せんせい (1983年)
作品総合評価 |
5点 |
少年の出番 |
30% |
寸評 |
じわじわと迫る原爆の恐怖。 【少年映画でない理由】出番が少ない |
映画情報など |
1983年製作。DVD等未発売。 |
2012年11月10日、ピースおおさか(大阪)にて鑑賞。映画館ではありません。大阪国際平和センターという、戦争と平和に関する資料を集めたミュージアム。ここでウィークエンドシネマとして月2回、無料映画上映会が開かれています。入館料250円は必要ですけれど。
以前は子供向けのアニメが多かったのですが、最近は結構メジャーな映画もかかったりして、チェックしていましたが、映画のポスターを見て、これは見なくちゃと思った訳です。
■ストーリー
昭和47年、長崎県の五島列島から信彦(宮崎靖雅君)は妹と2人でフェリーに乗り、長崎郊外の田舎へやってきた。母が亡くなり、父は大阪へ単身赴任のため、祖母の家で暮すことになったのだ。同じ船にライダースーツに身を固め、バイクに乗った女性がいたが、兄妹は不良女?と思って近寄らなかった。
転校先の小学校。同じ日に新しい先生も赴任。なんとあのバイクの不良女が山口竹子先生(五十嵐めぐみさん)だった。しかし竹子先生は素晴らしい先生で、その魅力に兄妹をはじめ、クラス全員が虜になり、活き活きとした授業が始まった。
夏休みを前にしたある日、竹子先生は貧血を起して倒れた。大した事はなかったが、大学病院で検査することになった。結局、竹子先生は学校に戻ってくることは無かった。白血病。竹子先生は直接の被爆者ではないが、幼児の時、母に連れられて被爆直後の長崎を歩いたのだ。父を探して。
竹子先生は教室で授業をすることは出来なくなったが、彼女の本当に授業はここから始まる。病床に次々とお見舞いにやってくる信彦や生徒たち。竹子先生は自分の身をもって原爆や戦争の恐ろしさを子供たちに伝える。最後、自らの臨終の瞬間さえも、子供たちにその姿を目に焼きつけさせたのだった。
■竹子先生を演じた、五十嵐めぐみさんはアカデミー賞に匹敵!
こぶしプロなどで、数々の児童映画を作ってこられた大澤豊監督作品。なのでハズレはありません。本作品は児童映画の形をとっていますが、原爆後遺症で倒れる女性教師の壮絶な生き方を描いています。
特に五十嵐めぐみさん、ヘルメットに革ジャン、ジーンズ、ブーツ。男のようなファッションで登場しましたが、身体から滲み出る聖母のような優しさと強さ。そして最後に死を迎える瞬間の苦悶の演技。小麦色の健康的な肌の女優さんですから、病魔でやつれたメイクも大変だったことでしょう。
■学校の描写はやや甘い、しかし原爆の描写は本当に厳しい
映画のポスターから
前半、竹子先生がクラスの子供達に溶け込んでいく。これはキレイ事過ぎるだろう、こんなにうまく行く訳はないな、やや甘いなあ、なんて思いながら見ていました。
しかし原爆被害になると強烈になります。まず結婚と出産への危惧。竹子先生は被爆の負い目から独身を貫くようですが、同じく境遇の妹は結婚しました。
しかも姉の反対を押し切って出産。姉の臨終の時、妹は赤ん坊を見せて泣き崩れます。「お姉ちゃんにこの元気な赤ちゃんを見て欲しかった」
更に追い打ちパンチ。10年後、大人になった信彦と妹が竹子先生のお墓参りに来ます。その時、竹子先生の妹もやってきました。「生徒の皆さんに姉はお世話になりました」そう言いながら小さな骨壷を供えます。
「私の息子です。たった10年しか生きられませんでした」
ここまでやるか!ここまで原爆の被害が続いていくのか。あの赤ちゃんまで。これは児童映画か?これを見た少年少女はトラウマになりはしないか・・
■おわりに
原爆という大きなテーマに圧倒されましたので、少年俳優の事が小さくなってしまいました。準主役の演じた宮崎靖雅さん、妹がわりと美少女なのに比べると、ルックス的には普通ですが、意思の強い目、きりっと結んだ口元。なかなか立派な演技でした。
同じく広島の原爆を描いた井伏鱒二氏原作の映画「黒い雨」。この作品で数々の主演女優賞を独占した田中好子さん(故人・本当に惜しい方でした)にも決して負けない演技だったと思います。このようなマイナーな作品こそDVDにして多くの方に見て欲しいのですが、なかなか社会はうまくいかないものですね。