朱霊たち (2007年)

少年映画評価 7点
作品総合評価 7点
少年の出番 90%(ほぼ主役)
お薦めポイント 少年版ふしぎの国のアリス?
映画情報など 2007年公開/DVD未発売
(写真は、滝原祐太君)


戦後すぐの日本を描いた、少し奇妙なテイストの映画です。前衛舞踏家の岩名雅記氏が、なんとオールフランスロケで監督された白黒作品。岩名氏はフランス在住なので、別にフランスにこだわった訳ではないと思います。(日本ロケの方が経費ががかるとか)

■ストーリー

戦後間もない時代の日本。ある街に住む少年(滝原祐太君)は、飛行機から撒かれたビラを追ううちに不思議な屋敷に入り込んでしまう。その屋敷は立入り禁止の隔離病棟。いや!隔離ではなく「監禁」病棟であり、そこへ間違って入り込んでしまった少年も監禁されてしまう。

病棟の患者達と話をするうち、恐ろしい事実が判明する。病人達は太陽光を浴びる事のできない奇病の患者であり、患者が5人収容されると政府から係官がきて、ガス室で患者を処分することになっていると。

病棟の地下は不思議な世界につながっており、患者達と少年は幻想と狂気の世界を行ったり来たりするが、実は狂気ではなく、患者達の心の悲しみの世界であった。


間違って入った隔離病棟。少年も監禁されてしまった
■滝原祐太君

少年役を演じた滝原祐太君もフランス在住の日本人かと思ったのですが、実は東京の児童劇団に所属する子役さんでした。眼鏡をかけて無表情な様子は、モノクロ映像とあいまって、サイレント時代の喜劇役者バスター・キートンを彷彿とさせる雰囲気です。(と言いながら、キートンの映画はあまり知りません。)

無表情ながら透き通った声が印象的でした。映画の中で本職の舞踏家が踊るシーンがあります。踊るといっても、いわゆるダンスではなく、ヨガのポーズのような前衛舞踏なのですが、滝原君も少しだけ踊っています。このシーンが可愛いかったので、もう少し見せてくれると有難かったのですが。

■最大の違和感はフランス人だったのですが。

この映画は、フランスでの制作のせいで日本人俳優がいなかったのでしょうか、出演者にフランス人が多数おられます。でも「役」は全員日本人なんですよ。彫りの深い貌と長い脚の日本人、青い目とブロンドのグラマー美女の日本人(白黒なので色はない筈なのに、そんな印象を受けます)

もっとおかしいのは、日本人俳優は日本語で、フランス人俳優はフランス語でセリフを喋るのですが、そんな事おかまいなく会話が通じているのです。最初は違和感があったものの、映画に入り込むうちに、観客の方もそんな事はどうでもよくなってきます。フランス人、日本人、フランス語、日本語なんて表層的な事象にすぎません。

この映画はそんな次元の話ではなく、もっと深層の世界を表しているのだ、と悟りました。観終わって感動するようなストーリーでもなく、淡々とした脚本なのですが、何となく心の底に残るような不思議な作品でした。

不思議でエロっぽいポスターを見つけた
隔離病棟にいる病人たちとの別れ
(患者とハグして大丈夫?)

■岩名雅紀監督

この作品を観たのは、大阪は十三の第七藝術劇場のレイトショー。観客は20名程度だったでしょうか。平日の夜遅くとしては多い方ではと思います。

上映前に岩名監督から簡単な舞台挨拶がありました。東京公開ではかなり反響があったそうですが、大阪へ持って来る時「この手の芸術作品は東京でしか受入れられず、地方では苦戦する」と言われたそうです。そのジンクスに挑戦するため、大阪に持ってきたが、やはり大阪では苦戦している(観客が少ない)との話をされていました。(大阪人としては、文化性が少ないと言われているようで、少し寂しいところです。

上映後も狭いロビーにおられて、帰る観客に挨拶されていましたので、大阪人でも文化に理解があるところを見せてやろうと背伸びして、岩名氏のエッセイ本を購入し、おまけにサインまでして貰ったのでした。

補足ですが、例の騒動になった映画「靖国」を唯一、予定通り上映するのが、ここ大阪の第七藝術劇場という事で、大阪の面目を躍如したのでしょうか。私は政治的な作品は左右関係なく苦手ですので、観る予定はありませんが。





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