■八月の狂詩曲 (1991年)

作品総合評価 7点
少年の出番 70%(4人の孫の中で1番印象的)
寸評 淡々とした物語ですが、長崎の悲劇が心に迫ります
【少年映画でない理由】主題が少年ではない
映画情報など 1991年制作。DVD発売中。写真は伊崎充則君


巨匠、黒澤明監督の晩年の作品です。黒澤監督作品の中では、非常に評価が低いこともあり、なぜかこれまで見ませんでした。今年(2015年)になって、BS日本映画専門チャンネルで、黒澤作品を一挙に放送しており、やっと鑑賞することができました。

確かに名作「生きる」や「七人の侍」のようなストーリーのキレはありません。米国俳優のリチャード・ギアさんの扱いや、長崎の原爆についても掘り下げが浅い感じもします。でも、この淡々とした映画は、私には非常に波長が合いました。もっと早く見ておけばよかったと後悔しています。

主人公の祖母を思う孫の少年の気持ち
■ストーリー

1990年の夏休み、長崎に住む老女カネ(村瀬幸子さん)の家に、2組の孫が泊まりに来た。縦男(吉岡秀隆さん)、みな子の兄妹と、たみ、信次郎(伊崎充則君)の姉弟の4人。

カネに手紙が来た。カネの兄でハワイに渡った錫二郎が不治の病になり、死ぬ前にカネに会いたいので、ハワイへ来て欲しい。しかしカネは気が乗らない。兄弟が10数人もいたので、錫二郎のことなんか覚えていないというのだ。

4人の孫はハワイへ行こうとカネを説得する。その中で、カネの夫(4人の祖父)の話を初めて聞いた。原爆で亡くなったのだ。4人は長崎の町を歩き、祖父の死んだ場所を訪れる。そんな時、ハワイから、錫二郎がハワイで米国人と結婚して出来た息子のクラーク(リチャード・ギアさん)が日本へやって来た。

父が原爆で亡くなった事を知り、米国人であるクラークはまた別のショックを受ける。クラークは祖母のカネに謝罪する。カネはそれを受け入れた。しかしハワイの錫二郎の訃報が届きクラークはハワイへ戻った。兄の死に目に会うことの出来なかったカネは。

■長崎の悲劇。老女の大きな存在感

広島を描いた小説、映画、漫画に比べると、長崎はやや少ないような気がします。原爆の悲劇は同じです。本作品は多くの方が被爆した小学校やモニュメント、慰霊のシーンはありますが、原爆で亡くなった方を直接描いてはいませんので、表現は弱いかもしれません。

しかし、遺族である老女カネの一挙手一投足に、なんとも言えない悲劇や思想が込められているように思います。これは演じた村瀬幸子さんの素晴らしさですね。まあ映画の中の「おばあちゃん」というのは、どんな場合でも好意的に見えてしまうものですけれど。

高台から長崎の街を見下ろす
おばあちゃんのカネと孫たち

■やっぱり黒澤作品でした

どんな監督や作家も、若い新進気鋭の時に比べると、老年期は鈍ってくるように思います(例外はあれど)。単純に面白い作品はつくれず、観念的、お説教じみてきて「ああこの人も終りかな」なんて失礼なことを思ってしまうものです。

でも、ジェットコースターのような娯楽映画ではなく、しっとり淡々とした本作品は、私は好きです。少年俳優も出ていますし。ただ最後のシーン。暴風雨の中、おかしくなった老女カネが、傘を飛ばされながら走ります。4人の孫たちも。泥道に何度も倒れながら。これはまるで往年の「七人の侍」「蜘蛛巣城」など合戦の世界でした。やっぱり黒澤映画です。

■少年俳優 伊崎充則さん

さて最後は少年俳優の伊崎充則さんについて。4人の孫を演じた俳優さんの中では、大学生役の吉岡秀隆さんがリーダー的な存在でしたが、1番年下の伊崎充則君が、やはり印象に残りました。もちろん私が少年映画ファンで、その欲目があるのは確かです。

でも客観的にみて、4人の孫の中では、伊崎充則さんがキーマンだったと思います。当時、伊崎充則君は幼いながらもTVの視聴率男と言われ、彼の出演するドラマは必ずヒットしたようです。黒澤作品には、この前年1990年の「夢」にも出演しており、子役としては黒澤監督に気に入られたのだろうと思います。

リチャード・ギアさんと
河童に化けて見事な側転!





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