はだしのゲン (1976年)

少年映画評価 5点
作品総合評価 7点
少年の出番 90%(主役)
お薦めポイント 全てのシーン。涙なしには見れません
映画情報など 1976年公開/DVD発売中
(写真はゲンを演じた佐藤健太君)


広島の被爆を描いた小説や映画は数多くあります。その中で漫画「はだしのゲン」は、広島悲劇の象徴のような存在だったと思います。

しかし、そんな有名な漫画も私自身は読むことはありませんでした。漫画の画風があまり好きではないという単純な理由です。

作者の中沢啓治さんは、惜しくも2012年末にお亡くなりになられ、その時、「はだしのゲンが見たヒロシマ」というドキュメンタリーDVDを鑑賞しました。

中沢氏の真摯な言動をみて、これはいつか「はだしのゲン」を読まないといけないな、との気持ちになりましたが、かなり長い漫画を読むのは、躊躇しますので、実写版のDVDの鑑賞に到った訳です。

実写映画は3本製作されていますが、今回紹介するのは最初の1作。少年映画がどうのこうのではなく、必ず見て欲しい作品です。

■ストーリー

本作は第1部として、8月6日の原爆投下までが描かれています。太平洋戦争末期の広島、国民学校2年生のゲン(佐藤健太君)は、父(三國連太郎さん)、母(左幸子さん)、2人の兄、姉、弟のシンジ(石松宏和さん)の7人家族。

2人の兄は疎開や工場動員で殆ど家にいない。父はゲタの絵付け職人だが反戦主義者として、警察や近隣からマークされている。そんな暗い時代だが、ゲンとシンジは元気いっぱい!

「非国民の子」と苛めらようとも、決して負けはせず、明るく生きている。時にはイタズラが過ぎて、大目玉を貰ってもへっちゃら。そんな束の間の平和も、坂道をころげ落ちるように悲劇へ向います。まず父が警察に拘束された。何日も酷い拷問を受けた後、なんとか釈放。それでも考えを曲げることはなかった。

母のお腹には新しい命が宿っているが、家族には食べるものさえ足りない。イナゴを取ってしのぐ毎日。みかねた朝鮮人の朴さんが時おり差し入れをくれた。(朴さんは差別をしない父を慕っていた)姉が学校で泥棒扱いされたり、兄が両親の反対を押し切って海軍に志願したり、家族にとって試練が続く。

やがて運命の8月6日。たまたま登校日のゲンは学校へ。その時、原爆が炸裂。一時気を失ったものの、ほぼ無傷だったゲンが家に帰ってみると。父、姉、弟のシンジが倒壊した家の下敷きなっており、母が必死の形相で、大きな柱をどけようとしているが、ビクとも動かない。

やがて火が回ってきた。姉は既に亡くなっているのか一言も発しない。父は「もう逃げろ!生きるんだぞ」、シンジの「母ちゃん、兄ちゃん」切ない声が耳に残る。「私も一緒に死ぬ!」と気が狂ったように叫ぶ母を、ゲンは引っ張って逃げていった。

放心状態の母に更なる試練が襲いかかる。なんと、こんな時に陣痛がきたのだ。(ここで母親は死ぬと思い込んでしまい、何度DVDの停止ボタンに指がかかったことか)よろける身体で、半分焼け残った家に入り込み、ボロ布を集める母。(こんな時なのに、空家とはいえ他人の家へ入るのだから「すみません」と声をかける母の姿に思わず涙)

そんな母の姿に呆然とするゲン。しかし我に返ったゲンは、出産のためのタライ、水、鋏などを探しに奔走し、なんと見事、産婆さんの役目を果たしたのだ。そして、こんな日に新しい命・妹が誕生した。亡くなった父、姉、弟への思い。母の悲しみ。そして生まれてきた妹の人生。これからどうなっていくのでしょうか。

■もう何も言うことはありません。

どうせ漫画原作であるとか、想像のつくストーリー展開とか、舐めていた自分がありましたが、目を離せませんでした。涙が止まりませんでした。日本人なら、いや世界の人々に見て欲しい作品です。

父を演じた三國連太郎さん。こんな作品に出ていたとは知りませんでしたが、存在感は抜群でした。でも、何と言っても母を演じた左幸子さん。彼女の熱演には泣かされました。

決して美人ではないかもしれません。でも母親の優しさ、強さ、そして気品まで。それをここまで体現した女優さんは、多くはいないと思います。この作品で、左さん演じる母親が死んでしまうのでは、とハラハラし通しでした。

あと、端役でしたが、牧伸二さんも出演しており、いい味を出していました。本年(2013年4月)にお亡くなりになられたのが残念です。

■ゲンを演じた佐藤健太君

映画の前半、ゲンはそれほど目立ちませんでした。ただの腕白小僧といった感じで、それほど感情移入できませんでした。しかし終盤は、映画をぐいぐい引っ張ります。母ちゃんを支えなければ、という責任感が芽生えた少年を本当によく演じました。

ゲンとシンジは子供なのに浪曲が得意で、道端で演じて御捻りを貰ったりしていました。生まれたばかりの妹と母のために、農家の前で一人で浪曲を演じます。演じているうちに、亡くなったシンジを思い出し、涙で声が出なくなります。淡々と演じていましたが、このシーンは大した演技力でした。

被曝直後、ゲンも気を失った
母ちゃんは生きていた。飛びつくゲン

■2部、3部、その他の作品について

実写版映画は、この後、2部「はだしのゲン 涙の爆発」(1977年)、3部「はだしのゲン PART3 ヒロシマのたたかい」(1980年)と続きます。同じ山田典吾監督ですが、配役や雰囲気は変わっており、またDVD鑑賞してレビューを書く予定です。

また、2007年には、小林廉君主演でテレビドラマ化もされており、高視聴率を出し、DVD化もされているようです。これも機会があれば鑑賞しようと思います。本作品は、実写系の原点となる映画だと思いますので、皆様も機会がありましたら、是非ご鑑賞下さい。





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