作品総合評価 |
6点 |
少年の出番 |
約95%(主役ですが・・) |
寸評 |
少年はいつも少女に振り回される存在なのです。 【少年映画でない理由】年齢オーバー |
映画情報など |
2015年公開。DVD等発売予定なし。 (写真は萩原利久君。) |
和歌山県の田辺市で「田辺・弁慶映画祭」という映画祭がある事は全く知りませんでした。映画祭のPRも兼ねてだと思いますが「第9回(2015年)田辺・弁慶映画祭セレクション」が東京と大阪でレイトショーで公開されるとの記事をネットで見つけました。(某Aさんのツイッターで情報取得。Aさんに感謝です)
その中に萩原利久君主演の「INNOCENT15」があり、大阪では2016年7月5日,6日の2日間だけ上映されるとの事で、夜遅い時間でしたが、3日前にネットで座席を予約。なんと座席予約者ゼロで、私が1番乗り。ひょっとして1人しかいなかったりして、と思いながら映画館へ向かいました。
15歳の成美と銀。この気だるくて危うい雰囲気
■ストーリー
舞台はある地方都市。中学3年生の岩崎銀(萩原利久君)は父と二人暮らし。母は銀の生後間もなく亡くなったそうだ。父はビジネス旅館を経営しているが、地方都市の疲弊は厳しく、旅館は寂れるばかり。
ある日、父の高校時代の同級生の男が泊りにきた。父と男は同じ同級生の通夜に出かけ、やがて戻ってきた。銀が「おかえり」とロビーへ下りてくると、父と男が抱擁中だった(ここは一部、推定が入っています)。
父は隠しもせず、男と一緒に銀に告白する「俺はこの人を愛しているんだ」。当然だが、銀は受け入れることが出来ない。「ゲイって遺伝するの?」きつい言葉を吐く。男が銀の肩に手を触れようとした瞬間、銀は持っていたバットで男を殴ってしまった。(銀は野球部で素振り練習中。バットはそれで持っていたんですよ。念のため)
一方、銀はクラスの美少女、成美(小川沙良さん)から「好きよ」と告白を受ける。男子生徒達から羨望の的になるが、銀はなぜか喜んでいない。「人を好きになる」ことがよく判らない。俺はやっぱりゲイだろうか。
成美は家庭で暴力を受けていた。母はお金のために成美をチンピラに売春させていたのだ。銀と成美が一緒にいる所を見たチンピラは怒り、銀に暴行を加えた。成美は「家出して東京へ行く」と告げる。銀は「俺も一緒に行く」そして二人は東京へ出ていったが。結局、夢破れて戻ってきた。
■利久君の変貌(成長)にびっくり
冒頭シーン。黒いニット帽を被った人相の悪い男が走っている。まさか、これがあの萩原利久君か?
バイオレンス映画に出演している柳楽優弥さんそっくり(柳楽さんすみません)。八重歯とエクボの可愛いかった少年が、たった2年ほどで、ここまで大人になるとは。
ニット帽を脱ぎ、前髪で額を隠すと、以前の面影(アヒル口など)が残っていますので、少し安心しました。でも、もう完全に大人になってしまった、そんな印象です。少年映画と呼ぶにはきついかな。
■結局、少女に振り回されただけの少年。
さて映画ですが、後で述べます甲斐監督の「意気込み」とは裏腹に既視感の多い作品でした。少年が主体性のないままロードムービーに巻き込まれるのは、「あかぼし」などと同じ。少年はモヤモヤするだけで、自分から動くことは無い、そんな少年像には飽きてしまいました。(「ぼくも行く」という従属的少年は、年老いて何もする事がなく奥さんの後を追う「ワシも」族になるしかないのでしょう)
少女の方が積極的いや打算的です。少年に告白して自分の家出に巻き込み、教会で思わせぶりな態度で挑発しながら、少年がキスをしようとすると、いきなり豹変して、夜の街をさまよい歩きます。少年は後からついていくだけ。(このシーン。2015年の大阪N市事件の防犯カメラ映像を思い出して心が苦しくなりました)
ネタバレになりますので、詳細は述べませんが、ラストシーン。少年と少女は無免許でバイクに乗って疾走しますが、その先は破滅しか見えません。希望の光なんて見えないのです。
少女の後ろをトボトボ歩く
バイクで破滅へ向かって爆進。この表情はすごい
■甲斐監督の舞台挨拶。
さて7月6日、シネリーブル梅田での上映終了後、本作品の甲斐博和監督の舞台挨拶がありました。6月のテアトル新宿でも2日間のレイトショーがあり、テアトル新宿始まって以来の超満員で立見もぎっしりだったとか。ここ大阪では10人ちょっと。監督さん、さぞかしヤル気が失せた事と思います。もう二度と大阪なんかで上映しないと思われたのではと危惧しています。
監督さんによると撮影期間は1週間の強行軍。昨年のカンヌ国際映画祭への出品を企んだそうですが落選。その後も国内映画祭に次々落選、ようやく田辺・弁慶映画祭で拾って貰い、審査員賞まで受賞。すごく意欲的な監督さんで、非常に好感が持てる方でした。
FAQである「主演俳優はどのように見つけたか」について。主役である小川沙良さんの事を熱っぽく語られました。オーディションの1番最初に登場した小川さんに「一目惚れ」してしまったとの事。一方の萩原利久君については、テンションも低く淡々と一言述べられただけ(少年俳優ファンとしてはガッカリ)。
5分程の挨拶が終わると、すぐに質問(ティーチイン)タイムに。観客は10数人しかいないので2,3人が質問した後は沈黙。すると、あろうことか監督から「そこの方」と当てられてしまいました。「私は男の子の方に感情移入して見ていたのですが、監督さんの話を聞いていますと、女の子の方が主役というか作品のモチーフになっているのでしょうか」(実際はアガってしまい、もっとたどたどしくしか喋れませんでしたけど)
監督さんの回答は「映画の主役はあくまで男の子です。ただ女の子の方が華やかなので、どうしてもそちらに話題が向きます」との事でした。この回答で少し安心しました。でも映画の公式ツイッターの大半は小川さんの話題ですし、萩原利久君の影は薄いのは仕方ないですかね。
■さいごに
とにかく甲斐監督さんの人柄には本当に好感を持ちました。次回は素晴らしい作品を撮って欲しいと祈って止みません。その時の提言として、男の子でも女の子でも構いませんから、主役に全体の90%の力を注いで欲しい。モチーフをもっと深く掘り下げて欲しい。
本作品でいうなら、ゲイの父を持った息子。また寂れてしまったビジネス旅館。うまく撮れば本当に面白くて印象に残る題材だと思うんですけどね。女の子のエピソードが中途半端に強すぎて、最後に見終わった時に、どれもこれも少し印象がボヤけてしまいました。