ボクちゃんの戦場 (1985年)

少年映画評価 5点
作品総合評価 5点
少年の出番 100%
お薦めポイント もう一つの「少年時代」
映画情報など 1985年公開/VHSビデオ絶版
(写真は、主役の車木貴典君)


戦争中の疎開児童を描いた作品は数多くあります。日本だけでなく、同じように疎開があったイギリスでも作られています。代表的なものが「少年時代」(1990年、篠田正浩監督)ではと思います。

大阪の学童疎開を舞台にした本作品の事は知っていましたが、見る機会に恵まれませんでした。今回、本サイト客員のノースエンド先生から録画をお借りすることができ、ようやく鑑賞。暗い作品です。(他に類似作品として「赤錆色の空を見た」という作品を見ましたが、データがありません。)

少年時代(1990年)を彷彿とさせるシーン。本作品は1985年。こちらが元祖ですね。
■ストーリー

大阪市内の国民学校4年生、源久志(車木貴典君)が主人公。戦局が悪化した昭和19年、久志たち4年生は島根県へ疎開した。疎開先で久志は級長を命じられ、児童たちは3班に分けられ、厳しい集団生活が始まった。

久志は級長だったが、実質的には、ガキ大将(ガキ大将というよりヤクザそのもの)が実権を握り、暴力で児童を支配し、久志はどんどん追い込まれていく。その久志を救ったのは、親友の朝比奈の存在だった。

昭和20年になり大阪に大空襲が始まった。大阪に残った家族が被災したとの報せが入り始める。毎日の生活と苛めや抗争?に疲れ、母の被災を知った久志は、疎開先を脱走し、大阪へ戻ることを決意する。仲間の協力で無事に脱走し、大阪へ戻った久志の目に映ったものは。

■まるで「兵隊やくざ」の世界

少年が主人公の映画なのですが、どうしても目をそむけたくなるシーンの連続。それは暴力のシーン。教師や大人から暴力を受けるのなら、まだマシですが、少年同志の暴力。

戦時下ですから、児童の団体生活も、まるで軍隊の内務班(戦記を読むと出てきます。悲惨な組織単位)のようなのは理解できます。その組織とは別に、ヤクザのような子供が、暴力で他の子供を支配する弱肉強食の世界が繰り広げられます。

弱い子供は毎日怯えながらの生活。強い子供だって、いつ誰に闇討ちされるかも判らないので、安穏とは出来ません。これは、仏教でいう地獄の中の「修羅道」そのもの。

このヤクザのようなガキ大将と、その取り巻きの子分は、これまた本当に醜悪な顔をしているのです。よくもこんなに嫌な子役を集めてきたもんだ、と感心します。(子役の方、すみません。それもこれも、演技力の高さが為せるもので、本当はもっといい顔をした子役さんだろうと思います)

しかし「少年時代」もそうでしたけれど、苛めや抗争など、暴力シーン抜きに、子供時代の話を作ることは出来ないのでしょうか。反戦とか言う前に、子供同志の暴力沙汰だけで食傷気味になります。

辛い疎開生活。親友がいるから耐えられた
見る夢はいつも同じ。大阪の母の元へ帰ること

■少年俳優について

映画は、主役を演じた車木貴典さん(多分、この方だと思うのですが確信は持てません)のナレーションやモノローグで進行します。優等生だけれど線が細く、華奢な感じは「少年時代」の藤田哲也さんとも共通します。全編モノクロでの撮影ですので、どうしても古臭くて、藤田さんに比べると、地味に見えてしまうのが、可哀想といえば可哀想。(一部、母のシーンだけはカラー撮影)

一方、大阪の母親を演じたのは藤田弓子さん。東京生まれの藤田弓子さんが、大阪のお母ちゃんを演じるのは、1981年の「泥の河」と同じです。「泥の河」と同じように入浴シーンがありますが、これは久志が見た夢でした。結局、久志はお母さんと一緒にお風呂に入る夢は、二度と叶うことはありませんでした。

ラストシーンはやや尻切れトンボの感も。悲惨な結末をあえて描かず、観た人の心に余韻を残そうとしたのでしょう。全体的に、ちょっともの足りません。「少年時代」のような感動が欲しかったというのが本音です。しかしそれでも、このような作品は、今の時代こそ見て欲しいものの一つだと思います。

■補足

本作品が公開された頃、関西のローカルテレビで、映画ロケの様子を伝えたドキュメンタリーがありました。何の番組か全く覚えていませんが、2分くらいの録画カットが残っていましたので、ご参考までに。

真夏の太陽の下、竹槍で藁人形を突くシーンのリハーサル風景。
(映画とは違い、野球帽にジョギングパンツですので、誰が誰やら判りません。)




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