東京オリンピックの年に製作された社会派ドラマ。不治の病の冒される少年や少女を描いた作品は、数多くありますが、その先駆けに近い映画でしょうか。石原裕次郎さんがこんな作品に出ていたとは意外かもしれません。
大富豪の高村家に運転手として雇われた橋本鉄哉(石原裕次郎さん)が主役。高村家の長男、俊夫(小倉一郎さん)は天体観測が趣味の中学生。
ある日、天体観測中の俊夫が「望遠鏡の隅が曇っている」というが、橋本が見るとどうもない。そのうち物にぶつかるなど視野が狭くなっているようだ。心配した橋本は高村夫妻に告げ、俊夫を病院に連れて行くよう勧める。
心配した通り、俊夫は脳腫瘍と診断され、大手術を受ける。しかし当時の医学では不治の病。毎日、お見舞に行く橋本に、俊夫は「君が僕の病気を発見してくれたんだね」と親愛の情を示すようになる。しかし退院、再手術と続く闘いの中で、自分が治らない事を知り、ぽつんと橋本につぶやく。
橋本は衝撃を受けた。この少年は自分の死を知りながら、逃げもせず、愚痴すら言わず、まっすぐ前を見つめて生きている。その日以来、橋本は仕事の合間を縫って、俊夫の残り短い人生を少しでも充実させるように、色々な所に連れて行き、話をしてあげる。
そんな中で、橋本の昔の仲間が、高村夫妻に過去の過ちを告げ口する。高村夫妻は橋本を解雇しようとするが、俊夫が必死に反対して留めてくれた。しかし、俊夫の命も限界だった。
あの大スター・石原裕次郎さんを前にして、全く互角以上に堂々と演じた少年俳優。きりっと凛々しい顔に、澄みきった天使のようなボーイソプラノ。彼が小倉一郎さんでした。
少年俳優と成人してからの小倉さんは別人物、というか、映画は映画の世界で閉じて鑑賞することです。それにしても、石原裕次郎さんと2人だけのシーンは、本当にジーンときます。
「死を前にして、何を考えるのか」こんなテーマが伏線にあったのかもしれません。少年の純粋な態度に比べ、大人の中には死の恐怖から、仲間を売ったり、逃げてしまったり、取り乱したりした人も多かったのでしょう。そんな弱い人への皮肉が込められていたのかも。(私自身は、人間は弱いのが本性なのだから、それを必要以上に責めたくはありませんけど。)
本作品は、残念ながらビデオも廃盤となっていますが、地方のUHF局やスカパーなんかで放送されるケースもあると思いますので、機会があれば是非ご覧下さい。私もテレビで3回くらい観ました。石原裕次郎特集か何かでDVD化される事を切望しています。