少年映画評価 |
7点 |
作品総合評価 |
6点 |
少年の出番 |
100%(主役) |
お薦めポイント |
少年のレポートでみる広島の街。 |
映画情報など |
2013年公開 DVD発売中 (写真は、主役の本屋敷健太君) |
2013年の夏、全国の小学生に見て欲しい映画として企画されたのだと思いますが、本当に残念なことに、地元広島と東京(わずか1館)で、ひっそりと公開されただけでした。
原発反対で騒動を起した俳優(今は参議院議員)山本太郎さんが出演されていますので、バッシングを受けたのかもしれません。映画が政治の道具に使われるのは、なんともいえない気分です。しかし幸いなことに、年が明けて2014年にDVDが発売。早速予約して買い求め、鑑賞することができました。
広島の街を見下ろす仏舎利塔に立つ、主人公の健斗
■ストーリー
広島に住む健斗(本屋敷健太君)は小学5年生。健斗の通う小学校では、5年生になると、夏休みの宿題として「自分の住む街の地図」を作ることになっていた。健斗は何を作っていいか思いつかないまま、親友の涼太(松尾潤君)と、一樹(井上逍君)の3人組で遊び回るだけ。
とりあえずという事で、ネットでダウンロードした広島の地図に色を塗っておしまい、にしたのだが、その地図をみた同級生の女の子からはインチキと軽蔑されて落ち込む始末。ある日3人組は、広島市内にある仏舎利塔の近くで、廃車で暮しているホームレスの男(宮地大介さん)と遭遇し、追いかけられる。
一方、健斗の妹は巫女のような女の子で、仏舎利塔のある山から、何かの声が聞こえると不気味なことを言い出した。健斗は、失業中の父(山本太郎さん)を軽蔑していた。いつも逃げてばかり、男らしくないと。しかしある時、父の子供時代の広島のことを教えて貰った。父が子供の頃住んでいた地区は再開発で今はもうない。
原爆のこと、父のこと、ホームレスのこと、福島から避難してきた同級生の女の子のこと、妹の不気味な話、そんなことを考えながら、やがて健斗は地図に向き合うことになった。
■前半はズッコケ3人組
同じ2013年の夏「基町アパート」というドラマがNHK広島で製作されました。そのドラマと被る部分が多いので、余計に映画の存在感が薄れるような危惧もありました。主役を演じた本屋敷健太君は、これまたドラマ主役の加部亜門君と似た雰囲気の顔立ちなのです。でも映画は全て広島の地元っ子ですので、リアリティは映画の方がずっと上。
映画の前半は、お定まりのようなパターンで夏休みに突入。小学校の女性教師のセリフや喋り方は、もうちょっと何とか工夫が欲しいところ(演じた女優さんのせいではなく脚本のこと)。ズッコケ3人組のような夏休みの描写は、これもワンパターンではありますが、子供映画らしくて、これはこれで構いません。
特にイケメン涼太や、昭和少年風の一樹の二人が、本当にいい味を出していました。中でも夏祭りの夜の肝試し。浴衣の一樹がホームレスに捕まりそうになり、パンツ一つで逃げてくるのは笑えました。
広島で起きた事を真剣に考える
■後半はシリアスなドキュメンタリー
しかし映画の後半はガラッと変ります。主役の健斗が、色々な人にインタビューしながら、レポーターとなって広島の街を歩き回ります。ここで健斗役の本屋敷健太君の存在感が光りました。
子供が町をレポートするのは、TVでもよくありますが、どこか白けた感じが否めません。それは子供にやらされ感が見え見えな場合。インタビューの意味を判っているの?でも本屋敷君の目は真剣です。今や超高齢になった被爆体験者のおじいさんにも、おばあさんにも、町の時計屋さんにも、真摯な態度で接します。
最初は、この真摯な態度も演技指導かと思っていましたが、DVD特典のメイキングを見ていると、本屋敷君が自ら考えているように思えます。決して子供という甘えではなく、一人の人間として接しているような気がしてきました。
■メイキング映像にみる深作健太監督とキャストたち
本作品の監督は深作健太氏。大監督深作欣二氏のご子息です。ただお父様の「仁義なき戦い」シリーズなどのヤクザ映画、また「バトルロワイヤル」シリーズのバイオレンス映画も、私は好きではありません。敬遠していました。
本作は、それらと180度転換したような作品でしょうか。両監督の作品をこれまで避けてきましたので、実は共通する部分があるのかもしれませんが。
DVD特典のメイキングを見ていると、深作健太監督はバイオレンスなどとは無縁のような、やさしい方に見えます。子役への愛情ある接し方、配慮などを見ていると、もしかすると少年少女映画の方が向いているかもしれません。
監督の言葉の中で印象に残ったのは、オーディションについて「主役は子供とはいえ、私と話が出来ること」との条件でした。いくらルックスやノリがいい子役でも、監督と価値感を共有できないレベルの子では使えないという事でしょうか。
そういう意味で本屋敷君が選ばれたのは、非常によく理解できます。言動を聞いていると、子供なのにすごくよく考えている様子が見えます。何といっても将来の夢が「DNA学者」ですから。(これは、オーディション用に、親か事務所の人から言えといわれたのかもしれませんけれど)
演技ではない? 真剣な表情
イケメン少年役の松尾潤君
■さいごに
山本太郎さんが出演しているので、左派系のなんでも反対映画かとの懸念もありましたが、あまりそういう色はなく、安心して見ることができます。町が開発で変わっていくことを決して否定してはいません。古い時代が良かったと、何でも礼賛するようなこともありません。ただ「古いものをしっかり記録、記憶していくことが、後世の人への義務」といった感じでしょうか。
全国公開がなかったことが本当に残念ですが、ぜひDVDを鑑賞して下さい。お笑い芸人や美人キャスターがレポートするような広島旅番組とは違った、広島の魅力に触れることができると思います。