ワーキング・ホリデー (2012年)
少年映画評価 |
6点 |
作品総合評価 |
4点 |
少年の出番 |
100%(主役の一人) |
お薦めポイント |
頼りになる、健気な息子役を演じた林遼威君。 |
映画情報など |
2012年公開/DVD発売中 |
2012年11月17日、梅田ブルク7(大阪)にて鑑賞。
坂木司さんの原作小説を読み、そして映画化されると聞いてから、ずっと待っていた作品です。今年の初春に沖縄映画祭で上映されるとの事で、真剣に沖縄へ行こうかと悩んだものでした。(結局、財政難のため、断念しましたが)
■ストーリー
新宿・歌舞伎町のホストクラブで働く沖田(AKIRAさん)のもとへ、ある日突然、進と名乗る少年(林遼威君)がやって来た。「あなたの息子です」突然の事で当惑する沖田。さっさと追い帰そうとするが、進は帰らない。部屋に居ついてしまった。まるで座敷童子のように。
しかしこの息子、男の子なのに掃除、洗濯、料理の名人ときた。しかたなく、息子との同居生活に突入する事になった。そんな時、沖田はホストクラブをクビになり、クラブのママ(ゴリさん)の強引な紹介で宅配便の配達員に転職。ここからドタバタ劇が始まった。
慣れない配達の仕事にキレかかる沖田。そんな沖田を救ったのが、進だった。2人のコンビで次第に配達の仕事にもやりがいを見出していく。ハネムーンのような父子の生活にも終りがきた。春休みの終り、進は母の家に帰っていった。沖田の11年前の恋人の家へ。
■タイトル前の、映画製作社のロゴの持つ意味
映画のタイトルの前に、YTV(大阪読売テレビ)と吉本興業のロゴマークが。これでもう映画の出来は読めてしまいました。これは、大きな期待をしてはダメ、というサインのマークです。
おかげ様で、期待のボーダーラインを思いっきり下げて映画に臨みましたので、それなりに楽しめました。主演のAKIRAさんの演技も、前半は素人臭くて見れなかったのですが、だんだんと良くなってきて、終盤の熱演には拍手を贈りたいくらいです。
お前は座敷わらしか!
しかし何といっても林遼威君に尽きます。吉本興業のタレントなど、役者が本業でない出演者の中で、子どもなのに一番しっかり演技が出来ているようにさえ思いました。
実は原作を読んだ時のイメージでは、林君ではなく、濱田龍臣君のようなルックスの少年俳優を想像していました。でも本作では、林君で正解だったと思います。11歳というには少し幼い感じもしましたが。
とにかくセリフがしっかりしているので、演技に安定感があります。表情や動作なんかは、それなりに撮影の仕方次第で何とかなるのですが、セリフに心がこもるのは、天性のものが必要かもしれませんね。
■好きな小説でも、映画化は考えものです。
せっかく映画化してくれたのですから、関係者の皆様には大変感謝しています。でもその反面、小説の濃密なストーリーを2時間足らずで表現することが本当に困難な事を改めて認識しました。今年のもう一つの期待の星だった「HOME 愛しの座敷わらし」もそうでした。
原作ものでも、監督や脚本家が、その作品をしっかり読み、掘下げて、そして映画として別の形の完成品に仕上げてくれないといけません。往年の名監督の作品はそうでした。そのため原作者からクレームが来る事も多々あったようですが、そのくらいの真剣さがあるので、映画も見応えがありました。
でも最近のシネコンやテレビ局映画は企画オンリー。適当に雇われ監督、名前だけの監督で、適当に脚本を書いているとしか思えません。(もちろん、そうでない方も多くおられますが。)
でも、やはり映画監督はオリジナル脚本で勝負すべきと思います。それが出来るのは、サラリーマン監督ではなく、映画学校や芸大を出たばかりの若手だけなのでしょうか。
本作と同じパターンで、映画「single」という作品があります。中年男の前に、いきなり中学生の息子がやって来るという60分の中篇。でも映画を見た後の満足感は、この素朴な作品の方が数段上でした。
少し辛めの感想ですが、「ワーキング・ホリデー」も「愛しの座敷わらし」もそれぞれ坂木司さん、荻原浩さんの小説の世界だけを覚えておきたいと思います。もちろん映画も十分楽しめましたけれど。