蒸発旅日記 (2003年)

作品総合評価 6点
少年の出番 5%(幻の美少年?)
寸評 つげ義春&寺山修司の幻想映画
【少年映画でない理由】出番が少ない
映画情報など 2003年公開/DVD発売済


漫画家 つげ義春氏のエッセー作品を映画化したものです。ひなびた四畳半や温泉安宿が舞台の、独特の厭世的な世界観を持つ、つげ義春氏。その世界を幻想風に再現しており、雰囲気は十分でした。

■ストーリー

漫画家の津部義秩(銀座吟八さん)は、執筆に行き詰まっていた。ある日、津部は思い立って、彼のファンだという女性・須藤静子(秋桜子さん)の住む田舎へ行き、彼女と結婚しようと考える。実は、津部は静子の顔も知らない。手紙を貰っただけであるが、そんな相手と結婚しようと思うほど行き詰っており、全財産を持って東京を出発する。

途中の列車の中で、変な女性に誘惑されながらも、津部は静子の住む町にやって来た。津部の投宿した旅館で、初めて会った静子は、思ったよりも明るい女性だった。津部は、もっと暗い女性が好みだったが、それでも夜を一緒に過ごしましょうとプロポーズするが、彼女は看護婦をしており「今は無理ですが来週には必ず来ます」と言って去ってしまう。

津部は、一週間待つのも手持ち無沙汰なので、旅行に出るが、その間、変な人間ばかりと出会う。自分の墓石を探し続ける老人(田村高廣さん)、精神病の男、ストリッパーなど。その後、ストーリーは支離滅裂となり、何が何かわからなくなっていく。

■不思議な美少年、七海遥君

さて、この映画ですが、ストーリー展開上は、全く少年は出ていません。ただ、主人公の津部が泊まった旅館の風呂場に、まるで亡霊か座敷童子のように少年が出現します。それが七海遥(ななみ はるか)君です。

全裸で、しかも超美少年です!ただ、彼の存在に何の意味があるのか、全くわかりません。主人公をはじめ、誰も少年の存在に気がつかないようなのです。セリフもなく、出番は一瞬で、ただ亡霊か妖精みたいな存在でしたが、非情に印象に残りました。

■山田勇男監督の嗜好

ネットで山田監督を検索すると、あるサイトが見つかりました。リンク切れが大半で、残骸だけが残っている感じで、あまり情報は無いのですが、次のフレーズが目に止りました。「寺山修司に師事し、稲垣足穂と宮沢賢治をこよなく愛する」

なんとなく「蒸発旅日記」の妖精少年の持つ意味が判ったような気がします。少年性というものに夢を持っておられるのでしょうか。ただ、よくサイトを観てみると追求されているのは「少年性」であって、実体の少年ではないようなのが残念です。(どちらかというと少年性を持った女性を追及されているようです)

「少年天使」という劇団?を後援されているようですが、女性だけの世界で、ちょっと私はついていけない世界です。あと主役を演じた俳優さんですが、銀座吟八(ぎんざ ぎんぱち)さん、秋桜子(こすもすこ)さん、全く知らない方です。少しふざけた芸名から、どこかの劇団員なのでしょうか。

■つげ義春氏ではなく、寺山修司氏の世界
七海遥君のポストカードセットから
(上の写真も)

山田監督は、寺山修司原作の映画「田園に死す」にも参画されていたという情報を知り、違和感の原因がつかめました。つげ義春氏の漫画の世界ではなく、寺山修司氏の小説のシュールレアリズム的な世界を映画化したのでしょうか。

寺山作品は、初期の短編や8ミリなど、いくつか観ましたが、私には理解困難です。また、この作品の美術監督は木村威夫氏。昨年公開の「馬頭琴夜想曲」の監督さんです。

この映画でも、少年が印象的な役を演じていましたが、山田監督と共通するところがあったのかもしれません。最近のメジャー映画では、少年性を追及するような作品は無くなってしまいましたが、このようなアングラの世界では、少年映画が健在なのは、嬉しいことです。

■(おまけ)七海遥君のポストカードセット

さて2003年、映画「蒸発旅日記」公開を記念して、山田監督や寺山修司作品の初期短編フィルムの上映イベントが神戸で開催され、その1つのプログラムを鑑賞しました。そのフィルムはどれも、映像が不鮮明で、かつ、少年ではなく女性が演じていたものばかりでしたので、少し失望しました。

ただ、その会場で、七海遥君のポートレイトを5枚組みのポストカードにして販売しており、それを購入できたのは、幸運でした。高遠瑛さんという写真家の方の作品ですが、ホームページなどはもう無くなっているようです。






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