夏時間の大人たち (1997年)

少年映画評価 5点
作品総合評価 5点
少年の出番 90%(主役ですが・・)
お薦めポイント 鉄棒、逆上り、小学校の思い出。
映画情報など 1997年公開/DVD発売中


映画「下妻物語」「嫌われ松子の一生」「パコと魔法の絵本」「告白」などのヒット作品で、今や売れっ子になられた中島哲也監督の初長編映画が本作品とのこと。よく知りませんでしたが、赤い帽子をかぶった体操服の男の子のイラストが素敵なので、ついDVDを買ってしまいました。

■ストーリー

小学4年生のタカシ(日高圭智君)は、鉄棒の逆上りが出来ない。逆上りが何の役に立つのか判らないが、先生に「逆上りから逃げるヤツは、大人になっても、人生から逃げるダメ人間」と脅される。

クラスの中で逆上りの出来ない5人の生徒は、放課後に特訓することになった。でもタカシは乗り気になれない。だって「ちゃんとした大人になる」って言ったって。町の電気店を営むタカシの父は、交通事故にあってから、なんの仕事もせずに、2階の部屋の窓辺に座って、外を眺めるだけ。まるで廃人だ。

母も若いだけで、何のとりえもない。父がクレヨンで絵を描いた。タカシが「これ何」と聞くと、小学生時代のエピソードを話してくれた。妹が落書きした絵が賞を貰ったんだって。自分で努力とかしたって関係ない。虚しい話だ。

母も、おばあちゃんの話をしてくれた。子供のころ、母(タカシにとって祖母)は病気でいつも寝ていて、手が冷たくて「ヘビ女」(楳図かずおさんの少女恐怖漫画)だと思っていたんだって。これも虚しい話だった。

ある日突然、父は女子高生とカラオケボックスに閉じこもった。窓から見える空地で、いつもリンチにあっていた女子高生だった。しかし母が血相を変えてカラオケボックスの扉を壊し、父を連れて帰った。ああ虚しい。

さて、逆上り。一人出来き、また一人出来るようになり、タカシとクラス一番の美少女だけが残った。タカシは美少女に声をかけるが「ふん!あんたなんかと一緒にしないでよ」と嫌悪感を隠さない。そして遂に、美少女も逆上りが出来た。そして体育の時間、先生の前で順番にテストされる事になった。タカシはピンチ。しかし意外な結末を迎えることになる。

逆上がりは少年時代の関門!
■形は少年映画。でも実は女性を描いた映画

主人公のタカシ少年の目線で話が進行することは確かなのですが、映画が描くのは少年ではなく、どちらかといえば女性。この映画では、数多くの女性が登場します。母、少女時代の母、夏子という親戚の娘、伯母、クラスの美少女、苛めに合う女子高生。

後年、下妻物語、嫌われ松子、などを監督されるように、やはり中島監督は、女性を撮りたい人なのだ、と改めて感じました。そんな中で主役を演じた日高圭智君。どこにでもいる普通の小学生ですが、この難しい監督の要求に、よく応えていたと思います。

ただ少年映画の主人公と言うには、存在感が薄くなったのは仕方ありません。男性陣の中では、父役を演じた岸部一徳さん「存在感の無い演技」の存在感は大したものですが、やはり女性陣に比べると印象の薄さは否めません。

■今は無き佐原市。この気だるさ、ゆるさが似合う町

映画の中に登場する町、佐原という地名が出てきます。千葉県の東北部にあった町ですが、2006年の平成の大合併で、周辺の町と合併して、香取市になったとのこと。残念ながら佐原には行ったことがありませんが、映画の中の風景を見ているだけで、何となく想像できます。

フィルムの色も、コダック独特の黄色がかかった色調です。私はその昔、カメラマニアで、ネガなんか使わずに、ポジフィルム専門でした。中でもコダックのコダクロームが暖かい発色で、よく使いました。(富士フィルムのベルビアが出るまでは)

この風景。他の映画でも見たような気がします

映画のタイトルに「夏」という言葉があるせいでしょうか、町も、登場人物も、映画も、気だるく、ゆるく感じてしまいます。その雰囲気を良しとする人には、いい作品だと思います。そうでない人には眠いだけかもしれません。

正直に言って、少年映画としての評価は、私としては高くはありません。この中島監督に少年映画を期待しても仕方がないと考えます。

しかし、この関東のローカルな町の雰囲気、小学生時代の思い出。そんな雰囲気は印象に残ります。そういう意味では、後世に残す作品の一つであると確信しています。





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