オイディプスの刃 (1986年)

作品総合評価 7点
少年の出番 30%(高齢ですが前半主役)
寸評 日本刀の妖しさとエロス。奥が深い
【少年映画でない理由】年齢オーバー
映画情報など 1986年公開。DVD発売中。


もう四半世紀以上昔の作品です。リバイバル上映を映画館で見たのですが、疲れていたせいで、ほぼ6割方眠ってしまい、殆ど覚えていませんでした。往年の名子役だった松田洋治さんが気になり、今回はDVDで鑑賞。見事リベンジできました。

妖刀を手にすると悲劇が。弟は何を斬ろうと
■ストーリー

別荘のような超豪邸。刀剣家の大浜耿平(田村高廣さん)には3人の息子がいた。しかし長男は亡き先妻の子、次男は現在の妻の連れ子、三男は妻との間で生まれた子、と一筋縄ではいかない家族だった。

複雑な人物構成であるが、物語は次男の駿介(松田洋治君)の目で進行する。兄弟の中で唯一、父と血縁がない事もあり、母への思いが異常に強くなってしまった。

ある日、父は名刀「次吉」を入手。これが家族崩壊の始まり。父は研ぎ師に刀を任せるが、この研ぎ師は母と不倫関係にある男だった。その不倫現場を見てしまった駿介。そして悲劇が起った。研ぎ師が名刀で斬殺され、それを見た母はその刀で自殺。兄弟の誰かが犯人と知った父までもが、その刀で切腹自殺したのだ。

葬儀の後、血縁の無い次男、駿介は大浜家を出ることになった。しかし駿介を慕う三男の剛生も兄を追って家を出たが、結局、行方不明になってしまった。年月が流れ、長男は調香師であった母の遺志を継いで香水の研究員に。駿介は荒んだ時期もあったが、京都でバーを開店しマスターに。

そして長らく行方不明だった三男が現れた。フランスで修行した実力ある香水開発者となって。この実力に嫉妬した長男は三男を殺害してしまった。三男は死の間際に駿介を呼び、全てを打ち明ける。「研ぎ師を斬ったのは兄ちゃんなんだよ」あの刀「次吉」は人の心を奪う妖刀で、その魔力に憑かれた駿介は、全ての記憶を失っていたのだった。

折しも惨劇の因となった刀「次吉」は、また駿介の手元に戻ってきていた。「次吉」を抜き放ち、駿介は死を決意した。その前に過去の清算だ。

■赤江瀑氏の耽美的世界
ジョギングパンツは当時流行

原作は赤江瀑氏の同名小説。角川文学賞を受賞し、そのまま角川映画での映画化です(ちょっと角川事務所の戦略っぽい気もしますが)。当時の角川は横溝正史シリーズなど、角川文庫とタイアップして、やや暗いミステリアス系の作品を作っていましたので、その一環かもしれません。

ただミステリー要素があると言ってもかなり文学的で、いわゆるエンターテイメントとは異なります。難解かもしれません。観客側にある程度努力を要します。最近のテレビや大手映画会社が作る頭カラッポ系に慣れた観客には絶対に受けないだろうと思います。

妖しい刀に魅せられるに人間たち。男と女。兄弟間の愛情と確執。人間ドラマとしてはかなり複雑でした。エロスも赤裸々でした。品のいい良家のご婦人が自慰行為に耽るシーン。それを見てしまった少年。更には直接的には描かれていませんが同性愛の雰囲気も色濃く描かれています。

このような文芸映画でも、かつては興業は成り立っていたのですね。他に娯楽が少なかったとはいえ、昭和の時代の大衆は、そういう意味では知的レベル?が高かったのでしょう。今のシネコンを見ていると、だんだんカラッポの人ばかりが増えてきたのでしょうか。

■松田洋治さんと少年俳優たち

本作品を鑑賞する目的は、最初にも書きましたように松田洋治さんの演技を確認する事でした。この作品では高校生を演じていますが、当時もう19歳くらいですから青年です。でもちょっとした表情の中に、人気子役だった頃のあどけなさも残っています。

ちょっと厚ぼったくて、ツンととんがらせた唇は子役の頃から変らず。少し安心しました。特に目立つような演技はありませんでしたが安定感は抜群。14歳の弟を演じた少年俳優も熱演でしたが、セリフを聞くと素人ぽさが目立ちます。何気ない演技でも松田洋治さんの積年のキャリアを改めて感じました。

主役の駿介を演じた役者さんは4人。幼年期、小学生、高校生(松田洋治さん)、成人後は古尾谷雅人さん(残念ながら故人)。でも全員が全く似ていないのです。松田洋治さんの唇の印象が強いからかもしれませんが。

幼い子役や14歳の弟を演じた少年俳優の氏名は判りません。成人した弟は美形俳優の京本政樹さんが演じています。でも出身を隠すため、顔も整形したとの設定でした。

父の斬殺。誰が犯人なのか、悩む兄弟
煩悶する松田洋治さん。まだ少年っぽい表情

■終りに

映画館で見るよりもDVDで見た方がよく理解できた映画でした。非常に声が小さくてセリフの聞こえにくい場面もありましたが、ヘッドフォンを装着してようやく聞き取れました。

同じような印象の作品に「赤目四十八瀧心中未遂」がありましたが、このような文芸映画もたまには見て下さい。こんな映画でも観客が入るような日本に戻って欲しいものです。





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