、実質主役の林泰文君はパッケージから外され)
■とにかく、鷲尾いさ子さんが美しい
ここは少年映画紹介サイトなのですが、本作品では、まず主演の鷲尾いさ子さんに言及せざるを得ません。本当に日本人ばなれした美少女というか美女でした。
大林宣彦監督は、色んな映画で個性ある女優をデビューさせ、育ててきましたが、この作品当時の鷲尾いさ子さんが、ルックス的には一番ではないでしょうか。ただ演技はどうでしょう。花という意味では彼女が主演ですが、ストーリー上の主演は、以下で述べる少年俳優だったかもしれません。
林泰文君、また裸にされて
■林泰文君の不思議な魅力
さて、この映画は基本的には総太郎少年の目線で進行していきます。そういう意味では林泰文君が主役であるとも言えます。で、この林君なんですが、まず美少年ではないんです。(こう言ってしまっては、申し訳ないのですが。)でも、印象に残ってしまう魅力を持っているんです。
特徴としては、顔の表情が本当に豊かな事。甘えたような、拗ねたような幼児的表情を見せたかと思うと、大人になったり、幼児のような声と、声変わり寸前の声を使い分けたり。この映画の撮影当時は13歳と意外に年齢が上でしたが、これだけの演技をするには、それなりに成長した少年俳優でないといけないのでしょう。
有名な映画評論家の故・淀川長治氏が、この映画の評論を書いていて、その中で林君の演技を絶賛していた記事を読んだ記憶もあります。(何の雑誌かは忘れました。すみません。)
■本家フランス版「わんぱく戦争」もびっくり
イヴ・ロベール監督による1961年の仏映画はテレビで何回も放映され、見た人も多いのではと思います。2組に分かれて戦争ごっこをするのですが、真っ裸で奇襲攻撃をするシーンに笑いころげた方も。
本作品でも、お昌ちゃん掠奪大作戦の際、子供達がお地蔵様に化ける奇襲作戦を展開します。素っ裸で赤い前掛けの少年達が微笑ましい。でも今は「児童なんとか」に引っ掛かってしまい、今後はこんなシーンは無理でしょう。もしかして、次に発売されるビデオからは、カットされるかもしれません。
林泰文君も中学生なのに、写真のような格好をさせられて大変でしたね。ちなみに、林君は高校生になって、また大林監督の「漂流教室」の主役に抜擢され、やっぱり冒頭で同じようなシーンを撮られています。どうでもいいことですけれど。
裸で「気をつけ」前を隠していた手は
美少年ではありませんが、ほあ〜んと印象に
■強い者と弱い者(熊谷直実と平敦盛)
このレビューを書くために、久し振りにDVDを鑑賞した訳ですが、少し感想を。
「平家物語」なんて古典を言うと、取っ付きにくいかもしれませんが、高校の教科書にも載っている「一ノ谷の合戦」くらいは聞いた人もあるでしょう。源氏の荒武者・熊谷直実が、落ちのびてきた平家の武士を討ち取ったところ、まだ幼い少年・平敦盛だった。直実は泣きながらも敦盛の首を討ったのだった。
この映画でも、剛腕少年の大杉栄と、圧倒的に弱い少年が対戦する場面が何度かあります。もう全く勝てませんので、弱い少年は始めから屈服しているのですが、それを無視して大杉少年は暴力を執行します。そのシーンはSMに近いのかもしれませんが、直実と敦盛の関係を思い出してしまった訳です。
やられるのは、チビと呼ばれた神官の息子と、主人公の総太郎ですが、平敦盛のような凛々しさや高貴さはなく、単なる小動物のような存在なんですけれど。
あと、大杉栄という名前も、凄いものですね。大正時代の社会活動家で、関東大震災のドサクサで憲兵隊に斬殺されてしまった悲惨な事件の被害者です。これも映画とは関係ありませんけれど。