single (2006年)
少年映画評価 |
7点 |
作品総合評価 |
6点 |
少年の出番 |
80%(準主役) |
お薦めポイント |
息子の存在を知った父の戸惑い |
映画情報など |
2006年公開/DVD発売中 |
■2006年度PFF観客賞(東京)受賞作品
数々の実力派若手監督を生み出してきたPFF(ぴあフィルムフェスティバル)の入賞作品。お金はなくとも、きちんとした脚本があれば素晴らしい作品になるという見本のような61分の中篇映画。
■ストーリー
主人公は小さな広告代理店に勤める今井路夫。彼は35歳の独身。の筈だったが、ある日、学生時代の恋人が亡くなり、彼女の遺族から驚くべき告白を受ける。彼女には中学生になる私生児がおり、なんとその子は路夫の息子であると告白され、しかも路夫に引き取るように言われる。
あまりの事に戸惑いながらも路夫は、まだ見ぬ息子を引き取ることになり、その日から狭いアパートで奇妙な2人の生活が始る。息子、圭介は中学2年生。思春期、反抗期の真っ只中であるが、感情を表に出さず、淡々と父親と接する。しかし当然ながら2人の息は合わず、重苦しい空気が流れていく。
ところがある日、圭介が中学校でトラブルを起こし、父の路夫が学校へ呼び出しをくらう。最初は迷惑顔の路夫だったが、圭介が不当な扱いを受けている事を知り、父性が目覚め、圭介をかばうため学校側と対峙する。そんな父親の姿に、頑なだった圭介も徐々に心を開いていく。
■地に足の着いた脚本力
出演者は父と息子役のほぼ2人だけ。演じるのは無名の俳優さんです。(キャスト名はあるのですが、誰がどの配役か確定できませんので、ここでは記載していません。)
無名とはいえ、その演技力は立派でした。観ているうちに父役は香川照之さんのように見えてきました。(もちろん顔が似ているのではなく、その演技の存在感が。)
監督・脚本は中江和仁氏。ほぼ学生さんと言っていい超若手監督ですが、脚本は奇をてらう事なく、ストレートなホームドラマのような内容ながら微妙な2人の空気感の描き方が、ベテラン顔負けの上手さです。
学生映画というと、シュール、ナンセンス、映像表現主体のものが多い中で、こんな題材をよく選んだものだと感心しています。脚本で感心したのが、60分という短い時間で、息子との出会い、戸惑い、気まずさ、トラブル、学校との対峙、息子との信頼関係、こんな流れが、素晴らしいテンポで進んでいくことです。
見終わった時は、まるで2時間近い作品を見たような充実感でした。圭介が生まれて15年間、父の路夫はその存在すら知らなかった。そんな2人が簡単に「父子」にはなれないけれど、最後のシーンでは、失われた15年間がぐーっと短くなっていくような、しみじみした感動の予感が喚起されています。
お金がなくても、上映時間の制約があっても、キャストやエピソードを絞れば、こんな立派な映画が出来るという見本のような作品です。プロの監督さん、プロデューサーの皆さん、少しはこの作品を観て勉強して欲しいものです。
■その他、補足
この映画を観たのは、旅行先の広島。ホームページで何か時間つぶしはないかと探していると、広島市映像文化ライブラリーで上映会をやっているとの事。自販機で370円の入場券を買い、数名の観客とともに鑑賞しましたが、本当にオトクな1日でした。